異世界貴族は自由を望む
初授業
学園の入学式から1日。今日から授業があるため、一年生も登校する。この若干そわそわした雰囲気も、今日が初授業だからか。
勿論レイも登校している。後ろにはごく自然にファルが続く。二人の持つ存在感からか、周りには若干の空白地帯が出来上がっている。
しかしそれを、ものともしない少女もいた。
「おはよ、レイ君」
「...おはよ」
レイは何でもないように取り繕い、内心思いっきり苦虫を噛み潰した顔をするという器用なことをした。隣にいるファルは、一瞬表情を崩しかけたが、なんとか持ち直した。それでも周囲には全く悟らせなかったのは流石と言える。
この少女、リアは、レイとファルが最も警戒する人物の一人だ。二人とて、積極的に関わりたいなど、思う訳がない。その為のこの反応だ。
しかしそんな事情知るよしもない彼女は、どんどん話を進めていく。
「昨日なんで返事してくれなかったのよ...周りから痛い人を見るような目で見られたじゃん」
「ような...じゃ...なくて...そのとうり...だと...思う」
レイの気遣いの欠片もない言葉が突き刺さる。
親しい相手なら励ますなりするのだろうが、二人は昨日会ったばかりだ。彼女の中ではともかく、会ったその日にあの態度というのは、レイには考えられないこと。それに返答しろと言われても困るのだ。
「遅れ...る...よ」
レイが一言残して歩き始める。目指すは教室。退屈な時間の始まりだ。
「さて、と...ここにいるお前らは、魔法の行使くらいは出来るよな?」
ここは学園の一角にある演習場。第一から第三まであり、ここは第三演習場だ。
そして整列した生徒に声を掛けるのはフォルテ。今ここで授業をしているのはレイのクラスだ。
この学園は、フランタジア王国一の学園だ。そのため、ほとんどの者は魔法の基礎は出来ており、授業でわざわざする必要もない。とはいえ基礎は大切なものなので、出来ていない者には厳しい補習が待っている。
出来ないと返事をする者はいない。
「そうか、なら一人ずつ魔法を撃ってみろ。魔法の級は問わない。的はあれだ」
そういってフォルテが指差したのは、金属の板だった。真ん中に円が書かれている。距離は二十メートル程度。魔法なら余裕で届く距離だ。
「まずはエルザ。やれ」
「はい!」
そういってエルザと呼ばれた少女が前に出る。そして手に持った学園からの支給品である杖を的に向ける。
彼女が詠唱を開始する。
「火を司る我が魔力よ、今ここに現出し、敵を焼き尽くせ! ファイアストーム!」
詠唱が終わった途端、杖の先に、魔力が集まる。その魔力は、白い色から赤く変わり、そして火を作り出す。
そしてその火が渦を作り、的へと飛んでいった。
しかし的に当たる直前で魔法が消滅した。
少女が、呆けた顔になっているのを見て、悪戯が成功したような顔をしたフォルテが説明を加える。
「あの的は、魔力を霧散させる特殊な金属だ。まあ、量が少ないから、ほとんど出回ってないがな」
多くの生徒が驚愕の表情になる。表情を変えないのはレイを始めとした貴族組。それとリア。
「さて、と言うことで的が壊れる心配もないから、ばんばん撃ってけ!」
そのあとも名前を呼ばれた者から次々と魔法を放つ。そしてフォルテは、その魔法を見ながら、用紙に評価を書き込んでいた。
「次、リア!」
「はい!」
そういってレイの隣にいたリアが前へ出る。
杖を構えて、魔法を発動した。
「ファイアボール!」
詠唱破棄で放たれた魔法は、的に当たって霧散した。フォルテの顔が驚愕に染まる。
「おいおい、あの金属に詠唱破棄の魔法を当てるかよ......」
あの的に魔法を当てること自体はそれほど難しくない。フォルテにも可能なことだ。しかし、詠唱破棄などは、詠唱しない分、詠唱した魔法に比べて威力が劣ってしまう。詠唱というイメージの補強がないためだ。しかしそれで、詠唱した他の生徒より威力をだしたと言うことは、つまりはほかの生徒よりも、自分よりも魔法を上手く行使していると言うことでもある。
後ろからは、「あいつ、詠唱してなかったよな......」「ああ、詠唱破棄だった。間違いない」などといった話し声が聞こえてくる。どうやら魔法が当たったことには気付いていないようだ。
しかしリアは周りの評価など気にせず、レイの元へ戻っていく。
「ねえねえ、見ててくれた? これでも結構自信あったんだよ!」
「ん...そう」
レイは素っ気なく返事を返した。
それに不服だったのかリアが頬を膨らませていると、再起動したフォルテから声が掛かった。
「つ、次、レイ!」
「...はい」
呼ばれたレイが返事をする。その声は、怪我のせいでほとんど出ないにも関わらず、しっかりと周りに響いた。周りがしんと静まる。
レイに出された指示は目立つこと。故に自重は許されない。
レイは、杖を持って立ち上がった。
勿論レイも登校している。後ろにはごく自然にファルが続く。二人の持つ存在感からか、周りには若干の空白地帯が出来上がっている。
しかしそれを、ものともしない少女もいた。
「おはよ、レイ君」
「...おはよ」
レイは何でもないように取り繕い、内心思いっきり苦虫を噛み潰した顔をするという器用なことをした。隣にいるファルは、一瞬表情を崩しかけたが、なんとか持ち直した。それでも周囲には全く悟らせなかったのは流石と言える。
この少女、リアは、レイとファルが最も警戒する人物の一人だ。二人とて、積極的に関わりたいなど、思う訳がない。その為のこの反応だ。
しかしそんな事情知るよしもない彼女は、どんどん話を進めていく。
「昨日なんで返事してくれなかったのよ...周りから痛い人を見るような目で見られたじゃん」
「ような...じゃ...なくて...そのとうり...だと...思う」
レイの気遣いの欠片もない言葉が突き刺さる。
親しい相手なら励ますなりするのだろうが、二人は昨日会ったばかりだ。彼女の中ではともかく、会ったその日にあの態度というのは、レイには考えられないこと。それに返答しろと言われても困るのだ。
「遅れ...る...よ」
レイが一言残して歩き始める。目指すは教室。退屈な時間の始まりだ。
「さて、と...ここにいるお前らは、魔法の行使くらいは出来るよな?」
ここは学園の一角にある演習場。第一から第三まであり、ここは第三演習場だ。
そして整列した生徒に声を掛けるのはフォルテ。今ここで授業をしているのはレイのクラスだ。
この学園は、フランタジア王国一の学園だ。そのため、ほとんどの者は魔法の基礎は出来ており、授業でわざわざする必要もない。とはいえ基礎は大切なものなので、出来ていない者には厳しい補習が待っている。
出来ないと返事をする者はいない。
「そうか、なら一人ずつ魔法を撃ってみろ。魔法の級は問わない。的はあれだ」
そういってフォルテが指差したのは、金属の板だった。真ん中に円が書かれている。距離は二十メートル程度。魔法なら余裕で届く距離だ。
「まずはエルザ。やれ」
「はい!」
そういってエルザと呼ばれた少女が前に出る。そして手に持った学園からの支給品である杖を的に向ける。
彼女が詠唱を開始する。
「火を司る我が魔力よ、今ここに現出し、敵を焼き尽くせ! ファイアストーム!」
詠唱が終わった途端、杖の先に、魔力が集まる。その魔力は、白い色から赤く変わり、そして火を作り出す。
そしてその火が渦を作り、的へと飛んでいった。
しかし的に当たる直前で魔法が消滅した。
少女が、呆けた顔になっているのを見て、悪戯が成功したような顔をしたフォルテが説明を加える。
「あの的は、魔力を霧散させる特殊な金属だ。まあ、量が少ないから、ほとんど出回ってないがな」
多くの生徒が驚愕の表情になる。表情を変えないのはレイを始めとした貴族組。それとリア。
「さて、と言うことで的が壊れる心配もないから、ばんばん撃ってけ!」
そのあとも名前を呼ばれた者から次々と魔法を放つ。そしてフォルテは、その魔法を見ながら、用紙に評価を書き込んでいた。
「次、リア!」
「はい!」
そういってレイの隣にいたリアが前へ出る。
杖を構えて、魔法を発動した。
「ファイアボール!」
詠唱破棄で放たれた魔法は、的に当たって霧散した。フォルテの顔が驚愕に染まる。
「おいおい、あの金属に詠唱破棄の魔法を当てるかよ......」
あの的に魔法を当てること自体はそれほど難しくない。フォルテにも可能なことだ。しかし、詠唱破棄などは、詠唱しない分、詠唱した魔法に比べて威力が劣ってしまう。詠唱というイメージの補強がないためだ。しかしそれで、詠唱した他の生徒より威力をだしたと言うことは、つまりはほかの生徒よりも、自分よりも魔法を上手く行使していると言うことでもある。
後ろからは、「あいつ、詠唱してなかったよな......」「ああ、詠唱破棄だった。間違いない」などといった話し声が聞こえてくる。どうやら魔法が当たったことには気付いていないようだ。
しかしリアは周りの評価など気にせず、レイの元へ戻っていく。
「ねえねえ、見ててくれた? これでも結構自信あったんだよ!」
「ん...そう」
レイは素っ気なく返事を返した。
それに不服だったのかリアが頬を膨らませていると、再起動したフォルテから声が掛かった。
「つ、次、レイ!」
「...はい」
呼ばれたレイが返事をする。その声は、怪我のせいでほとんど出ないにも関わらず、しっかりと周りに響いた。周りがしんと静まる。
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