異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

レイの師匠

 レイが家に帰ると、メイドから客が来ていると知らされた。
 その客と言うのは、レイの魔法関連の師匠であり、魔導師団に所属している、テルという人物だった。レイが七歳の時に出会い、本人は知らないことだが、レイの計画を後押しした人物でもある。
 二人が会うのはそれほど難しくないのだが、二人のスケジュールが会うことはほとんどない。そのため、レイがテルに会うのは実に一年ぶりとなる。尊敬する師匠に会えるとなって、レイのテンションも少し上がっている。それを機敏に感じ取ったファルの表情は、微笑ましいものを見たといった慈愛に満ちたものだったが、内心とても悶えており、とても人に見せれるものではなかった。実に隠すのが上手い。
 しかしそんなレイも一応は貴族。少なくとも最初は、形式に乗っ取った堅苦しい挨拶をしなければならない。気を引き締めながら、実に面倒だと、レイは思った。


 レイが客間に入る。ドアを開けたのはファルだ。
 中に居たのは、20代の男。凛々しい顔立ちで、街を歩けば、皆が注目することだろう容姿だ。彼が、テル。レイの師匠だ。ちなみに既婚者で、つい先日子どもが生まれたらしい。それを知ったレイは、普段見せることのない、とても優しい表情になった。それを見たファルが(以下略)


「お待たせ...して...申し...訳...ない。...私...が...ヴァン...ディルグ...家...次期...当主、...レイ...ヴァンディルグ...だ」


 レイがテルに挨拶する。それに対しテルも、形式通りの挨拶を返した。


「フランタジア王国魔導師団第二隊所属、テルです」


 そう返答したあと、レイが、ファル以外の使用人を下がらせる。
 全員が部屋を離れたことを確認したレイは、テルに目で合図を送る。それに気づいたテルは、無属性魔法である結界の応用魔法である、遮音結界を構築した。
 そこで初めて、二人が肩の力を抜く。
 そのあと先に口を開いたのは、レイだった。


「お久...し...ぶり...です、...師匠」
「ああ、久しぶり、レイ。随分大きくなったな」


 二人は、先の挨拶とは違う口調で、改めて挨拶を交わす。
 堅苦しい形式上の挨拶では、貴族家次期当主と一軍人という立ち位置であったため、レイのほうが上だったのだが、二人の普段の立場は逆で、師匠と弟子、つまりはテルのほうが上となる。テル自身は、敬語を使う必要はないと言ったのだが、レイとしては、尊敬する相手にため口など出来ない、と絶対に譲らなかった。そして結局テルが折れ、今の形に収まった。


 二人は、そのあとも世間話に興じたあと、話題はテルが来た理由へと移っていった。


「それで...師匠...今日は...どの...ような...要件...で...?」
「ああ、そうだったな。今回来たのは、少し耳に入れておいてほしいことがあったからなんだ。これを見てくれ」


 そういってテルが封筒を差し出す。レイは封筒を受け取ったあと、ファルに手渡した。それの封を慣れた手つきで開けたあと、レイに返した。
 その中身を見たレイの顔が、次第に険しくなっていく。
 レイが中身をある程度読み終わったことを確認したテルは、レイに質問を投げ掛けた。


「どう思う?」


 それに対するレイの答えは、たった一言だった。


「...グレー」


 それに対しテルも、「やはりそう思うか...」と、何か考えている。大方、レイの返答は予想出来ていたのだろう。
 そしてレイは、専門家を頼ることにした。


「...ファル...に...見せ...ても...?」
「ああ、構わない」


 言ってみたものの、許可が出るとは思っていなかったレイは、少し驚いた。
 それが顔に出ていたのだろう、テルが苦笑しながら、続けた。


「まあ、間違いなく国家機密だからね...。でも、ファル君は信用出来るから」


 その言葉に、ファルが礼を返す。


「ファル...見て...」
「御意に」


 そういってファルはレイから紙を受け取る。
 その資料を読み、ファルは無意識に、最後の一文を読み上げた。


「......『以上のことから、ダルタン帝国は、他国に戦争を仕掛ける可能性が高い。今後の帝国の動向に、注意すべし』ですか......」

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