勇者殺しの勇者

やま

10話 再会

「ここが魔神神殿か。名前だけならここが悪役の住む場所みたいだな」


 イスターシャが「なんですって!?」って怒っているのが目に浮かぶ。彼女に会うのは12年ぶりか。神様だから容姿なんて変わらないだろうけど、もしかしたら会えるかもしれないと思うと、少しワクワクする。


 神殿に入ると、2階の窓から太陽の光が差し込み、中神殿の中を綺麗に照らしていた。左右に長椅子が並び、真ん中が通れる様になっており、1番向こうには演説台の様なものが置かれている。


 そして、その向こう側にはイスターシャと思われる綺麗な女性の像が建っていた。実物を見た俺からすれば、瓜二つとは言えないが、イスターシャであるとわかるぐらいの完成度だった。俺は手先が不器用だから知っていても作れないけど。


「初めてお見かけするお顔ですね。今日はどの様なご用件で参られましたか?」


 俺が入り口でイスターシャの像を眺めていると、横から声をかけられた。水色のウェーブのかかった髪の毛をしており、白と紺のシスター服を着た女性だった。胸は普通だ。クリッとした垂れ目が印象的だ。


「ちょっと、イスターシャ……様に祈らせてもらおうかと思って」


「まあ、そうでしたか。魔法の何かでお悩みの様なら確かにイスターシャ様が1番です。なにせ、イスターシャ様の魔法は、星を作る事も壊す事も出来ると言われているほどの魔法の神様ですから」


 星を作る事も壊す事も出来るって、怖いなおい。そんな相手を俺は呼び捨てで呼んでいたのか。しかも、エロい視線を向けていたし。


 俺は水色の髪のシスターに寄付金を渡して、イスターシャの像の前まで行く。片膝をついて手を合わせて祈る。その時に目も閉じる。魔神イスターシャ。俺の声が届いているなら答えてくれ。また、あのエロい体を見せてくれ。


 俺は真剣に祈りを込めていると、この神殿の中が温かくなるのを感じる。これはまさか、俺の願いに応えてくれたのか? 瞑っていた目を開けると、目の前にはイスターシャの像だけだった。


 俺の気のせいだろうか? 今の暖かい感じはイスターシャが現れたような気がしたんだけど。そう思っていると、後ろからパシンっと頭を叩かれる。


 俺は慌てて振り向くと、そこには腕を胸の下で組んでいるシスターが立っていた。えっ? なんか叩かれるような事したっけ?


 俺はびっくりしながらシスターを凝視していると、シスターは呆れたように溜息を吐く。なんだか今日溜息ばかり吐かれている気がする。少し悲しいぞ、俺。


「もう、なんで気がつかないのよ。せっかくあなたのためにこの子の体を借りて来てあげたのに」


 何故叩かれたかわからずに戸惑っていると、そんな事を言ってくるシスター。えっ? 体を借りて来てあげた? あっ、さっきまでのシスターは垂れ目だったのに、今はキリッとしている。


「あれ? まだ、気がつかないのかしら? 私よ私。私よ」


「どこの詐欺ですかそれ」


 シスターがあまりにも私私も連呼するため、呆気にとられてしまった。いや、この雰囲気からしてシスターの体を借りてイスターシャが来てくれたのだろう。


「久し振りだな、イスターシャ」


「ええ、元気そうで何よりだわ、ええっと、今はアベルだったかしら」


 イスターシャはそう言いながら俺の体をジロジロと見てくる。なんだ?


「いえ、元気そうで良かったわ。いくら転生させたからと言っても、死なない保証は無かったからね。無事で良かったわ。
 それで早速で悪いのだけど、ここに来た理由を教えて頂戴。私もこの子の体を借りれるのは数分も持たないの。あまり長くなると、私の力に耐えられなくてこの子が廃人になってしまうわ」


 まじか。それは急がないといけない。せっかくイスターシャに会えたからもう少しゆっくりと話がしたかったけど。


「俺がここに来た理由はイスターシャから頼まれた事についてだ」


「ふふっ、真面目に取り組んでくれているようで何よりだわ。まあ、あなたの童貞の卒業がかかっているものね」


「う、うるさいやい! それに今はそれだけじゃなくてこの国を守りたいんだよ。大切な人を」


 俺が恥ずかしげにそう言うと、とてもいい笑顔でニッコリとするイスターシャ。物凄く嬉しそうだ。


「ふふっ、この世界に送ったのがあなたで良かったわ」


 イスターシャの姿をしているわけじゃないのに、俺は思わず見惚れてしまった。なんて綺麗な笑みなんだろう。このままずっと見ていたいけど。


「……イスターシャに聞きたいのはあなたから頼まれた事を他の人に話しても良いのかって事だ」


「良いわよ」


「……ええっと、今なんて言った? あまりにも軽過ぎて俺の頭がついていかなかった」


「別に話しても良いわよ。制約しているわけじゃないし。それにあなたもその方がいいでしょ? もし女の子とヤる時に出来ない理由を話さないと困るだろうし。まあわその日が来るかわからないけど」


「くくく、来るし! 絶対に来るし! すぐに来るし! み、見てろよ、イスターシャ! この銅像の前で見せつけるようにヤってやるからな!」


「大切な私の神殿でそんな事しないでぇ! やったら、あなたに神罰を落とすからね! 全く、突然何を言い出すのかしら、この子は。でも、あなたが誰かとヤレる日を待っているわ。その時は勇者を最低5人退けているはずだから……あっ、もう時間ね。もう戻らなくちゃ。
 アベル、今回は特別、次にこの神殿に来ても私は来ないと思って頂戴」


 真剣な表情で俺を見て来るイスターシャ。そうだよな、神様が何度も何度も現れるなんて事はあり得ないもんな。だけど、十分だ。あまりおおっぴらには話せないけど、誰かに話しても良いとわかっただけで十分だ。


「それじゃあ、頼んだわよ、アベル」


 最後にまた見惚れるほどの笑顔を見せてイスターシャは去っていってしまった。神殿に残ったのは意識が戻って慌てるシスターと悩みが1つ解決して清々しい気持ちになった俺だけだった。

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