女神と天才の異世界冒険譚
ともだちひゃくにん⑦
「なんだあいつら……」「お互いに自分が投げるときは必ず当ててやがる」「それ以外の人が投げたときでも半分位は当ててるわ……しかも一点賭けで」
周囲のどよめきが、耳に入る。
「……やるじゃないか」
「真人もな。どうやって当ててるかは謎じゃが」
俺もアリスがどう当てているのか分かっていない。
俺は他の奴が投げた時のボールの速度と、落下点から計算することで、どの程度の力で投げればどの辺りに落ちるか把握出来ている。
後は運の要素が絡んでくるが、それならそれで俺が当てられないはずがないという訳だ。
「俺はもう降りるぞ」「私も……」「少しは儲かったから僕も」
俺達以外の生徒が席を立つ。代わりに座る者も居ないようだ。
他の者が投げる際はどの程度の力で投げたか、おおよそでしかわからないため外してしまうことも多かった。
そこで他の者達は俺やアリスの選んだ数字の近くを選ぶことで少しの利益を上げた者も居たようだ。
「そろそろ俺も疲れてきた。最後の勝負としよう」
そういって持っている金のチップ、五十四枚を場に乗せる。
「いいじゃろ」
アリスも同じように金のチップ、六十枚を場に乗せる。
「最後は俺達以外の人に投げて貰うが、構わないな?」
「うむ」
どちらかが投げたのでは、投げた奴の勝ちが決まってしまう。
「じゃあ……玉を……」
「あ、手が滑ったのじゃあああ!」
アリスの手から玉を受け取ろうとすると、アリスは椅子から降り、メジャーリーガーばりのトルネード投法で玉を窓に向けて、投げ飛ばした。
玉は嘘のような速度で窓を突き破り、満天の星空へと消えていく。
「お前っ!」
やられた。あの玉以外では俺の計算結果と、若干の誤差が出る。もちろん、それがいい方向に転がればいいがそんな運任せではアリスに勝てるかはわからない。
「すまんすまん。代わりにこれを使えばいいじゃろ?」
アリスの手には同じような玉が握られている。
そういう事か。
アリスの投げる際は俺の計算した落下点から大きく外れる理由がわかった。
奴は毎回すり替えていたのだ。絶対空間で。
おそらくはこのルーレット台と共にその玉で練習したのだろう。どの程度の強さで転がせば、どこに落ちるか。
そして俺が当てる事が出来る理由を、自身が投げ入れた時は外していることから、使用している玉にあると考え、こんな暴挙に出たのだろう。
「なんじゃあ? 真人。その顔は? 随分と焦っているようじゃのう?」
「いや、別に」
そっちがその気なら俺もやってやるよ。見てろよ。
「じゃあ、頼むよ」
アリスから受け取った玉を開催者の女子生徒に渡し、その時を待つ。
「じゃあ行きます!」
女子生徒はそう言うと、勢いよく玉を投げ入れた。
その直後、アリスが動く。金チップを一枚、0の位置に置くと、その両隣2と28にも素早く置いていく。そして、残りの金チップを積んでいく。
一点賭けに拘る余裕は無いという事だろう。
「さてと……」
俺はその逆、00と1と27に金チップを乗せる。
そして、タイミングを計る。アリスはニヤニヤと玉を眺めている。
その油断が命取りだ。
「今だ!」
玉の勢いが弱まり、あと一回転程で落ちるだろうその時。
俺は椅子から飛び降り、ルーレット台の0の位置に立つ。
そして、刀を生み出し、ある必殺技を放つ。
「天正流線!」
神速で振りぬかれた刃が、前方に真空の渦を作り出す。
「うわっ!」「なんだぁ?」「きゃっ!」
真空に空気が入り込む勢いに釣られ、前方にいた人が少しよろめく。
そう、人間ですらよろめくのだ。当然、もっと軽い、勢いの落ちた玉なら……。
「俺の勝ちだ」
玉がコロンと落ちた先は、俺が居る0の真向かい。つまり、00の位置だった。
「イカサマじゃあああああ!!」
俺が場のチップを回収していると、目を点にして呆けていたアリスが怒号と共に飛びかかってくる。
「先にしたのはそっちだろうがあああ!」
アリスの飛び蹴りを半身で躱しつつ、反撃の拳を振るう。
「甘いのじゃ!」
しかし、その腕をアリスに取られ、そのまま腕ひしぎ十字固めに移行するアリス。
「舐めるな!」
素早く腕を引き抜き、顎先へと素早く打撃を放つ。
だが、ものの見事に躱され、拳は床を叩くに終わった。
「そういえば真人とはリアルファイトは初めてじゃな」
「……そうだな」
冷静に考えれば、年下の女の子相手にこれは不味いんじゃないだろうか。
周囲を見回すと皆一様にドン引きしている……いや、アインだけは恍惚とした表情を浮かべている。
ライルとケインは、うわぁ……といった表情を浮かべている。
お前らのせいでもあるんだぞ。
「アリス。とりあえず金貨に交換して、場所を移すぞ」
「む? ……わかったのじゃ」
アリスも周囲から向けられる視線に気付いたようだ。周りを囲うギャラリー達を押しのけ、カウンターへと向かう。
そして、手早くチップを金貨に交換するとカジノから出て行く。
チップと交換できるアイテムや武器も気になったが、後回しだ。
「どこに行くのじゃ?」
「サルビアの所」
回復魔法さえあればアリスをボコってもセーフだろう。うん。
◆◇◆
「いや、アウトでしょう」
サルビアの部屋を訪ねると既にパジャマに着替えていた。
それがフリルのついたかわいらしいもので、俺は少しだけ訪ねた事を後悔した。
「まずこんな深夜に私を叩き起こした事を謝るべきですし、そんな私闘の為に回復魔術を使う気はありません」
坦々と告げるサルビアの言葉に、俺とアリスの盛り上がっていた気持ちがだんだんと沈んでいく。
筋肉達磨のイケメン……いや、イケレディのフリフリパジャマ姿とか見たらもう何か……。
「そんなことしていないで早く寝なさい。明日も授業はあるのですから」
「わかりました……すみませんでした。寝ます。おやすみなさい」
サルビアによって扉が閉められると、特に言葉を交わすこと無くお互いに寝室へと戻った。
「全然来ないじゃ無いか」
一方で、ラックは未だに待っていた。エリー達三人も待つのに疲れ、それぞれラックに珍しいアイテム類を出して貰い遊んでいる。
「もういいんじゃ無いですか?」
マリーが持っていたキューブを放り出すと、ラックにそう言った。
「そうね。国の一大事のようだし、私も協力するわ! これを貰えれば!」
エリーは手に持った不定形のスライムで遊んでいる。感触がたまらないらしい。
「ふむふむ……。私も別に構わないぞ。一応、サルビア先生に話を通した方がいいとは思うが」
何やら奥義書のようなものを読むサオリが目も離さずラックに言った。
「サルビア先生……か。懐かしいな。そうだな、後、30分だけ待ってみる」
ラックは諦めきれず、後30分だけ待つと決めた。
もちろん、その30分は無駄に過ぎていった。
「じゃあ、ちょっとサルビア先生の所に行ってきます」
ラックは少しだけ悲しい気持ちでサルビアの私室へと向かった。
そして、夜中に続き早朝の訪問にブチ切れたサルビアによって右腕を折られながらも、何とか校外学習と言う事でラックは三人を連れ出す許可を得たのだった。
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