勇者殺しの勇者

やま

9話 相談

「まあ、そこに座ってよ」


「あ、はい、失礼します」


 俺は緊張しながらも椅子に座る。スロウさんに案内されたのは生徒会室の中の生徒会長室だった。ここにはもう5年も過ごしているけど、この部屋に入るのは初めてだな。


「ははっ、緊張してる? 大丈夫だよ、今は僕たちしかいないからね、はい、紅茶」


「あっ、ありがとうございます」


「ふう、うん、今日の淹れ方は良い感じだ。それでアベル、何が悩みなんだい? まあ、大方わかるけどね」


 そう言いながら優雅に紅茶を飲むスロウさん。女生徒から毎日のようにお茶会に誘われているんだよな。それに俺の悩んでいる事がわかるなんて、流石スロウさんだ!


「ステフとの関係を悩んでいるんだろ? 大丈夫、押し倒したらそのままいけるよ!」


「何言ってんだよ、あんたは」


 余りにも違い過ぎて普通に素で答えてしまったじゃねえか。スロウさんは冗談冗談って言っているけど、どこまで冗談なのか。


「そう怖い顔しないでよ。君が悩んでいるのは強くなる方法と、リティシア様の事だよね」


「……わかっているのなら初めから言ってくださいよ」


「ごめんごめん。それで、初めに聞くけどどうしてリティシア様の騎士になるのを断るんだい? 悪い話じゃ無いと思うのだけど」


「それは……俺にはやるべき事があるからです」


「それって話せない内容なの?」


 俺はスロウさんの問いに答える事が出来なかった。俺がイスターシャからお願いされている事を話しても良いのかわからなかったからだ。


 イスターシャは何も言わなかったから言っても良いのかもしれない。だけど……


「言えないのなら無理しなくて良いよ。何か事情があるんだろうし。でも1つだけ確認するけど、その事はこの魔国に不利益を出す事?」


 スロウさんが尋ねてくると同時に部屋の温度が下がったように感じる。なんて殺気だ。これが将来宮廷魔法師を約束されている人か。


「魔国が不利益を被る事は絶対にありえません。俺の命を賭けて誓えます」


 絶対にその事は誓える。イスターシャからのは魔国を守るためのお願いたし、俺自身この国が好きだ。大切な人たちもいる。そんな人たちがいるのに、俺のやる事が不利益になるようなら、やらなくて良いと思う。俺への呪いも諦める。


 俺とスロウさんがしばらく睨み合っていると、スロウさんがニコッと微笑む。それと同時に部屋の中で張り詰めていた空気が霧散する。


「そう。なら、僕は何も聞かないよ。だけど、リティシア様には話しておいた方がいいじゃ無いのかい? 理由も無く騎士にならないって言っても絶対に納得してくれないよ」


「その事なのですが、どうしてリティシア様はあそこまで俺を騎士にする事をこだわるのかわからないんですよね。小さい時はそんな約束をしたかもしれませんが、まだ、何もわからない子供の頃の話だし」


 俺が真面目にそう言うと、スロウさんは今まで見た事も無いような呆れた表情で俺を見ていた。そして、盛大に溜息を吐く。な、何ですかそれ。


「駄目だよ。それは流石に言っちゃ駄目だよ、アベル君。リティシア様が君の言葉をどれだけ大切にしているのか全くわかっていない」


「言葉……って、そんな大げさな」


 俺が苦笑いをすると、物凄く怖い顔で睨まれた。俺がビビって縮こまっていると、またしても溜息を吐かれる。くっ


「駄目だよ、アベル君。いくら昔の口約束だからって、軽く思っちゃあ。女の子はそう言う事を大切にするんだから」


「……すみません」


「僕に謝っても仕方ないよ。本人に言わなくちゃ。リティシア様な事は君自身で何とかする。わかった?」


「……うっす」


 俺はスロウさんの有無言わさない気迫に素直に頷くしか出来なかった。


「それから、強くなる方法だけど、やっぱりアベル君のお父さんから聞くべきだよ」


「父上からですか?」


「うん。いくら体格が違うからと言っても、アベル君は鬼人族に変わりはない。僕たちエルフ族にもあるけど、一族のみが使える技っていうものが存在するんだよ。ステフの精霊もその1つだ。君にしか出来ない事があるかもしれない」


 一族の技か。確かに俺は父上から基本的な事は習ったが、記憶が戻ってからは、自分の体に合った戦い方を学んでいた。父上はその事に何も言わなかったけど、本来習うべきものがあるのかもしれない。父上に聞いてみるか。


「後は……神頼みだね」


「……神頼みって」


「いやいや、これは馬鹿に出来ないよ? 昔の逸話で力が無いけど、毎日助けてくれる周りの人に感謝していた男の子が、魔神イスターシャ様から力をもらって国一の魔法師になったとか、子供達を守るために力をくださいと願ったシスターが戦神レイヴェルト様から色々な武器を扱える能力を貰ったとか。色々あるんだよ」


 それってイスターシャが言っていた加護ってやつか。てか、そうか、その手があったか! どうして今まで気がつかなかったんだ! 神殿に行ってイスターシャに確認すれば良かったんだ。


 もしかしたら反応しないかもしれないが、それでも、行かないよりは確実に反応する確率は高い! はぁ、馬鹿だな俺は。


「その顔は何か思い付いたみたいだね」


「はい、スロウさんに話して良かったです。リティシア様に関しては俺が話します。すみません、お手間を取らせて」


「構わないよ。親友の悩みを相談するのが親友の仕事だろ?」


 全く気にした様子のない笑顔を見せてくるスロウさん。か、カッコよすぎる。俺はスロウさんに挨拶をしてから部屋を出る。良し、まず目指すは神殿だ。イスターシャの神殿に向かおう!

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