俺だけがスキルポイントを振れる世界に感謝を

ソライユ

転生開始

人生とは何なのだろうか。人間には人それぞれの人生がある。


 会社で成功して大金持ちになったり、はたまた会社をクビになり職を失う人もいればそこから巻き返す人もいるだろう。


 日本にいれば安全に暮らせるだろうが、外国に行ったりしたらもっと治安の悪い国もあるだろう。


 日本でも運が悪ければテロに巻き込まれるかも知れない。


 実際、俺はテロにあったのだから。





 思い返せば俺こと、二階堂忍の人生はつまらない人生だった。


 中学、高校と普通の公立高校に通っていたし、大学にも通った。その後無事就職もできてサラリーマンデビュー。


 その半年後に会社の社長が賄賂容疑で逮捕。会社の信用も下がってすぐに倒産してしまった。


 その時点で俺の人生詰んでたのかも知れない。仕事が無くなってから三ヶ月はだらだらとした生活をしていた。働く気が起きなかったからだ。


 気が付けば職を失ってから半年が経過していた。そのころには俺はアニメにはまって、過去のアニメから最新のアニメを朝から夜中まで毎日鑑賞していた。


 更に一年が経過し、近くのアニメショップにアニメグッズを買いに行く途中だった。


 そこで俺は人生を変える事になってしまったのだ。






    ☆






 まさか実際に俺がテロに会うなんて思ってみなかった。


 こんなことなら昨日の晩御飯もっと美味いものを食べておけばよかったよ。まあ後悔してももう遅いんだけどね。


 死んだことはないけど、すでに腹部にナイフで数か所刺され、大量の血が流れているのが倒れた状態からでも見える。


 すでに意識は朦朧として、身体が熱くなっている。


 次第に考える事さえできなくなり、思考が停止した。


 それが僕、二階堂忍にとって最後の感覚になった。











「うぅ、こ、ここは……?」


 目が覚めると真っ白な部屋に仰向けに倒れていた。さっきまで痛みに襲われていた腹部も痛みが無く、来ていた服をめくって確認するも傷跡事無くなっていた。


 なんだここは? 確か死んだはずじゃ…… もしかして助かったのか? 


 その場から立ち上がり、周りを見渡す。周りには何も置かれておらず、ただ真っ白な部屋が存在するだけだった。


 それにしては何もないまっさらな部屋に患者を隔離しているのもおかしい。


 それにここにはドアが存在していない。


「どうも」


「へっ?」


 突然目の前に現れた女性の人。スタイル抜群で髪の色が銀髪だったのですぐに日本人じゃないのに気付いた。身長も175センチぐらいはあるだろうか。


 それにいつの間に僕の前に現れたんだ? さっきまでこの部屋には俺一人しかいなかったはずだけど。


 銀髪の女性はこちらを観察しているのか、こちらをみたまま微動だにしない。


 その状態のまま何分が経過しただろうか。


 一分だろうか? それとも十分ぐらい経っているだろうか。


 それ程までにこの空間では時間の流れが感じられなかった。


 更に時間が経過した頃、ようやく女性が動き出した。


「お待たせしました。ちょっと収集するのに時間がかかってしまいました」


「収集? いったい何を……」


 この女性は何者なんだ? 一体何を収集していたんだろうか。


 そもそもここはどこなのだろうか。


「ふふ、自分がどの様な状況に置かれているのか解らない顔をしていますね」


「ここはどこだ?」


 一番気になる疑問だ。ここにはドアが無い。完全に外から孤立している空間だ。


「天界とでも言っておきましょうか。ここは貴方がいた地球ではありません。貴方は記憶の通り、とある男性が起こした無差別テロによって殺されてしまいました」


 やっぱり死んだのか…… それに天界ってことはここは天国みたいな所かな。


 この後どうなるんだろうか。このまま消滅するのかな。


 不安そうな忍の表情を見て女性は答える。


「自己紹介がまだでしたね。私はミルと言って、ここ天界の転生人事部に勤めています」


「転生人事部? なんですか、それ?」


 ってか天界にも人事部とかあるんだな。もっと、メルヘンチックな場所かと思ってたけど。


「説明します。その前に立ち話ではなんなので、後ろの椅子にでもお座りください」


 後ろ? 椅子なんて置いてなかったと思うけど…… 


 ゆっくりと後ろを振り返る。


 するとそこにはさっきまで何も置かれていなかったはずなのに、高級そうな椅子が置かれていた。


「なんでもありなのか……」


 突然現れた椅子に躊躇いながらも座る。うん、座り心地もいい。


 ミルさんも僕が座ったのをみて椅子に座る。


「転生人事部というのは亡くなってしまった人を別の世界、いわゆる異世界に転生させたりします」


「異世界に? 地球に生まれ変わるんじゃ駄目なんですか?」


「はい。同じ場所に転生してはいけないと言う決まりですので」


 異世界転生っていうとあれか。


 主人公がもの凄いチート能力で異世界の敵をフルボッコにしちゃう奴。おまけに異世界の女の子たちとキャッキャウフフできてしまう夢のような奴。


  まあ、それは小説の中のお話であって実際には何の能力もない村人Aだろうけど。


 そもそも死んだ人は全員転生できるのだろうか?


「質問いいですか?」


「どうぞ」


「死んだ人は全員異世界に転生できるんですか?」


 流石に死んだ人が全員異世界に転生できたら大変ではなかろうか。


 一秒に人が何人死んでるか解らないけど数人は死んでいるはずだろうし。


 俺みたいにこんなまっさらな部屋に呼ばれて転生についての説明を一人一人しているわけにもいかないだろう。


「全員というわけではありませんね。この世界には貢献ポイントという制度があります。それで一定のポイントを達成した方のみ転生しています」


「貢献ポイント?」


 まじか。そんなポイント制度があったら間違いなくゼロポイントな気がするんだが。


「貢献ポイントと言うのは、生まれてから死ぬまでの人生でいかに社会に貢献したかがポイントで分かるようになっています。良いことをしていれば自然とポイントが上がりますし、罪を犯したらポイントはマイナスされます。殺人なんてしてしまったらポイント関係なく転生は不可能になってしまいますね」


 なるほど、それなら転生する人も選別できるってわけか。


「それでも俺が転生できるポイントがあるのが不思議なんだが」



「忍さんの場合、死ぬ直前のポイントは転生可能なポイントに達していませんでした」



「じゃなんで俺はここに? もしかしてぎりぎりなポイント過ぎて、おまけで達成できたことにしてくれたとかか?」



「いえ、ほぼ無いに等しかったですね」



「本当に無いのかい! 結構ショックなんだけど!」


 まさか本当に無いとは…… もうちょっとあると思ってた自分が憎いよ。


 でも、それじゃあ俺はここにいちゃダメなんじゃないか?


「ですが、死ぬ直前のポイントは達していませんでしたが最終的なポイントでは転生条件を満たしていました」



「それはどういう……」



「通常、人が死んだ時にポイントは入らないのですが、殺人やテロなどの予期せぬ死にはポイントが入る様にしています。忍さんの場合まだ二十歳過ぎということもあり、まだ未来があるとのことで獲得したポイントも多くなっていますね。更に無差別テロによって死んでしまったのでポイントも大量に獲得しています」



 ということは無差別テロで死んでなかったら転生出来なかったってことかよ。


 無差別テロで死んで良かったような良くないような。まぁ結果論としてはこれで良かったのかも知れない。


 もうあんな痛いのは勘弁だけどな。そもそも前世の記憶はさっぱり忘れて転生するはずだからその痛みも忘れてるだろうけど。


 今の記憶が無くなるってよく考えると怖いな。


 俺の死ぬ前の前世もこんな風にやり取りしてたのかも知れないと思うと不思議な感じだな。



 そんな感慨深いことを思ってるとミルさんが衝撃の事実を話した。



「言い忘れてましたけどここに呼ばれるのは予期せぬ死によって死んでしまった人だけですよ」



「えっ、マジですか?」


 マジかよ。なら俺がさっきまで考えてたことが馬鹿らしくなっちゃうじゃないか。


「はい、それ以外で亡くなった方たちはそのまま異世界に転生することになります」



「でもそれって面倒じゃないか? そもそもここに呼ぶ意味ってあるのか?」



「そうですね。ここに呼ばれる方々は自分がどのようにして死んだのか原因が分からないですからね。その人たちに何故死んだのか、これからのことについての説明もかねてここに呼び出していますね」



「それだけなら呼ばなくてもそのまま転生させていいんじゃないのか?」


 まあ、未練はあると思うけどね。俺もまだやり残した事とかあるし、童貞だし、年齢=彼女いない歴だし。


「ああ、忍さんにはまだ話してなかったですね」


 ミルさん、まだ何か隠していたのか?


「他にもなにかあるのか?」



「はい、交通事故やテロなどによって亡くなってしまった方たちには来世で能力が与えられます」



「能力? チート的な感じのか?」



「貢献ポイントにもよりますけど能力は基本的に神様によってランダムに決まります。なので神様以外の人は能力を知るには実際に転生しないと分からないんです」


 なるほど、神様とやらが能力を決めているのか。


 ってか本当に神様なんて存在したんだな。きっとよぼよぼな爺さんだとは思うけど、会っては見たいな。


「その神様はどこにいるんだ?」



「私たちにも分かりませんね。神出鬼没ですから。私も実際には見たことがありませんし」



「相当忙しいんだな」


 まあ神様だしな。忙しそうな感じしてるし。



「そういえば聞いてなかったですけど、転生する世界もランダムなんですかね?」



「いえ、ある程度は希望が通りますね。忍さんはどんな世界がお望みですか?」



「剣と魔法の世界でお願いします。あと少しゲームっぽい感じもお願いします」


 これはもはや決まりである。引きこもっていた時にラノベも読み漁ったが剣と魔法の世界は俺の中で男の夢といっても過言ではないと思っている。


 でも貴族の子供とかには生まれたくないな。何か上下関係とかめんどくさそうだし。


 普通の平民でいいかな、余りにも貧しかったらそれは嫌だが。



「それでは転生します。目を瞑ってください」



「了解」


 そういえば、どうやって転生するのか聞いてなかった。


「転生、開始」


 ミルさんがそう言った瞬間、目を瞑っているにもかかわらず視界が真っ白になる。


 次第にぐらぐらと揺れている感覚に陥り、次第と意識が途切れていく感じがする


「頑張って下さいね」


 ミルさんが肩をポンと叩く。


 その瞬間、意識が飛び異世界へと転生したのだった。


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