異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

入学

 王都立フランタジア魔法学園。フランタジア王国と同じ名を持つその学舎は、王家が直接支援している魔法使い育成学園だ。この学園は王家の支援もあり、毎年優秀な魔法使いが生まれている。この国においてこの学園に入学できるだけで、一種のステータスとなる。そしてこの春、この学園に一人の少年が足を踏み入れた。
 少年の名はレイ・ヴァンディルグ。ヴァンディルグ公爵家の次期当主であり、神眼保持者である彼は、父親の命令でこの学園に主席で入学した。






 突然だが、レイ・ヴァンディルグは転生者である。もともとは地球で平凡な高校生として生きていた彼は、事故に巻き込まれ、気が付いたらレイとして転生していた。彼は貴族家に転生したことを知ると、目立たないように、そして死なないように、地球での経験を生かして生活していた。しかしそこで彼は一つのミスを犯した。
 彼のミスとは、地球とこの世界の技術などの発展具合の差を甘く見たことだった。まだ地球で言うところの中世ごろまでしか発展していない世界で、現代の地球の知識を使い生活すれば、当然の如く目立ってしまった。
 そして12歳のとき、ヴァンディルグ家の次期当主にまで登り詰めた。本人の意思とは無関係に。






 レイはため息をついた。彼は自分が次期当主となったことには、自身で折り合いを着けている。しかしこの学園に入学することは、完全に本人にとって想定外のことだった。地球と比べて遅れているこの世界で、レイに学園に行く必要性はない。
 レイにとって学園とは、自分の時間を奪う枷という認識だった。


 そして教室に向かうレイの後ろを歩く少女が一人。吸い込まれそうなほど澄んだ黒い髪に黒い瞳、少し顔に幼さが残るこの少女は、レイの従者にして、もう一人の転生者、ファルである。






 レイとファルの出会いは、レイが九歳のころの出来事だ。レイが気まぐれで歩いて居たとき、スラムのほうからレイの前へと少女が出てきた。レイは相手にするつもりも無かったのだが、その少女の話す言語が、日本語だったため、そうも言っていられなくなった。
 転生して九年、貴族として地球では見ることもなかった黒い部分を直接見ることもあり、当時の彼は疲れていた。そんな時に、情報を共有できるかもしれない同郷の者がいた、という状況は、彼を動かす動機となるには十分だった。
 そしてレイが知ったことは、少女は諜報など、隠密専門の特殊部隊だったこと、この世界に来て日が浅いこと、この世界に来たときには、体は既にある程度成長していたことなど、レイとは状況が違うということだった。
 その後いろいろあったのだが、それはまた今度語るとしよう。
 そしてレイが家を説得、当時既に家の中である程度の発言力を持っていたレイに押しきられ、少女を自分の従者として迎え入れるに至った。
 そんなファルだが、今はレイ一人に忠誠を誓っている。本人が、


「私の忠誠心はレイ様にあるのであって、ヴァンディルグ家にあるわけではありません」


 と豪語しているほどである。








 そしてレイは、自身の教室へと足を踏み入れる。行くことになった以上、彼に手を抜くという選択肢はない。それは、ヴァンディルグ家次期当主としても、今後の影響的にも、絶対に取ることは出来ない選択肢だった。
 教室に入った途端、レイに視線が集中する。
 やはりこの学園での『主席』という肩書きは、注目を集めるのには十分らしい。この事については予想していたため、特に気にすることはない。
 しかしこの世界の神は、彼に厳しいらしい。


「ねぇ」


 席に着いた彼に話しかけた少女。


「私の名前はリア」


 彼が学園に行く上で警戒する必要があると判断した人物の一人。


「これからよろしくね」


 それは彼にとって、波乱と面倒の、幕開けでしかなかった。

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