女神と天才の異世界冒険譚

たぬきち

資格試験



 俺とアリスは守衛、改めサルビアについて行き校舎の中へと入った。

 どの資格を取得するかによってクラスと校舎が分けられており、サルビアが担当するクラスは全資格を取得したい夢見る馬鹿共が集まっているらしい。

 つまり……やっぱり講師決まってんじゃねーか。

 ちなみにサルビアのクラスの人数は俺達を入れても11人。

 入学金が高額な事に加え、全資格を取得する為には時間がかかること、それにサルビア自身が断る事もあるため少ない人数になっている、との事だ。

 サルビア曰く、才能がないと無駄だからとの事だ。

 資格の種類は全部で十二種。

 格闘、剣、槍、盾、双剣、大剣、鎌、杖、鎚、斧、暗器、弓。

 他にも武器はあるようだが、教えられる人材がいない為、資格としては認められていないらしい。この街では、だが。

 授業内容については、受けてみてのお楽しみと隠されてしまった。絶対楽しくは無さそうだ。

 そして、週の初め。つまりは今日、行われるのが資格試験。

 サルビアに一撃でも入れられたなら二級を、サルビアに勝つ、もしくは認めさせるか出来れば一級が貰えるらしい。

 そんな説明を聞きながら教室へ向かった。

 そして、今、その教室で前に立たされている。

 転校生の気分だ。

 当然アリスも俺の肩から降りており、隣に立っている。

 教室には十人ほどの男女がいる。年齢は十代からおっさんまで幅広い。……正直、安心した。十代ばかりだと浮いてしまう所だった。見た目だけならまだ若く見えるはずだが、やっぱり何か違う部分が出て来るからな。

「じゃあ一応、自己紹介しておきましょうか」

 そう言ってこちらを見るサルビア。……何だかなぁ。想像よりも日本の学校っぽい。

 今度ルネと会う機会があったらそこの所を聞いてみよう。お前、地球パクってね? と。

「どうもはじめまして。神木真人です。よく分からないことばかりでご迷惑おかけするかも知れませんが、よろしくお願いします」

 ここは無難に済ませておこう。クラスの雰囲気も掴めないし。

「アリスなのじゃ。よろしく頼む」

「「…………」」

 アリスも言い終わったが、特にクラスメイトからの反応はない。何というアウェー感。

 拍手ぐらいしろよ……。まさか、そういう文化がないのか?

「今日は週の初めなので資格試験の時間ですね。ついてきて下さい」

「「はい!」」

 勢いよくクラスメイト達が立ち上がる。それぞれの手にはいつの間にか剣や槍が握られている。

「やっぱり実際に見ると驚くな」

「そうじゃな。地球ではあり得ないからのう」

 他のクラスメイトも着けている、入学時にサルビアから渡されたリングは、武器を三十種類まで登録できる。

 登録された武器は非殺傷武器として生まれ変わり、思い描くだけでリングを着けた手に呼び出す事が出来る。

 もしかすると、外で誰も武器を持っていなかったのはこういった物があるからかも知れない。非殺傷にはならないだろうが。

 A級の男性もそういうことだろう。

「俺達も行くか。武器はないから受けるとしたら格闘だけだけど」

「そうじゃな。最初は様子を見るか」

 そう言って教室を出て行ったサルビアを追った。

◆◇◆


「では、始めましょうか。お互いに非殺傷武器を使用するので死ぬことはありません。皆さん全力でお願いします。ではアインくん、どうぞ」

 外に出たサルビアは全く緊張感無く、呼ばれたアインとやらは明らかにガチガチだ。

 そんなに緊張するものなのだろうか? 別に一発勝負というわけでもないだろうし。非殺傷武器になってるはずだから殺してしまう心配も、死ぬ心配もいらない。

「行きます!」

 アインの武器は剣、片手で振るえるサイズの物だ。サルビアも同じ片手剣のようだが……何だあれは。

 明らかに武器としてのレベルが違う。何か黒いオーラみたいなのが出てるし。なのに、刀身は光り輝いている。どう見てもレア武器です。本当にありがとうございました。

 そもそもアインはまだ少年と言った大きさだ。当然、腕も剣も短めだ。

 一方でサルビア。身長190程だろうか、俺と比べても20は違う。

 手足も長く、それに合わせた剣もそれなりに長い。あと無駄にイケメンだ。攻撃箇所は決まった。

 まあ、とりあえずアインには悪いが、この勝負は無理ゲーだろう。

「防いでみて下さい」

 サルビアが軽く、だが異様な速度で縦に剣を振る。

「くっ!?」

 アインも反応し、防ごうとするがその瞬間サルビアの剣筋が曲がる。その変化は一瞬の事で、俺でなきゃ見逃しちゃうねって奴だ。

「うわ……」

 アインの左手と、その左手が持っていた片手剣が地面に落ち、同時に音を立てる。

「……全然駄目ですね」

「う、うううううああ!」

 サルビアが残念そうな顔で呟く一方で、アインは苦悶の声をあげる。

 いや、というか出血やばいんじゃ……。どこが非殺傷武器だよ。直接は殺せなくても間接的には殺せるってことか? いや、殺しちゃ駄目だろ。

「<<ヒール>>」

 俺があーだこーだと考えていると、サルビアが何やら聞き覚えのある呪文を唱えた。

 アインの手首からの出血が止まり、切断部から傷一つ、染み一つない手が生えてくる。これって血も戻るんだろうか? 凄いな。

「ありがとうございます……」

 気落ちした表情でお礼を言うアイン。礼儀正しいいい子だな。顔面蒼白だが。

「じゃあ次は……アリスさん、やりますか?」

「もちろんじゃ」

 あ、名前順か。にしても、これを見ても挑戦するアリスは自信家なのか怖いもの知らずなのか……。

「格闘でいいですか?」

「うむ!」

 どちらも緊張した様子はない。

 正直アリスがどの程度戦えるのかはわからない。客観的に二人を見るなら、確実にサルビアが勝利するだろう。リーチとパワーの差は明らかだ。

 だが……。

「防いでみて下さい」

 剣をしまい、アリスに殴りかかるサルビア。その拳にはいつの間にかメリケンサックの様な武器が握られている。なるほど、格闘にも武器はあるか。

 途方もない速度でアリスに向かう拳はそのままアリスの顔を捉える


 ……事はなかった。

「遅いのじゃ」

 アリスは半身でその拳を避けると、伸びきった肘を思いっきり蹴り上げる。ギリギリ届いた足はそのままサルビアの腕を肘から半分に切り落とし、残されたのは静寂。

「…………」

 ……まじか。動体視力と反応速度は格ゲー的に考えて予想通りだが、あの蹴りは並の速さと威力じゃ無い。

 というか、何で蹴りで切断されてるんだよ。

「あの時の恨みじゃ……!」

 アリスはそう呟く。やっぱり根に持ってたのか。となると、まさか俺も……。

「合格です」

 サルビアは特に反応も見せず、坦々とそう呟く。……いや、わかりにくいが額に汗をかいている。痛みのせいかも知れないが。

「な、何だあの子……」「見えたか? 俺は気づいたらサルビア先生の腕が切れてたんだが」「私も……魔術?」

 急にクラスメイトが騒がしくなってくる。アリスが何をしたのか把握できておらず、困惑と不安で一杯のようだ。

「魔法ではありません。腕を蹴られ、切り落とされた。それだけです」

 サルビアはそう言うと、落ちた腕を拾い、切断面にあてがうと自身に回復魔法を使用する。

 ……アインの時はわざわざあんなことしてなかったよな? 何故だ?

「じゃあ次は……」

 サルビアは腕が元通りになると、握って開いてを繰り返し、問題がないことを確認すると坦々と進めていく。

 ……精神面は本当に凄い奴だな。他人の手首は簡単に切り落とすし、自分の腕を切られても声すらあげない。

 どこか壊れてるんじゃなかろうか。恋愛観と一緒で。


◆◇◆


「じゃあ次は……マナトくん」

「はい」

 遂に俺の番か。アリスが合格した以上、俺もしないとな。

 どれだけ煽られるかわからん。

「君も格闘でいいですか?」

「はい」

「じゃあ、遠慮無くどうぞ」

「もとよりそのつもりです」

 俺は忘れない。

 あの屈辱の元凶はサルビアだということを。剣はしばらく無理だ。あれは見えても躱せない。

 だが、格闘なら問題はない。元の世界で格闘技全般は修めている。立ち技から寝技、投げ技に関節技も。暇つぶしにはなった。

「じゃあ始めます」

 サルビアがそう宣言すると同時に俺は動いた。

 最初の攻撃、それは当然……最速の打撃。ジャブだ。

 反応の良い奴なら後ろにのけ反り、避けれるかも知れないがサルビアは見ていた限り、いつも先手を取っていた。

 攻撃に意識がいっているならこれは躱せない。

 しかし、ジャブに威力はない。元の世界ではともかく、この戦闘が日常にある世界で鍛えた男にはダメージなんて無いに等しいだろう。だが、

「ぐっ……」

 だからこそ、目を狙った。

 ボクシンググローブの無い素手でのジャブは手の形を変えられる。普通はインパクトの瞬間に握りしめて力を込めるが、それはこの相手には効果が薄い。

 軽く握っていた拳を解き、中指を眉間に当て、人差し指と薬指で目を突く。指を伸ばした分、到達も速くなる。

「死ねえええ!」

 思わず本音が漏れてしまったが続けて、右ストレートを打ち込む。

 基本的にはジャブを数発当て、ストレートがワンコンボだが、目つきなら簡単に怯ませ、隙を作ることが出来る。

 腰を回転させ、少しの力も逃さず右拳に集約させる。

 ゴキッ。

 そんな低く鈍い音と共にサルビアの顎へと右拳をぶち当て、振りぬく。

 サルビアはそのまま糸の切れた人形のようにドサリと倒れた。

 ……ん? 待てよ、今のは顎を砕く音じゃなかったような……。

 聞こえた音に疑問を感じ、倒れたサルビアを見ると、首が地面を向いている。体は空を向いてるのに、首だけが地面を向いている。

 ちょっと待って。

「……けいしちょう」

 アリスの呟きが聞こえる。嘘、え、マジで!?

「あ、あ、あ、あいつ、殺りやがった!」「ギルド! ギルトに連絡を!」「か、回復魔術が使える奴いないのか!? 今ならまだ……」「お、おい、誰かアイツを取り押さえろよ!」「嫌に決まってるだろ! お前がやれ!」

 クラスメイトのざわめきが大きくなる。俺はそれを背中に感じながら考えていた。

 何でこんな事に。

「……真人、罪を償ったら、また一緒に冒険するのじゃ」

 アリスが柔らかな、まるで本当の女神のような笑みを浮かべている。いや、女神なんだろうけど。

「ま、待て待て待て! だっておかしいだろ! 資格試験では死ぬことはないって……」

「それは何故じゃと思う?」

「それは……あっ!」

「そうじゃ。サルビアも言っていたが、非殺傷武器を使用するからじゃ。だからこそ、格闘試験でもサルビアはメリケンサックを使っていた」

 そ、そうか……。そういうことか。

 アリスは気付いていたんだ。武器のない自分達ではサルビアを殺してしまう可能性に。

 だからこそ、腕を狙った。一方で俺は……

 やってしまった。俺は……まさか、本当に殺してしまうなんて。そんな、そんなつもりはちょっとしかなかったのに!

 ……だが、しょうがない。罪は罪だ。償うしかない。

「こっちの世界じゃどうかわかんないけど、俺はもう成人だ。罪は重く、罰は長いものになるだろう。それでも……」

「待ってるのじゃ!」

 アリスはそう言って俺の手を握った。

 こうして、俺の物語の学園編は終わり、監獄編が今……始まる

「勝手に殺さないで貰えますか?」

 事はなかった。

 のそりと幽鬼の様に立ち上がったのは、さっきまで首が後ろを向いていたサルビアだ。

 何がどうなっているのかわからないが、とにかく! 監獄編は避けられたようだ! 

 ……よかった。

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