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スキルレンタル商人 〜金で買ったスキル貸しますよ?〜

やま

スキルレンタル商人 〜金で買ったスキル貸しますよ?〜

「あぁ〜、かったりぃ〜。御者なんて受けるんじゃなかった」


「こらっ! そこの商人! わたくしたちはお金を払っているのですよ! 文句を言ってないでちゃんとしなさいな!」


 太陽の陽がジリジリと照りつける中、俺は荷台に乗る冒険者の女性に怒鳴られる。くそ、金に目が眩んで思わず引き受けてしまった。


 欲しいものがあったのだが、この前別のものを買ったせいで金の底が尽きかけていたのもあったせいで、普段受けない御者を受けたのだが……やっぱり面倒だなぁ。


 昔は色々な方法で金を稼いでいたが、あの女に制限されたせいで、真面目に働いた金じゃないと買えなくなったからなぁ。


「もう、メアリーちゃん。そんなに怒っちゃ駄目だよ? 御者さんも暑い中やってくれているんだから。ごめんなさい、御者さん。メアリーちゃんも悪気があるわけじゃないんです」


「あ〜、別に構わねえよ。面倒だけど、仕事を受けたからにはちゃんとやるよ……じゃねえと、金が使えねえからな」


「え?」


「何でもない……それより、嬢ちゃんたちは、冒険者なんだよな?」


「ええ、わたくし、メアリー・ラングレースとその相棒のハルカのコンビで、将来は最強のSランクになる『黒天の星』ですわ!」


 初めに俺に文句を言った金髪で年は17、8ぐらいの魔法師のローブを纏った女性、メアリーは薄い胸を張りながらそう高らかに宣言する。


 ただ、高らかに宣言するパーティー名に黒髪黒目の少女、こちらは歳が15、16ぐらいで、メアリーとは比べ物にならないぐらい大きな胸をしている少女、ハルカは恥ずかしそうに身を拗らせる。


「へぇー、その未来のSランクパーティー様は今はどのくらいなんだ?」


「い、今はまだDランクですわ。で、ですが、後数年後にはわたくしたちの名前は世界に轟いていますわ!」


 おほほ! と高笑いするメアリー。隣でその姿を苦笑いして見ているハルカだったが、話を逸らすように尋ねてきた。


「そういえば、御者さんは商人なのですよね? それにしては荷物が少ない気がするのですが。あるのは、次の町までの食事と私たちの荷物ぐらいですし」


 ハルカはそう言いながら荷台を見渡す。ハルカの言う通り荷台には次の町までの食料と俺の着替えなどが入った荷物に、彼女たちの荷物しかない。まあ、俺が売っているのは普通のものじゃ無いからな。


「俺が売るもんは場所を取らねえからな。それよりも、そろそろ日が暮れるから、野宿の準備をしろよ? やり方知っているよな?」


「はっ、誰に言っているのですか。未来のSランクの私たちは野宿くらい簡単ですわ!」


 再び胸を張るメアリー。そう言うだけあって野宿の準備の手際は良かった。料理以外。料理はどうやらハルカの担当のようで、どこかのお嬢様っぽいメアリーは全く料理が出来ないようだ。


 その代わり、燃やす用の乾いた枝や兎を狩って来たりと、中々の手際で料理以外の事で貢献していた。料理はハルカに任せて、俺は馬に水をやったり餌をやったりする。


 その後は夕食だ。料理は簡単なスープと兎肉くらいだが、結構な出来だった。お嬢様っぽいメアリーも平然と兎肉を食べたりしていたから慣れているというのは本当なのだろう。


 その時聞いた話だが、2人は同じ領地の生まれらしく、メアリーは見た目通りその領地の娘で、ハルカは自分の母親がメアリーの乳母をしていたため、その縁で親しくなったのだとか。


 メアリーは領主の娘だが、姉も兄もいたため、殆ど自由に過ごせたらしい。そして女神メルフィーヤから貰うスキルも魔法スキルとその補助スキルばかりだったので、家を出て冒険者になろうと考えたのだとか。


 スキルというのは、この世界を創ったと言われている女神メルフィーヤが、世界を破壊しようとする魔神たちが創った魔物から人間を守るために与えた力だ。


 守ると言っても何も戦闘のスキルばかりではなく、家事系のスキルや、製作系のスキルもある。様々な種類のスキルがあり、この世界に生を受けた翌年には、スキルを貰う事が出来る。


 一番少なくて3つ、最高で10つ、スキルを持つ事が出来ると言われている。ただ、多いのが凄いというわけではなくて、持っているスキルの相性などもある。


 例えば、魔法強化のスキルを持っているのに、魔法スキルを持っていなければせいぜい使えるとしたら、スキルを持っていなくても使える無属性魔法にくらい。その無属性魔法には攻撃や防御系の魔法が無いので、持っていたとしてもあまり意味が無い。


 逆に全部揃っていたとしても、訓練をしなければただの宝の持ち腐れで使えない。剣術スキルを持っていてもサボっていた奴と、無くても剣術に打ち込んでいた奴が戦って、スキル無しが勝つ事もある。


 簡単に言えばスキルなんてただのきっかけでしか無い。自分に合った指標みたいなものだ。でも、やっぱりある方が強い事が多いため、あるに越した事はないのだけど。


 メアリーは、そのスキルが魔法系とその補助系ばかりで、ハルカが斧術のスキルを持っていたため、ハルカが前衛でメアリーが後衛のパーティーをつくっているらしい。


 他にもスキルを持っているようだが、流石に初対面の俺にはそれ以上の事は教えてくれなかった。逆に話しているようじゃあ危機管理が無さ過ぎるけど。


「そういえば、御者さんのお名前聞いていませんでしたね」


「……そうですわね。わたくしたちだけ名乗って不公平ですわ。あなたも名乗って下さる?」


 そう言い、ジッと俺を見てくる2人。別に明日には別れる御者の名前なんて気にならないだろうに。


「俺の名前はシオンだよ」


「へぇ、あなた、あのシオンと同じ名前なのですね」


「メアリーちゃん。あのシオンってどういう事?」


 俺の名前を聞いた途端、メアリーが反応した。そして反応した理由を饒舌にハルカへと話していく。


 十数年前、今いる国、アルフィード王国の隣、セルイオン王国は、国王の突然死で、国が大きく乱れた。2人の王候補に、それに乗っかり悪事をする貴族。


 治安は悪くなり、貴族同士の争いも増える中、1人の男が現れた。ある時はとある真っ当な貴族の傭兵として。またある時は、悪徳貴族から金を盗み出して貧困な民にばら撒く義賊として。


 素性は一切わからずに、わかっているのは、銀髪に左目が金色、右目が赤色という事だけ。後、雇われていた時に名乗っていたのが『シオン』と。


「ある時を境……国王が決まりある程度落ち着いてからですけど、シオンは表舞台には出なくなりまして。死んだとか結婚したとか、色々な噂が飛び交ったみたいですが……あなたではなさそうですわね。銀髪で金色の左目に赤色の右目。あなたは、金髪に青色の両目。それに何より覇気がありませんもの」


 俺をジッと見てくる4つの目。その言葉に俺は頷く。


「そりゃあそうだろ。違うからな。それよりもさっさと寝ようぜ。明日も早いし。見張りは1人でいいだろう。俺が音鳴りの結界を使うから、魔物や野盗が現れても音がなるし」


「そうですわね。ただ……あなたが見張りの時に何かされないか不安ですわ」


「はっ、ペチャパイは黙ってろ」


 後ろでぎゃあぎゃあと喚くメアリーを無視して、俺は火を絶やさないように乾いた木の枝を入れる。俺が3番の2を担当して、残り朝までを2人に任せた。理由は特には無い。


 2人はそんなの不公平だと喚いたが、俺が折れなかったらようやく眠った。俺は焚き火に目を向けながら指を宙で動かすのだった。


 ◇◇◇


「ここが、目的の町ですわね!」


 荷台から見える町に嬉しそうな声を上げるメアリー。隣に座るハルカもワクワクとした表情を浮かべている。


 道中聞いた話だと、この町でCランクへの昇任試験を受けるらしくやって来たそうだ。


「ふふっ、このCランクの昇任試験に受かれば、ついに半人前を卒業出来ますわ! 女だけで舐められる事もありません!」


 メラメラと背後に炎が燃え上がっているような幻影が見えるメアリー。よほど嫌な事があったのだろう。その姿を見て苦笑いをするハルカ。その光景を見ていると、俺と目があったハルカは


「シオンさんはこの町で何か用事があるのですか?」


 と、尋ねてきた。


「この町では、せいぜい食料の調達ぐらいだな。まあ、寄るところがあるから、数日は滞在するが」


「本当に変な商人ですわね。売っている物がわからなければ誰も買いに来ませんわよ?」


「俺はお得意様相手だからいいの。それより、着いたぞ」


 俺は懐から商人ギルドのカードを門兵へと見せる。メアリーとハルカは冒険者ギルドのカードを見せると、通行の許可が貰える。そして、中の馬車の駐車場で止まる。これで御者は終わりだ。


「ふう、2日間だったけどまあまあ良かったですわ」


「もう、メアリーちゃんったら。ごめんなさいシオンさん。2日間ありがとうございました。これは、依頼料です」


「……ああ、丁度だな。それじゃあ、会う事は無いと思うが開かれて死ぬなよ?」


 俺がそう言いながら馬車を走らせると、後ろで叫ぶ声が。まあ、なんだかんだ言いながらも元気そうだから大丈夫か。


 メアリーたちと別れた俺は、宿屋を見つけてその日は休んだ。特に急いでやる仕事も無かったしな。


 次の日目が覚めた俺は、この町を歩き回っていた。目的は、次の町へ行くための食料の購入だ。


 次の町までは少し距離があるために色々買うために店に行くのだが、商人の俺なら気をつけろと行く先々で言われてしまった。どういう事なのかわからずに尋ねてみると、この町の辺りで赤犬という盗賊団を見かけるようになったのだとか。


 人数は30人ほどでかなりの実力者が多くいるらしく、最低でもCランク相当の手練れなのだとか。そして、そのリーダーが昔、隣国でかなり暴れ回った男だと言う。


 何よりその男の名前は俺と同じ『シオン』と言うらしい。普通に考えてメアリーの話にあったシオンの名前を使っているのだろう。


 まあ、俺はそんなのが現れても大丈夫だから、と話半分に聞いて店を見て歩く。色々なものを見ていると気が付けば夕方。食料もある程度買えたし、後は宿屋で……そう思って帰路についていると、何か人だかりが出来ていた。


 何かやっているのかと思ったが、集まっている人たちの様子からして、あまりいい事ではなさそうだ。聞こえてくる声は治療、や、ギルドにとかそんな事ばかり。


 少し進んでみると、人だかりの中心には、2人の男と1人の女が傷だらけで座り込んでいた。男だけならそのまま宿屋に帰っていたが、その中に一応の知り合いがいればそうは出来ないだろう。それに目が合ったし。


 傷だらけの3人のうち、知り合いである女、メアリーは俺と目が合うと、あの強気の表情は無く今にも泣きそうな表情を浮かべていた。


 3人はそのまま冒険者ギルドの治療室へと連れて行かれ、集まっていた野次馬たちも散っていく。


 俺も野次馬の中に紛れて宿へと帰る。色々と準備しなきゃいけないし。はぁ、本当に昔からああいう女の涙には弱いな、俺は。


 宿屋へ帰った俺は、簡単に準備をしながら日が暮れるのを待つ。直ぐに冒険者ギルドへ行ったとしてもどうせ人だかりが出来ているはずだ。


 日が暮れてから俺は宿屋を出て冒険者ギルドへと向かう。受付嬢に知り合いである事を伝えて面会を希望すると、許可が出た。


 中へ入ると、膝を抱えてベッドの上に座り込むメアリーの姿があった。俺が入って来た事に気がつくと、キッと睨んで来た。


「何の用? まあ、言わなくてもわかりますわ。どうせ他の皆のように笑いに来たのでしょ? あれ程大口を叩いた癖に呆気なく負けて来て、更に仲間すら置いて来たって」


「……」


「そうよ、殺されそうになった私は死ぬのが怖くて大切な仲間であるハルカを置いて逃げたのよ! 笑いたきゃ笑えば良いわ!」


「……」


「何とか言いなさいよ!」


 怒りに任せて近くにあった物を投げてくるメアリー。怒りのせいか口調が変わっているが、これが元々の話し方なのだろう。


 ったく、お前が言うべき言葉はそんな事じゃないだろうに。俺は無言のままメアリーへと近づく。メアリーの腕を掴み止める頃には、投げる物無く涙を流すだけだった。


 ……よく見れば腕には引っ掻き傷のようなものが沢山出来ていた。昨日見た段階では無かったし、傷も新し目だ。自分でやったな。


「本当に馬鹿だなお前は。自分を傷つけている暇があったら他にもやる事があっただろ?」


「やったわよ! ギルドの冒険者たちにハルカたちの救出を頼んだけど、わたくしたちが昇任試験で向かった山は、既に赤犬の根城になっていて。わたくしたちを襲ったのも赤犬だと話したら誰も受けてくれなくて……」


 はぁ、この町には根性のない奴ばかりだな。


「ならなんで俺に頼らない。目が合っただろ」


「……ただの商人であるあなたに頼れるわけないじゃない。昇任試験の監督をしていたBランクの冒険者も叶わなかったのに、ただの商人なんかに……」


「お前、商人なめんなよ。まあ、普通の商人には無理だが、俺ぐらいの商人になると、対価さえ払って貰えばある程度の事は出来るんだよ。お前が俺に然るべき対価を払うと言うのなら、俺は必ずお前の力になってやる。さあ、どうする?」


 俺が真剣に言うと、メアリーも冗談じゃないと感じたのか真剣な表情で俺を見てくる。


「……本当に助けてくれるの?」


「お前が相応の対価を払えばな」


 俺の言葉にメアリーは1度目を瞑って考える。昨日までのメアリーなら俺のこんなあてにならない言葉なんて一蹴していただろう。こんな俺にでも縋りたいほど、疲弊しているのか。そして


「わかりました。私の全てを差し上げます。この私の体を。だから……だからお願いします。ハルカを……ハルカを助けてくださいまし!」


「あっ、ペチャパイの体はパスで」


「なんでですのぉぉぉ〜!!!」


 俺が拒否すると涙目で抗議してくるメアリー。少しは気がまぐれたようだ。俺は文句を言いながら自分の体がどれだけ良いか話すメアリーを無視しながら指を動かす。俺だけにしか見えない画面を動かすため。


 ……よし、さっきのメアリーの宣言で渡せるようになっている。俺は中から3つの項目を選択してメアリーへと渡す。すると


「……え? 体の傷が治っていく」


 帰って来てからボロボロだったメアリーの体の傷がみるみるうちに回復して行ったのだ。


「メアリー、お前の代価は貰った。それに対して今、メアリーに『自動回復』『魔法強化(特大)』『身体強化(特大)のスキルを貸している。その結果が今お前の体に起きている事だ」


 俺があの女から渡されたスキル……『スキル購入権』でコツコツと買って集めて来たスキルを『スキル貸与権』によって、メアリーに貸与する事が出来た。


 メアリーは本来ならあり得ない事に驚き目を見開いて俺を見てくるが今はそれどころではないはずだ。


「ほら、さっさと行く準備をしろ。早く助けに行きたいんだろ?」


「……え、ええ、勿論ですわ!」


 それから準備が出来たメアリーを連れて俺たちは馬車へと向かう。俺の馬だけを連れて町を出た。馬に2人乗りをする俺たち。


 メアリーが何かと尋ねてくるが、どうせ後でまた説明しなければいけないのだ。今は黙っている。後ろでメアリーが怒鳴っているけど。


 町から少し馬を走らせるとメアリーたちが試験を受けるためにやって来た山へと辿り着き、中へと入る。メアリーの指示で馬を走らせていると


「……っ! 矢が来ますわ!」


「わかっている、よ!」


 侵入者である俺たちを捕らえるためか、四方か矢が放たれた。俺は馬をさらに加速させ矢を避ける。馬には少し無理をさせるが許してほしい。


 矢は止まないまま馬を走らせると、開けたところに出た。そして一斉に放たれた魔法。ここに誘い込むために矢を放っていたのか。


「ど、どうするのですの!?」


 後ろで慌てるメアリー。俺は昔買ったスキルの1つ『次元箱』から1振りの剣を抜く。次元箱は魔力の量に応じて異空間に物をしまえるというものだ。商人にはとてもありがたいスキルだ。まあ、俺の次元箱の中には売るもんは入ってないが。


「かき消せ、ディザスター!」


 俺が取り出した赤紫色に輝く剣、ディザスターを振ると目の前を覆い尽くすほどの魔法をかき消した。対魔法用の剣であるディザスターは、物理に対しては全く切れ味のないポンコツだが、魔法に対して最強を誇る。魔法なら切れないものは無い。


 一振り、二振りと振ると、目の前を覆い尽くしていた魔法は消え去った。その向こうには驚きの表情を浮かべる野盗たちが立ち並ぶ。


 そしてその一番奥には偉そうに踏ん反り返っている銀髪の男。左目は黒の眼帯をしている。そして側にはハルカや他の女冒険者もいた。見た限りまだ何もされていないようだ。


「おい、メアリー。あそこに魔法をぶっ放してやれ」


「えっ、で、でも、先程は私の魔法は彼らの魔法師の防御に防がれて……」


「俺がスキルを貸しているだろうが。それがあれば負けない」


 俺が少し振り返ってメアリーと目線を合わせる。揺れていたメアリーの瞳はそれだけで止まり、決意を込めた瞳で頷く。そして野盗たちに向かって炎の槍を放った。


 放たれた炎の槍は、野盗たちの魔法師が発動した防御魔法をいとも簡単に突破して、野盗たちを次々と焼いていく。自分でも予想外だったのだろう、その光景をぽかぁんと見ているメアリー。


「ぼーとするなよ、メアリー。今の一撃で奴らは浮き足立っている。今の内に捕まっている者を……ちっ、うぜぇ!」


「なっ!?」


 まだ自分の魔法の威力に驚いているメアリーに声をかけていると、近づいてくる気配。乗っている馬に負担がいかないように、振り下ろしてくる男の剣を掴み放り投げる。


 男は驚きの声を上げながらも、バランスを上手く取り着地する。周りの生き残った野盗たちもようやく冷静になったのか武器を構える。俺たちも馬を降りてかまえる。


「どこの誰だが知らねえが、俺たちの縄張りに入ってくるとは良い度胸だ。隣国で恐れられた、このシオン様が相手になってやる」


 男の言葉に周りの野盗たちは雄叫びを上げ、メアリーはそれに威圧されてしまっている。全く……。


 俺は萎縮するメアリーの頭を安心させるようにポンポンと叩きながら前に出る。後ろでメアリーが叫ぶが、俺はそのまま真っ直ぐとシオンと名乗る男へと向かう。


 男の前まで立つと、男は下卑た笑みを浮かべながら剣を振り下ろして来た。俺の体を斜めに通り抜ける剣。それを見たメアリーが泣き叫ぶように俺の名前を呼ぶが、次第に声が小さくなっていく。


 理由は切られたはずの俺が、倒れる事も無く、勢いで吹き飛ばされる事も無く立っているからだろう。俺と男の距離が至近距離のため、後ろからは見えていないようだ。俺が剣の刀身を掴んでいる事に。


『動体視力強化(特大)』でゆっくり見える剣を『全魔法適性』の身体強化を使い刀身を右手で掴み、左手の手刀で切ったのだ。


 俺は手に持つ折れた刀身を放り投げ、男のデコにデコピンを放つ。かなり手加減はしたが、巨体の男の体は容易に宙を舞い、地面を何度も跳ねながら吹き飛んでいくが、腕を地面に打ち込むように叩きつけて、勢いを止める。


「クソガァ! ブチコロシテヤル!」


 そして、一瞬で見た目が変わった。スキルを使ったのだろう。確か……『狂獣化』のスキルだったか。思考などが無くなる代わりに、とてつもないスピードとパワーを手に入れることが出来るスキルだ。でも、確か何百と殺さないと元に戻らなかったはずだ。


 もう俺を殺す事しか考えていないのだろう。馬鹿な奴だ。だけどまあ……俺の名前を語って悪事を働いたお前に同情はしない。


「アクティブスキル『勇者』『魔王』発動」


 あの女……女神に傭兵や義賊のやり方で金を稼げなくなってからは、1度も使わなくなったスキルだが、久しぶりに使うか。


 俺がスキルを発動すると、白い光て赤黒い光が俺の体を包んでいく。そして、髪は銀色に代わり、視界には、この世界に溢れる魔力と、死へと誘う死神が見えるようになった。


 左目が勇者の金色の目であり、右目が魔王の赤色の目だ。どちらも魔眼へと変わってしまった。


 この姿に変わったが気にする事なく突っ込んでくる男。もう、恐怖を感じる事も無いか。少し可哀想になって来たから、さっさと終わらせるか。


 俺はスキル『勇者』の能力の1つ、聖剣召喚を使い、右手に一振りの剣を握る。青白く光る聖剣は、まるで俺に対して怒るかのように光を放ち点滅する……そういえば、こいつらには意識があるのを忘れてた。今も怒りに任せて魔力をぐんぐんと吸い取られていく。これはマジでさっさと終わらせないと。


「シネシネシネシネシネ!!!」


「死ぬのはお前だ。覇剣!」


 上段に構えた聖剣をただ振り下ろすだけ。ただそれだけで、聖剣から放たれる斬撃で一瞬にして男は塵となり、山には深い溝が出来た。やば、俺の魔力を取りすぎだ!


 未だに俺の魔力を吸い続ける聖剣に心の中で怒鳴っていると、近づく気配が。振り返ると、無事助ける事が出来たのか、ハルカを支えるメアリーの姿があった。


「……あなた、本物でしたのね」


 目を潤ませながら俺を見てくるメアリー。頰は赤く染まり、少し息も荒い。今にも抱きついて来そうな雰囲気……すまない。


 俺は『魔王』の能力の1つ、闇魔法適性(極地)で2人に魔法をかける。俺と出会う事はなく、別の男と一緒にこの町へとやって来て、そしてその見知らぬ男に助けられたという幻覚を。


 2人はそんな幻覚に気を失う。他の野盗たちにもしておかないと。メアリーたちには、ローブを羽織った謎の男に助けられ、野盗たちは襲われたという風に。


 その後は、俺は次元箱から馬車の荷台を取り出して、捕まっていた女たちだけを乗せて町へと戻る。町に戻って来た俺は、兵士たちに事情を説明して、山で赤犬の野盗が倒れている事、俺は彼女たちを連れて来た事を。


 色々と聞かれはしたが、倒れていた奴らを兵士たちが捕まえたおかげで、俺は解放された。


 既に日は登ったころ、町を歩いていると前から同じように解放されたのか、メアリーとハルカが歩いている。


 2人は俺の事を覚えていないから、そのまま知らんぷりをして横を通り過ぎ……ようとした時


「……必ず追いかけますわ」 


 と、囁くように呟く声。俺は思わず振り返ると、メアリーが微かに微笑んでいるのが見えた……あっ、まだ魔法強化を貸したままだった。そのせいで来る途中でかけさせていた対魔法防御で俺の幻覚を弾かれたのか。


 ハルカはメアリーの呟きが聞こえたのか、何か尋ねているが、メアリーは首を横に振る。俺の事はどうやら話していないらしい。


 少し予定外の事が起きてしまったが、悩んでも仕方ない。次の町を目指すか。早く、あのスキルを買わないと、そろそろあの女がキレそうだ。


 俺は腕を組んでキレる女、女神メルフィーヤの姿を思い出しながら、自分の馬車へと向かうのだった。

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