異世界貴族は自由を望む
動く状況と、結末
観客らがまだ戦うリアとテイルへと視線を向ける中、レイから注目を外すことがない例外もいた。
「あの魔法、どう見る?」
そう口を開いたのは、魔導士団団長、ガンドボルグである。それに答えたのは、どこか気弱そうな女性、魔導士団団長補佐、ホルンであった。
「え、えっと、彼の魔法は、恐らく一定の空間を自身のマナで覆うことで支配下に置き、その中で自身のみの限定的な魔法行使を可能としているものと、思われます。そうであると仮定すれば、あの冷気も操れるのではないでしょうか。そうなると使い方次第では災害級に該当するかと、私は思います。ですが、彼ほどのマナ保有量がなければ、維持どころか行使も難しいと......」
「やはり、そう思うか......」
それについては、ガンドボルグも同意見であった。恐らくホルンの推測通り、効果範囲内において発生した冷気、今回は何も使用しなかったものの、あれも自在に操れると考えるべきだろう。彼らは知らないが、実際そうである。
となると、更に気温を下げることができれば、人を凍死させることもできるだろう。戦争において、雪国に進軍でもしない限り防寒対策など普通はしない。その隙をついてこの魔法を放てば、凍死、もし生き残ったとしてもかなりの体力を消耗するはずだ。そしてそれを使えるのは現状レイだけ。
ガンドボルグは、レイの魔法について、真剣に上に掛け合ってみようと、考えていた。
リアとテイルの戦いは、テイルへと軍配が上がっていた。少しずつ溜まっていた疲労が、リアを襲っているのだ。リアもそれを認識していた。
それでも、リアは諦めていなかった。詳しくはわからないものの、レイは勝ったのだ。自分が戦っている先輩よりも強い相手に。
なら、自分も勝ちたい。勝ってレイと二人で勝利を手に入れたい。それが今のリアを動かす原動力となっていた。
しかしそれだけでは、格上の人間には勝てない。振り下ろした隙に、ついにテイルの一撃が叩き込まれた。決着をつけようとしたのだろう。この試合で一番重かった一撃は、リアを容赦なく吹っ飛ばした。衝撃でハルバードが手から離れる。
この状態では、受け身を取ることもできない。地面に叩きつけられれば、恐らく気を失ってしまうだろう。リアは咄嗟に目を閉じた。
しかし、いつまでたっても衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けば、そこにはレイの顔があった。リアはそこで、レイに助けられたことを知った。
レイはリアを抱えながら、これからどうするかを考えていた。
レイも先ほどの魔法で、かなりのマナを消費している。今も魔蔵はフル回転でマナを生成しているものの、それは全快からは程遠い。そんな状況で、一人ならともかくリアを抱えながら先輩を相手に戦うというのは、レイにとってもかなりの難題だ。リアを置いて戦うという手段をとらないのは、ほとんど動けないリアをほっておくわけにはいかないという私的な理由がある。
しかし、ずっと突っ立っているわけにもいかない。レイは左手でリアを抱えると、短剣を右手に走り出した。それに気づいたテイルも、レイへ向かい走りだす。この試合最後の戦いが始まった。
二人の試合は、かなり長引いていた。レイは、リアが回復し、最低でも自衛程度ができるまで時間稼ぎをするつもりなのだ。極力攻撃もしない。攻撃はすべて躱す。そんな状況が続いていた。
そんな中で、ついに試合が動こうとしていた。
レイが攻撃を躱し、大きくジャンプして、距離をとったときに、リアに話しかけた。
「...動...ける...?」
「多分、ぎりぎりかな...かなり無理したから」
「そう...なら...、動け...ない...相手...に...短剣...で...一撃...入れる...ことは...?」
「そのくらいなら...なんとか」
その返事を確認したレイはリアに作戦を話す。その間もレイは走り続けており、テイルは中央で常にレイたちを視界に入れながら待ち構えている。追いかけるより、向かってきたところを叩く方がいいと判断したのだろう。
レイのこの作戦は、穴がいくつもあり、正直作戦とも言い難い。もし最初の一手が決まらなければその時点で負けが確定する。終わったらレイは間違いなく戦闘続行ができなくなるだろうし、決まらなかったら再びリアとテイルの一騎打ちとなってしまうからだ。そうなるとほとんどまともに動けないリアでは勝つことはできないだろう。
しかし今のレイにはこれ以外手が思いつかないのも事実。そしてこのままでは負ける。それを避けるためにも、これは絶対に失敗できない不可避の博打だった。
レイが冷気をテイルの目へとぶつける。これはただの目くらまし。
視界が回復したテイルは、反撃しようとレイを見る。そこには、立ち止まり魔法を放つレイの姿があった。
それをテイルが認識したときには、すでに魔法は発動していた。無属性中級魔法『バインド』がテイルを拘束する。それと同時にレイも膝をついた。
(やつは恐らくマナ切れ。よくここまでやってこれたと思うね。だけど、攻撃ではなく拘束にしたのは判断ミスだな。ここで追撃でもないかぎり......まさか!?)
テイルは急いで辺りを確認する。レイと一緒にいたはずのリアがいないのだ。テイルはもうリアは戦闘できないだろうと思っていた。思い込んでいた。しかしそうではなかった。十中八九、攻撃がくるだろうと、攻撃に備えるためにテイルは拘束を解こうとする。
しかし拘束が解けることはなかった。なぜなら、レイが持続してマナを送り続けていたからだ。レイがその場に膝をついているのは、常時マナが抜けていくため、動くことさえできないからなのだ。テイルの目に、してやったりといった顔で笑うレイが映る。
マナが過度に供給されたそれは、並みの攻撃では外れはしない。そして動けない敵は、ただの的でしかない。身体強化によるリアの一撃を背中に受け、テイルも意識を手放した。
『しょ、...勝者、レイ・リアペア!』
その実況の声を最後に、レイはマナの枯渇で、リアは疲労で意識を失った。
「あの魔法、どう見る?」
そう口を開いたのは、魔導士団団長、ガンドボルグである。それに答えたのは、どこか気弱そうな女性、魔導士団団長補佐、ホルンであった。
「え、えっと、彼の魔法は、恐らく一定の空間を自身のマナで覆うことで支配下に置き、その中で自身のみの限定的な魔法行使を可能としているものと、思われます。そうであると仮定すれば、あの冷気も操れるのではないでしょうか。そうなると使い方次第では災害級に該当するかと、私は思います。ですが、彼ほどのマナ保有量がなければ、維持どころか行使も難しいと......」
「やはり、そう思うか......」
それについては、ガンドボルグも同意見であった。恐らくホルンの推測通り、効果範囲内において発生した冷気、今回は何も使用しなかったものの、あれも自在に操れると考えるべきだろう。彼らは知らないが、実際そうである。
となると、更に気温を下げることができれば、人を凍死させることもできるだろう。戦争において、雪国に進軍でもしない限り防寒対策など普通はしない。その隙をついてこの魔法を放てば、凍死、もし生き残ったとしてもかなりの体力を消耗するはずだ。そしてそれを使えるのは現状レイだけ。
ガンドボルグは、レイの魔法について、真剣に上に掛け合ってみようと、考えていた。
リアとテイルの戦いは、テイルへと軍配が上がっていた。少しずつ溜まっていた疲労が、リアを襲っているのだ。リアもそれを認識していた。
それでも、リアは諦めていなかった。詳しくはわからないものの、レイは勝ったのだ。自分が戦っている先輩よりも強い相手に。
なら、自分も勝ちたい。勝ってレイと二人で勝利を手に入れたい。それが今のリアを動かす原動力となっていた。
しかしそれだけでは、格上の人間には勝てない。振り下ろした隙に、ついにテイルの一撃が叩き込まれた。決着をつけようとしたのだろう。この試合で一番重かった一撃は、リアを容赦なく吹っ飛ばした。衝撃でハルバードが手から離れる。
この状態では、受け身を取ることもできない。地面に叩きつけられれば、恐らく気を失ってしまうだろう。リアは咄嗟に目を閉じた。
しかし、いつまでたっても衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けば、そこにはレイの顔があった。リアはそこで、レイに助けられたことを知った。
レイはリアを抱えながら、これからどうするかを考えていた。
レイも先ほどの魔法で、かなりのマナを消費している。今も魔蔵はフル回転でマナを生成しているものの、それは全快からは程遠い。そんな状況で、一人ならともかくリアを抱えながら先輩を相手に戦うというのは、レイにとってもかなりの難題だ。リアを置いて戦うという手段をとらないのは、ほとんど動けないリアをほっておくわけにはいかないという私的な理由がある。
しかし、ずっと突っ立っているわけにもいかない。レイは左手でリアを抱えると、短剣を右手に走り出した。それに気づいたテイルも、レイへ向かい走りだす。この試合最後の戦いが始まった。
二人の試合は、かなり長引いていた。レイは、リアが回復し、最低でも自衛程度ができるまで時間稼ぎをするつもりなのだ。極力攻撃もしない。攻撃はすべて躱す。そんな状況が続いていた。
そんな中で、ついに試合が動こうとしていた。
レイが攻撃を躱し、大きくジャンプして、距離をとったときに、リアに話しかけた。
「...動...ける...?」
「多分、ぎりぎりかな...かなり無理したから」
「そう...なら...、動け...ない...相手...に...短剣...で...一撃...入れる...ことは...?」
「そのくらいなら...なんとか」
その返事を確認したレイはリアに作戦を話す。その間もレイは走り続けており、テイルは中央で常にレイたちを視界に入れながら待ち構えている。追いかけるより、向かってきたところを叩く方がいいと判断したのだろう。
レイのこの作戦は、穴がいくつもあり、正直作戦とも言い難い。もし最初の一手が決まらなければその時点で負けが確定する。終わったらレイは間違いなく戦闘続行ができなくなるだろうし、決まらなかったら再びリアとテイルの一騎打ちとなってしまうからだ。そうなるとほとんどまともに動けないリアでは勝つことはできないだろう。
しかし今のレイにはこれ以外手が思いつかないのも事実。そしてこのままでは負ける。それを避けるためにも、これは絶対に失敗できない不可避の博打だった。
レイが冷気をテイルの目へとぶつける。これはただの目くらまし。
視界が回復したテイルは、反撃しようとレイを見る。そこには、立ち止まり魔法を放つレイの姿があった。
それをテイルが認識したときには、すでに魔法は発動していた。無属性中級魔法『バインド』がテイルを拘束する。それと同時にレイも膝をついた。
(やつは恐らくマナ切れ。よくここまでやってこれたと思うね。だけど、攻撃ではなく拘束にしたのは判断ミスだな。ここで追撃でもないかぎり......まさか!?)
テイルは急いで辺りを確認する。レイと一緒にいたはずのリアがいないのだ。テイルはもうリアは戦闘できないだろうと思っていた。思い込んでいた。しかしそうではなかった。十中八九、攻撃がくるだろうと、攻撃に備えるためにテイルは拘束を解こうとする。
しかし拘束が解けることはなかった。なぜなら、レイが持続してマナを送り続けていたからだ。レイがその場に膝をついているのは、常時マナが抜けていくため、動くことさえできないからなのだ。テイルの目に、してやったりといった顔で笑うレイが映る。
マナが過度に供給されたそれは、並みの攻撃では外れはしない。そして動けない敵は、ただの的でしかない。身体強化によるリアの一撃を背中に受け、テイルも意識を手放した。
『しょ、...勝者、レイ・リアペア!』
その実況の声を最後に、レイはマナの枯渇で、リアは疲労で意識を失った。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
140
-
-
70810
-
-
381
-
-
969
-
-
147
-
-
52
-
-
3395
-
-
141
-
-
29
コメント