黄金(きん)と壮麗の華

リナ

Wonder現在編-最終話(40) 少女の心

読んで下さりありがとうございます。
それでは本編始まります。


誰もが予想出来なかった事態がその瞬間起こった。

「麗花っ!!」

誰かが麗花の名前を呼んだのだ。

その声はとても暖かく、優しい声をしていた。

麗花)「れ、レオン………?」

レオン)「麗……花!」

大丈夫だよ、レオンは麗花を安心させるようにそう言う。

再会した時の二人は両方共泣いていた。

麗花)[私には分かる。このレオンは本当のレオンだって。]

[良かった。無事で……。本当に良かった。]

レオンの姿を見たルイは目を丸くしていた。

ルイ)「何故……。ここに……?私はしっかり枷をして繋いでおいた筈。」

レオン)「………ハイトが外してくれたんだよ。」

麗花)「えっ………ハイトが?だ、だってハイトは裏切ったんじゃ………。」

レオン)「麗花、ハイトは裏切っては・・・・・いない。」

「ただ、操られてるんだよ……。悪魔に………。」

「話すよ。真実を。」


レオンはそう言うと、語り始めた。

レオン)「僕は、八年前のあの事件の後、ルイの処置によって一命を取り留めた。」

その言葉を聞いた麗花は案の定驚いていた。

なんで、と思っているらしい。

そんな麗花の心に答えるようにレオンは言った。

レオン)「………殺すのは怖かったんだと思う。ルイは自由はくれなかったけど、あの事件を起こしたのも取り返しのつかない事実だけど、それでも完全に悪ってわけじゃなかったんだ。」

その言葉を聞いた麗花はルイのことを見た。

ルイは少し決まりが悪そうに目を伏せた。

レオン)「その後の数年間、僕は必死に特訓して千里眼を身に付けた。その千里眼を使って、麗花のこと見守っていたんだ。」

「そして、麗花が悪魔の討伐に行った時、ハイトはまだ悪魔が残っていることに気がついた。」

「もちろん、退治しようとしてた。でも、ハイトは気付かなかったんだ。背後から襲いかかってくるもう一つの影に。」

「背後から襲いかかって来た悪魔に取り憑かれたハイトは必然的に退治しようとしてた悪魔を逃がすことになってしまった。その悪魔が契約したのがルイなんだよ。」

「ハイトは……麗花を裏切った訳じゃない…………操られてるだけなんだ。」

麗花)「そう………。良かった。」

麗花はそう一言こぼすと精一杯の力で立ち上がり、ハイトに向き直って言った。

麗花)「ハイトに憑いてる悪魔よ、お願いだからハイトを返して。」

麗花がそう言うと、ハイトから何か黒い影が現れた。

肌が、痛い。

このオーラは尋常じゃない。

ただの人間の私でもそう思ってしまう程、悪魔の存在感は大きかった。

そして、その悪魔は低い声で話し出した。

《嫌に決まってるだろう!せっかく良い器が見つかったと言うのに。》

《なんなら、お主はこれ以上の器を提供してくれると言うのか?》

麗花)「・・・・・・いいわよ。」

「提供してあげる。ハイト以上の器。」

《そうか、じゃ、どれなんじゃ。そこの茶髪の娘か?その隣にいる堂々とした男か?それとも…………。》

麗花)「違うわ。みんなじゃない。」

《ならどれじゃ!もしやわしを騙したのか?》

麗花)「騙してない。ハイト以上の器は…………」

「・・・・・私よ。」

《お主がだと!?確かに申し分ない逸材だが。自分を提供すると言うのか………?》

麗花)「ええ。」

麗花は堂々とそう答えた。

私たち(麗花以外)は驚愕しながら麗花に考え直すように求めた。

しかし、麗花は首を振るだけだった。

麗花)「これは、この役目は私がやらなきゃいけない。だから、なんと言われてもこの決断を変える気はないわ。」

レオン)「……なら、絶対に無事で戻ってきて!それだけは、忘れないで!」

レオンが私たちの心境を代表して言う。

麗花)「ええ。もちろんよ。」

麗花はそれだけ言うと、悪魔に向き直り、話しかけ始めた。

麗花)「いいよ。入ってきて。」

悪魔は麗花に言われた通り、麗花の体に吸い込まれるようにして消えていった。

すると、麗花は力無くその場に倒れる。

レオンに抱きかかえられながら、麗花は精神の中で戦っているようだった。


麗花)[ここは………。そうか、私は悪魔を取り込んで……。ここは私の精神の中なのかな……。]

《来たか!望み通り入ってやったぞ!今まであまり誰とも話してないからか、なんか新鮮だの。》

悪魔の声が麗花の精神に直接語りかけるように響く。

[・・・・・・・。]

[もしかして、あなたは寂しかっただけなの?ずっと一人で暗闇の中さ迷って………。]

[そうだよね。私たちみたいな長寿の生物とずっと一緒に居てくれる人なんてそうそういる訳ない。]

《な!!わしはただ最高の器が欲しかっただけで!》

《別に寂しいなどとは思っておらん!》

悪魔は少し焦ったような表情を浮かべる。

その表情を見た麗花は優しく全てを包み込むように言った。

[わかるよ………。]

[つらかったんだね。苦しかったんだね。]

[……痛いのは嫌だよね。]

ポロポロと涙をこぼしながら、麗花は悪魔をじっと見つめる。

[私も、死にたいっていつも思ってた。]

[でも、自分にそんな勇気なんてなくて……。]

[いつも、憧れてた。………“普通”の女の子に。]

[知ってたんだよ。……いくら足掻いても、“普通”にはなれないって。]

[それが私の運命だって。]

[でも、もういいよ。無理しなくていい。]

[……私が、そばにいるから。だから、もう、悪さをするのはやめよう?]

それまで黙っていた悪魔は、麗花の目には小刻みに震えている小さな影に見えた。

刹那、悪魔の姿が暗闇にとけ、麗花の精神内で二つの生物が一つの生物へと同化した。


「……花っ!……麗花っ!!」

それから数十分後、麗花は静かに目を覚ました。

目を開けた麗花は泣いていた。

少し悲しそうに、でも安心しきった表情で私達の方を見ると言った。

麗花)「もう、終わったよ。全部、終わったの。」

そうか、と私達は頷いた。

ただ一人を除いて、その場の誰しもが安堵しかけた時、残念ながら事態はそれで収束しなかった。


レオンの体が、影がだんだんと薄くなっていた。

麗花)「……レオン。」

レオン)「・・・・・・。」

「麗花、本当は気付いてたでしょ?」

「僕はもう、そんなに長くないって。」

麗花)「・・・・・。」

「僕が千里眼の開眼をしたのが三年前。」

「千里眼は三年で術者を蝕み、最後に死を迎える。」

「そして、死を迎えるのは肉体ではなく魂。だから、僕は…………。」

麗花)「……知ってたよ、レオンが千里眼の開眼をしたって言ってた時から薄々感づいてた。」

「でも、折角、やっと会えたのに……こんな事って………酷すぎるよ。」

レオンの薄ピンクに染まった唇がごめんね、と動いた気がした。

「ハイト、今までありがとう。ハイトのお陰で麗花に会えた。」

レオンはハイトに向かってそう言った後、私達の方を向いた。

「えっと、僕はもう麗花と一緒にいられないから、麗花のこと頼みます。」

「ルイ、僕も麗花も君のことは許せないと思う。でも、あの時僕を殺さないでおいてくれてありがとう。しっかり罪を償って、余生を謳歌して。」

ルイにそう言った後、最後に麗花をじっと見つめて言う。

「麗花、もう君の枷は何もない。僕が無意識の内に縛り付けていた鎖も、もう断ち切る。今までありがとう。…………また、生まれ変わって来世で会えたらその時は……“普通”の人として二人で人生を歩みたいって、そう願ってもいいかな…?」

レオンの体が先程よりももっと薄れ、あと幾ばくもないことを伝えていた。

麗花)「………もちろんよ。…………レオン、ありがとう。」

レオン・麗花)「「…………大好きだった・・・よ (わ)」」

「「さようなら。」」

最後に見つめ合って別れを告げた二人は笑顔だった。

これまでにないようなとても幸せそうで、でも少し哀しそうで、様々な感情が混じり合った笑顔だった。

次の瞬間、辺りに光が溢れ、レオンの体は空気にとけ、消えていった。

麗花の頬には涙が光っていたけど、清々しいほど穏やかな顔をしていた。


最終回ということで、1話がとても長くなってしまいましたが、これでこの話も終わりです。
(番外編はあると思います。)

ここまで読み進めて下さった、画面の向こう側のあなた様!本当にありがとうございました!

よろしければ、番外編の方もお付き合い下さればと思います。














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