異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

気付いたときにはもう遅い

ここはレイの秘密地下室。そこにいるのはレイとリアだ。
 相変わらず部屋は散らかっている。今は辛うじて足の踏み場があるものの、ほとんどが紙によって埋め尽くされている。


「......すごい、散らかってるね」
「整理...は...苦...手」
「そうなんだ、なんか意外」
「...そう...?」
「うん、なんかレイ君ってそういうのしっかりしてそうだったから」
「......」


 そんな会話をしながら、レイは机の上の紙の山を掘り返す。リアは後ろでそのレイの姿を見ていたのだが、ふと足元にあった紙を拾い上げた。
 そこに書いてあった内容を見て、リアが絶句する。そしてばっと顔を上げると、レイに詰め寄った。


「ねえねえ、これどういうこと!? なんなの、王家の不正書類って!?」
「なに...って...、...その...まん...ま...の...意味...だけ...ど」
「なんなの、王家の不正って! 私そんなの聞いたことないよ!?」
「功名...に...隠...さ...れて...た...から...気付か...なく...ても...無理...ない...」
「え、そうなの? てかすごい自然に話してたけど、なんか結構重要なこと話してなかった?」
「なん...の...こと…? 王家...が...不正...して...た...こと...? それ...とも...リア...が...王族...な...こと...?」
「どっちもだよ!?」
「ちなみにリア様は先日王家と離縁しました。非公式ですが」
「なんでそこまで知ってるの!?」


 部屋に入ってきたばかりのファルが、流れるように情報を補足する。それに対しリアが即座に突っ込みを入れた。なかなかの切れ味だ。


「それ...より...これ」
「それよりって! 私最大の秘密をそれよりって!」


 そういいつつも、レイが差し出した紙を素直に受け取るリア。その中身を見て、みるみる表情を変えていった。


「ちょっと待って......離縁計画って......しかも後から何か言われないように、大陸の外まで......ええ、そこまで......でも......」


 リアが紙を見ながらぶつぶつと呟く。それを見たレイとファルが、背を向けて肩を合わせる。


「レイ様、もしかして彼女、知らなかったのでは?」
「まさ...か...そん...な...わけ」
「しかし彼女の反応を見ると......」
「もし...か...して...ミスっ...た...?」
「どうやら彼女が、こちらを調べていたわけではないようですね」
「だっ...て...『秘密...に...つい...て...知っ...てる』...って......」
「彼女が知った秘密の内容について、レイ様は確認したのですか?」
「......あ...」


 つまりは、レイの勘違い。確認を怠ったことによる早とちり。
 そんな二人に、再起動したリアが話しかける。


「レイ君、ファルさん。どういうことか、詳しく説明してほしいんだけど......」
「......見な...かっ...た...って...こと...で...駄目?」
「駄目に決まってるじゃん」
「なぜ問題ないとお思いに?」
「......うぅ...」


 リアとファルのお言葉がレイの心にとどめを刺す。
 もうレイに逃げ道は残されていなかった。






「つまりレイ君は、貴族の立場が面倒だから、距離を置きたいと」
「......そう...いう...こと...」
「これについて知ってるのは?」
「私とレイ様のみです」
「だよね。これって一歩間違えれなくとも大問題なんだもん」
「やめる...つもり...は...ない...よ...。絶対...」


 その言葉には力が籠っていた。それを感じたリアは説得の言葉を飲み込む。何を言っても無駄だと悟ったからだ。
 その変わりか、リアがもう一つ爆弾を投下した。


「なら、私もレイ君と行く。これは確定事項だよ、絶対に覆させないから」


 しかしその言葉に対して、レイは特に反応を示さなかった。反応はしたのだが、リアが想像した反応とは違った。
 それに疑問を感じたリアは、レイに質問を投げかける。


「あんまり驚かないね?」
「だって...、...言わ...れ...なく...ても...連れて...いく...つもり...だった...し...。......連れ...去って...でも」


 最後のほうはリアには聞こえなかったようで、なにを言ったのかとレイに問いただしている。しかしファルにはばっちり聞こえたようである。その顔が一瞬驚きに染まる。レイがリアに対してそのような独占欲のようなものを持っているとは思っていなかったからだ。
 ファルはそのことに驚き、そしてリアがレイからそのように想われる存在であることに、ファルは嫉妬した。それが従者としてのものなのか、女としてのものなのかは、ファルしか知らないことである。



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