女神と天才の異世界冒険譚

たぬきち

アイン①

「さて、説明して頂けますか?」

「え? 何を?」

「オーグレタの行方です」

 サルビアはそう言うと、真剣な目で俺を見てくる。

 部屋の中には俺とアリスとサルビア、そして死にかけのラックだけだ。

 クラスメイト三人はサルビアが部屋に戻らせている。

「さぁ?」

「…………」

 とりあえずオーグレタの行方については全力でとぼけるつもりだ。

 実力で勝った訳でもないし、もしも倒したと言って他の四天王も倒せなんて流れになったら目も当てられない。

「俺にもわかりません」

「……困りましたね。エリーさんの話ではオーグレタから目は離していないのに、急に消えたとの事でしたし……」

「それは……」

 転移したんじゃないか、そう言おうとしてふとエリーの話を思い出す。

 アイツは俺とオーグレタが話しているのを聞いていた。ならばオーグレタが転移出来ると言っていたのも知っているはずだ。

 たがサルビアにはそれを報告しなかった。どういうつもりだ?

 転移出来ると知っているなら、急にオーグレタの姿が消えたことを転移したと考えるはずだ。

 それを伝えていればサルビアからこんな聞かれることも無かった。

「…………」

「……? それは、何ですか? マナト君」

 情報が足りない。だが、エリーが言わなかった事には何か意味があるはずだ。

 であれば、ここは伝えるべきではないか。

「それはわかりませんが、少なくともアリスがまた攫われるなんて事は無いはずです。なぁ? アリス」

「も、もちろんなのじゃ。しばらくはこんな事起きないと思うぞね」

 ぞねって。だいぶ化けの皮剥がれてきてるな。

「とまぁ、そういう訳でもう夜ですし戻りますね」

「……わかりました。とりあえずはいいでしょう。何故あなたの傷が治っているのか、とか諸々聞きたい所ですが、どうも話してはくれなさそうですし」

「で、ではおやすみなさい」

「ええ。おやすみなさい」

 疑惑の視線を向けられながらも、俺とアリスは何とかサルビアの部屋から脱出する。

 エリーに何で転移の事を言わなかっのかは明日アリスに探らせるとして、今はD棟への出店についてか。

 ……。

「…………疲れたな」

「ワシは元気じゃぞ?」

「そりゃ良かったな」

 アリスは何もしてないからいいが、こちとら色々とありすぎて少し疲れた。

 ……しかしなぁ、名前すら覚えてないけどあの男子生徒と約束したしなぁ。

 行くしかないかー。


◆◇◆ 


「お疲れさん」

「あ、マナトさん」

 さて。とりあえず件の奴の所までやって来た訳だが、まずはこいつの名前を何とかして言わせないといけない。

 別のクラスというのは覚えているが、名前を忘れてしまった。

「周りは賑やかなのにここはずいぶんと静かでいいじゃん?」

「う。嫌味は止めて下さいよ」

「勝ちすぎじゃないのか? 適度に負けるのも大切だぞ?」

「あ、なるほどー」

 それとなく様子を見ていればこいつは手加減を知らない。明らかに様子見で遊びに来てる相手にも勝ちにいってしまっている。

「ところで、お前のフルネームって聞いたことあるっけ?」

「あ、そういえば名前しか教えてませんでしたね。カレルモです。ネルトン・カレルモです」

「俺はマナト・カミキ。よろしくな」

「それで、確か出店なさるんですよね? 具体案は決まりました?」

「ああ。お前にもバッチリ協力して貰うぞ」

「いいですよ。お金が貰えるなら」

 そう言っていい笑顔を向けるネルトン。なかなかに素直な奴だ。

「まずはお前のやってるイカサマについて詳しく聞きたい」

「え?」

「大体の所はわかってるんだがな。目だろ?」

「……あちゃー。バレバレですか。そうです。実は僕の――――」


◆◇◆


「……疲れた。だが、話をしにいって良かった。ネルトン、あれは思いがけずいい拾い物だ」

 俺は自室に戻るとベッドに横たわる。本当に今日は疲れた。

「ただ、しばらくはないとか言ってたけど、アリスだからなぁ。信用ならない」

 この学園にまた別の四天王とか呼び寄せて、襲撃イベントとか起こしそうで怖い。

 気をつけて見とかないと。

 目を閉じると今日一日の濃すぎる思い出が浮かんでくる。

「あれが死、か」

 Mark2、そしてオーグレタの最後を思い出す。

 まぁMark2は死んでなかったが。

「…………ふ」
  
 少し。ほんの少しだけ笑うと俺は静かに眠りについた。

 







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