竜の世界の旅人

ノベルバユーザー196771

新たな仲間

「......颯斗は、迷い人。帰り方を、探してる」
「ああ、それであってる。些細なことでもいい、何か知らないか?」


 一夜明け、颯斗は、自分たちの旅の目的を話した。何か知っていることはないかを聞くためだ。ちなみにハクはまだ寝ている。颯斗とニーズヘッグが呼びかけても起きなかったからだ。
 そしてニーズヘッグの回答は、颯斗の予想をいい意味で裏切った。


「たぶん、転移系の遺跡にあると思う」
「転移系の遺跡?」
「そう。遺跡には、いろんな種類があって、その中の一つ。その遺跡から、あらゆる場所へ行くことができる......って話」
「それは本当なのか!?」
「うん、ただ、場所までは覚えてない。ごめん」
「いや、そういう場所があると分かっただけでも大収穫だ。ありがとう」


 颯斗がお礼を言うと、ニーズヘッグは少し照れたような顔をする。


「別に。それより、つがいの話は考えてくれた?」
「うっ......」


 颯斗が、返事に詰まる。昨日、いろいろ考えすぎて、あまり考えることができなかったのだ。
 しかし、返答だけは見つけていた。


「すまないが、つがいにはなれない」


 ニーズヘッグの表情が曇る。


「何で?」
「俺は、元人間だった。もう竜人ではあるが、まだ人間だった時の考えが抜けてないから、つがいとか言われてもわからないんだ」
「ん......」
「だからすまないが、今の俺では、ニーズヘッグに答えることはできない」
「そう......」


 二人の間を気まずい沈黙が支配する。
 耐えられなかった颯斗が別の話を切り出そうとしたところで、ニーズヘッグが口を開いた。


「なら、私は颯斗についていく」
「え?」


 颯斗が呆けた顔をさらす。ニーズヘッグが何故そのような選択をしたのかがわからなかったからだ。
 ニーズヘッグが続ける。


「人間に恋愛感情めんどくさいものがあるのも聞いたことがあるから知ってる。だから、颯斗が人間だったらたぶん声もかけなかったと思う。だけど颯斗は竜人。私とつがいになっても問題なく、強い雄。なら、このチャンスを逃がす訳にはいかない」


 ニーズヘッグが、捲し立てるように話し続ける。


「でも、颯斗は旅をしている。ここで別れたら颯斗とはもう会えないかもしれない。だったら、ついて行って、心が変わるまで待つ」
「ここに住んでるんじゃ......」
「怪我してたから、治るまで休んでただけ。確かにここにはもう数十年いるけど、別に住んでるわけじゃない。全快したら、また出ていく予定だった。目的もないし」
「いやでも......」
「ついていっちゃ駄目......?」
「うぐっ」


 ニーズヘッグの上目遣いに、颯斗は怯む。
 ニーズヘッグの人化した姿は、控えめに言って美少女だ。艶のある紺色の髪に、澄んだ金色の瞳。顔は綺麗に整っている。そして颯斗との身長差故に、必然的に上目遣いとなる。


「でも、ハクにも聞かないと......」
「私は全然おっけーだよ?」
「......ハク、いつからそこに?」
「途中からだよ。でも邪魔するわけにもいけなかったから」


 ニーズヘッグも気付いていなかったのか、驚きの表情を浮かべている。ニーズヘッグの反応から察するに、ハクの隠密はかなりのものなのだろう。
 ついに、颯斗の逃げ道はなくなった。

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