竜の世界の旅人

ノベルバユーザー196771

名前・これから

 颯斗が、奥から帰ってきた。
 寝そべっていた竜が反応する。


『どうだった?』
「今までと全然違うから、慣れるまでが辛そう。時間が欲しいね」
『まあそうだろうね』


 颯斗は竜の隣に座り込む。


「なあ」
『ん? 何か?』
「お前ってさ、名前あるの?」
『名前? ないよ。いきなりどうしたの?』
「いや、一度も呼んだことなかったなって思って。今は問題ないかもしれんが、後々面倒なことになってもいけないし、聞いておこうと思ったんだ」
『ふーん。あ、それならさ、君が名前を付けて!』
「え、俺が?」
『そうそう。こんな風に人と喋ったりするの初めてだし』


 そういわれて颯斗は考える。この竜に名前を付けるとしたら何がいいのか。


(ピラトゥス山の竜......冬......雪......白い......)


「......ハク、なんてのはどうだ?」
『ハク......ハク......ハク......ハク』


 竜が何度も名前を呟く。その顔はだんだんとにやけていく......ように見えた。


「おーい、ハクさんやーい」


 颯斗が呼んでみても返事はない。どうやら一人の世界に入り込んでしまったようだ。
 颯斗は諦めて、竜、もといハクが現実へ帰還するまで待つことにした。






『ねえ、冬明けまでここにいるとして、その後どうするの?』


 ハクが現実に復帰して、一言目がそれだった。


「旅に出ようかと思ってる」
『旅に?』


 その言葉に頷く颯斗。
 颯斗としても、できれば帰りたいと思っている。そのためには、まず行動しなければならない。そのために竜人の力も手に入れたのだ。


『そういえば、なんであんなところにいたの? あそこは近くに人里もないし......』
「ああ、なんて言えばいいのかな......」


 颯斗は、ハクに自身のことについて話した。
 自分がいたところには、竜などの存在は架空の存在だったこと。そして、なぜ自分がこんな山奥にいたかわからないこと。落下したこと。颯斗がわかることは全て話した。
 その話を聞いてハクが出した答えは、颯斗の仮説の一つだった。


『多分、次元転移者なんだろうね、君は』
「次元転移者?」
『そう。迷い人なんて呼ばれてたりもする。ふと現れて技術をもたらしては去っていった人や、この世界から出て行って戻ってこれた人のことで......』
「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 颯斗はその中の一言に反応する。


「”去っていった”ってのは......」
『それについては、よくわからない。でも、死体が見つかったことはないらしいし、多分帰ったんじゃないかってのがよく言われてる』


 颯斗は歓喜した。もしかしたら、帰れる希望があるかもしれない。それを知れただけでも、それは大きな心の支えとなった。


『あ、旅なら、私も連れて行ってよ!』
「え? 大丈夫なのか?」
『うん、別に大丈夫だよ。ここに住んでるってわけでもないし』
「そうなのか!? てっきり、ここに住み着いているのかとばかり」
『確かに、ここはかなり住み心地いいけど、こだわってるわけでもないしね』


 その言葉に、颯斗は迷う。確かに、竜が味方にいる、というのは、かなりのメリットだ。それに、この世界の常識について、颯斗よりは知っているだろう。
 しかし、である。


「お前の姿、どうするんだ?」


 そう、ハクの姿である。かなり大きく、この世界だとは言え、無問題とはいかないだろう。
 しかしハクはあっけからんとした口調でいった。


『大丈夫だよ? ほら』


 直後、ハクを光が包む。それが収まるころには、その巨体の姿はどこにもなかった。そしてそこにいたのは、一人の美少女だった。
 腰近くまで伸びた髪は、綺麗な銀色で、その瞳は翡翠色で、竜の姿の時と正反対に、柔らかさを感じる。身長はだいたい160センチくらいだろうか。そして何よりインパクトが強かったのが、その隠すことなく現れた、女である象徴だった。ふっくらとした確かなお山が、そこにそびえ立っていた。


「ちょ、ちょっと待て、隠せ! 今すぐ隠せ!」


 そういって颯斗は奥から布を持ってくる。ハクには収集癖があるらしく、洞窟の奥にはいろいろ溜まっている。
 そして颯斗がハクに布を掛けようとする。しかし失念していた。今の颯斗は以前の颯斗ではないのだ。
 竜人の身体能力によって本人の意思より早く到達した颯斗は、制御に失敗して、そのまま突っ込む。そしてはたから見れば、颯斗がハクを押し倒した形になった。


「えっと、私、君なら......番になっても......」


 ハクが頬を赤く染める。


「す、すすす済まない!」


 そういって颯斗がその場から飛び上がる。結局二人が落ち着くまでたっぷり一時間以上かかった。



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