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短文

果実

恋重ね

美しい詩を詠む人だった。
美しく、悲しい詩を詠む人だった。
恋の詩をうたっていた。

あなた自身には儚さなんてこれっぽっちもなくて、いつも大きな声で笑っていたから、いつもあなたの作品には驚かされた。
同時に、何度もあなたに恋をした。
母にいつもありがとう、と電話越しに手をあげてしまうあなたの書く孤独の貴重さが。
弟に缶ビールを買い与えては、いっしょにバラエティ番組を見て笑い転げるあなたの書く静寂の穏やかさが。
大好きだったの。どうしようもなく、ほんとうにそれはどうしようもなく、愛おしかった。

もう二度と、あなたが選びぬいた言葉を私が目で追うことはない。
だって、あなたにこれ以上恋を重ねても不毛なだけだから。
 
私のこの恋も、明朗なあなたの繊細な言葉でうたってくれたならどんなにいいかしら。

きっとまた、私が恋をするだけね。



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