女神と天才の異世界冒険譚

たぬきち

オーグレタ②



「さてと、どうしようかね……」

 俺はポチリとゲームを起動し、呟く。横にはアリスがコントローラーを持ち、待機している。

 オーグレタが返すのを忘れていただけという僅かな可能性も消えた今、俺達に出来る事はない。

「まあ、ルネをとりあえず呼び出すのじゃ」

 そう言うとアリスは片方の手で器用にメールを打つ。

 そうだな。確かに作り出したルネなら何とか出来るだろう。

 安心した俺はランダム選択を使い、キャラクターを選択する。

 アリスも同じように選択し、ステージを選ぶ。

 ……恒例の戦いが始まる。


◆◇◆


 そして十時間後、ボコられたアリスがふて寝していると、どこからともなく黒いワームホールが現れ、ルネがひょっこり顔を出す。

「何か用なの? 僕も忙しいんたけど……」

「あ、ルネ! 手伝うのじゃ! 真人討伐なのじゃ!」

 アリスはふて寝から飛び起きると、ルネに縋り付く。

「それは楽しそうだけど無理だって。今、僕は地球の方も管理してるんだよ? ただでさえ、ちょっとミスって気温上がりまくりだっていうのに……」

 困ったようにアリスの手を離そうとするルネ。

 というか、何だか聞き捨てならないセリフが聞こえた。

 俺の帰る星はあるよね?

「そんなんどうでもいいのじゃ! やらないならる○剣返すのじゃ!」

「……始めようか。時間が惜しい」

 ルネはそう言って俺の隣に座る。まだ読み終わってないのかよ。遅すぎだろ。

「そんな事してる場合じゃないだろ」

 俺はやっていたゲームをスタートボタンを押し、ストップすると女神二人に向き直る。

「まずはオーグレタをどうにかしないと」

「むう。まあ、そうじゃな……」

「え? オーグレタが何かやったの?」

 ルネはそう言うと目を閉じる。何を見ているかわからないが、恐らく現状の確認だろう。

「あー……これ不味いな……」

 そして、ルネの口から飛び出したのは予想通りの言葉だった。

「マジであの手紙十三キロも爆破するのか?」

「すんません、あれ嘘言いました」

 すげー嫌な予感がする。色んな意味で。

「言うた程度じゃすみません。それに、細胞を溶かし、崩す猛毒が撒き散らかされます」

 ……。

 …………。

 ………………。

「最悪じゃねーか! 何でそんなもの作るかなぁ! しかも、解除スイッチはアホのアリスに渡しちゃうし……」

「ん? 微妙にワシのことディスったか?」

 微妙どころか完全にディスったわ。アホの子め。

「まあでも、とりあえずオーグレタ呼んで、回収すればいいんじゃない?」

「……あ、それ出来るのか? なら、焦ることはなかったな」

 なんだかんだでルネはこの世界の女神なんだし、オーグレタも言うこと聞くのか。なら焦る必要無かったな。

「アリス!」

「わかったのじゃ!」

 アリスはそう言うと印を結び、地面に手を当てる。

「口寄せの術!」

 無駄な事しやがって。

「……な、なんだここは!? 我は確か……」

 しかも手元じゃなく、全然別の所に出てきたし。めちゃくちゃダサいなアリス。

「やあ。オーグレタ。何だか随分と勝手な事をやってくれたようだね?」

「げ……ルネ……様」

 すげえ嫌な顔してるなオーグレタ。やっぱり力関係は女神が上なのか。

「我は指示どおり、マナトとアリスで愛してるゲームをさせたぞ!」

「それ以外の話だよ……。アリスから奪ったものを返してもらおうか。アレはまだ使うときじゃない」

 いやいや、永遠に使う時は来ないだろ。……はずだ。

「お断りしますよ。これは勝負の対価として頂いたもの、それを奪おうというのは筋が違うじゃないですか」

「おや? 何だか生意気だね。いいんだよ僕は? 能力を使っても」

「それは……」

 能力? 明らかにオーグレタの様子がおかしい……。

「でもま……しょうがない。今回は僕が折れるよ。確かに筋が違うしね」

「おお!」

「ルネ!?」

 思わずルネの名前を叫ぶと、オーグレタは何だこいつ、といった顔でこちらを見てくる。

「ルネ様、そういえば聞いていなかったのですが、この男は……?」

「ああ。真人君はアリスのこ」

「そこまでじゃ!」

 アリスがルネに飛びつき、口を手で塞ぐ。

「…………」

 何だ? こ? 普通に考えれば……恋人? でも違うしな。講師、子供、コネ、駒……わからん。

 それより今は……。

「どういうつもりだ?」

「…………」

 よく考えればルネだって爆発したら困るはずだ。何か考えはあるのだろう。

 そう思って尋ねるが、口元をアリスに塞がれていては喋れないようで、無言で口元を指差す。

「アリス」

「……う、うむ。いいか……余計な事は・・・・・言うなよ……あ、なのじゃー」

 無理やり明るく付け足してきたようだが、それでカバー出来ないぐらいドスがきいていた。

 ……ちょっとビビった。

 やっぱり何かを隠しているな、まあ気にすることはないか。

 俺だって本当の目的は隠してるし。オーグレタもいい線いってるんだけどなぁ。

「ふう。ま、とりあえずさ、真人とオーグレタで勝負しなよ。で、勝った方が解除スイッチを手に出来るって感じで」

 開放されたルネはそう言って、黒いワームホールを作り、そこに手を入れる。

 そして、取り出したのは……。

「選ばれたのは……」

「わかったから。喉乾いてたのね。でも、それは置いといて正直戦いとなると自信ないぞ?」

 そう俺はぶっちゃけるが、ルネは綾○を飲み干すと、近くにあった将棋盤を見ている。

 ……まさか。

「じゃあ、ボードゲームでいいでしょ? オーグレタも得意だし」

「待ってください! それをやって我に何の得があるのですか!?」

「んー?」

 確かにオーグレタにとっては得の無い勝負だ。だが、

「そりゃあるよー。なんたってこの僕と敵対せずに済むんだからね」

 自信満々に胸を張るルネ。

 ……にしても、何だかちょっと寂しいよなぁ。女神界。アリスもそうだけど二人共、実りのない大地だもんなぁ。

 どこがとは言わないけど。

「何かカチンと来たなぁ……リアルでやるか……」

 俺の思考を読んだのか、何故か俺を睨むとルネは近くにあった将棋盤に手を触れる。

「<<空想現実化>>」

 そしてルネがそう呟いた瞬間、世界が揺らぐ。地面も空間も、何もかもがあやふやになり、立っていられない。

「な、何だこれ?」

「ちっ……もう絶対に負けられんぞ……」

 オーグレタは何か知ってるようだな……ってなるほどな。

 いつの間にか足元には石で出来た大きな将棋盤が敷かれている。

 俺の服装も変化し、装飾のついたジャケットにマント、更にこの頭上に感じる重みは王冠だろう。

 更に、周囲には何故か金色の自分や、銀色の自分。

 他にも馬に乗った俺や、翼の生えた俺がいる。

 どうやら将棋の盤が巨大化し、駒は俺の姿に変化しているようだ。

 それぞれの特徴を残して。

「……なんつう能力だよ…」

 名前からの推測になるが、ルネの能力は自身の空想を現実化する能力、なのだろう。

 強すぎる。チートだチート。何かしらの制限はあるかも知れないけれど。

「そうだなぁ……真人君にはハンデとしてアリスを付けよう」

 盤面の外でルネがそう言うと、アリスの姿を模した駒が俺と同じマスに現れる。

「そのアリスはこっちのアリスを完全にコピーしているからね。きっと役に立つよ」

 うーん……ありがたいけど……将棋なら俺一人でも勝てると思うんだけど……。

「頑張るのじゃ! アリスMark2!」

 アリスが実体化したアリス……Mark2を応援している。

 無駄にカッコいい名前を付けたもんだ。

 そして、俺は改めてそのアリスMark2を見る。

 確かによく出来ている。違いと言えば服装が姫様っぽいドレスになってる事ぐらいか……。

「任せるのじゃ! The 1st Childrenー!」

 返事を返すアリスMark2。

 もはや誰だよ。アリスですらねーじゃねーか。この辺りも確かにアリスらしい。

「ルネ様! そのアリスMark2とやらの駒はどんな動きなのですか?」

 オーグレタは不公平だ、なんだと言う事もなく、受け入れている。

 そして、アリスの駒の能力を把握しようとしている。

 これは自分の棋力に自信があるからなのだろう。なるほど。ちょっとは面白くなりそうだ……。

「ん? ああ。アリスMark2は動けないよ。真人君の側からね」

 それにしてもMark2呼びが広まっている。何か全員そう呼んでるし……。

 ていうかMark2動けないなら将棋においては何の得もねーじゃねーか。

「そして、真人君も動けない」

「は?」

 思わず声が出てしまった。

 俺は服装的に考えて、王、つまり王将だろう。それが動けないとなると……。

 得意な戦法である穴熊が出来ない。しかも、居玉は避けよという格言があるように、王を初期位置のままにしておくのは不利なのだ。

 もちろん、戦い方もあるにはあるが……。

「……どういう事ですか? まさか、我にハンデを与えたと言うことですか?」

 オーグレタはルネに問いかける。

 どうやら苛立っているようですこめかみに血管が浮き出ている。

「いやいや、二人で考えることが出来るんだから真人君だって得なはずだよ? 見方次第って訳だよ」

 なるほど。そう来るか。だが、確か……。

「何を馬鹿な! そのガキは『アリスはネットにて最強!』等と言って打ち歩詰めすら知らん奴だぞ! ふざけるな!」

 そうなんだよなぁ……。どうするかね……。ちなみに打ち歩詰めとは手持ちの歩を使って、詰む事だ。

「おい、オーグレタ……誰に向かって口を聞いている……あんまりうるさいと無理やり取り上げるぞ」

「ぐっ……」

 ……怖いな。ルネは怒らせるのはなるべく止めておこう。

 オーグレタも明らかに勢いを無くしている。

「じゃあ、駒の動かし方だけどコレを使う」

 ルネが指を鳴らすと……まあ、実際には鳴らなかったけど。何かシュッって擦れた音しか。

 とにかく、目の前には小さな将棋盤が浮かんでいる。

 駒の名前も書かれており、どうやらこれで動かすようだな。

「そこに書かれた駒の名前をタッチして動かす事で、実際の駒も動く。と言う訳で、じゃあ先手はオーグレタで始めよう」

 振り駒じゃねーのかよ。別にいいけど。

「お願いします」

「……お願いします」

 一応、対局の挨拶を行うとオーグレタも返してくる。

「…………」

 将棋自体は問題ないが、ルネが何か仕込んでそうなのが気になるな。

 まあいい。とにかく始めよう。

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