クリエイトモンスターズ 〜異世界でモンスター育てて生き延びます!〜

やま

20.面倒な男

「……何かあったのでしょうか?」


「わからないけど、ただ事じゃあなさそうだね?」


 ミルムさんは確かに怒る事はあるけど、ここまで怒っているのは初めて見た。部屋を出て隠れながら見に行く。後ろにはミランダさんもついて来ている。


 僕たちは店の中のみであれば、行動が自由にされている。勿論、逃げるような行為は出来ないけど。するつもりもないし。


 隠れながら見に行くと、店の入り口のところでミルムさんと煌びやかな服を着た男性が言い合っていた。中肉中背の金髪の男で歳は20代ぐらいの人だ。


 煌びやかな服を着ていなかったらあまり目立たなそうな人だ。僕みたいに。今も、男の人より服に目が行っちゃうしね。


 ミルムさんはその男の人に向かって何度も、帰って下さい、や、あなたには売らないと言ったはずです、と言うけど、男の人は聞く耳を持たない。


 その様子を見ていたら、僕の後ろから覗き込むように見ていたミランダさんが


「……カルエル・ベルンディ」


 と、呟いた。って事は教養中に何度も名前が出てきた『ベルンディ伯爵の子息』って彼の事か。何でも女奴隷だけを買う男で、ある程度決まりのある奴隷たちの扱いが酷いのだとか。嗜虐趣味があって泣く姿が好きらしい。貴族界の中でも有名なのだとか。


 処罰ギリギリでやっているらしいので、誰も何も言えないらしい。真っ当な奴隷商からすれば、下手すれば自分のところに罰が来るかもしれない客には売りたくないのだとか。


 この店、ティルニール商会もかなり真っ当、それどころか奴隷からしたらこの店に来る事は普通の平民より勝ち組らしい。


 普通の平民だと覚えられない教養を覚えさせてくれて、自分が身につけたいと思ったものも教えてくれる。そして、奴隷として行く先は他の商会などにも売る事はあるけど基本貴族。しかも、クラウドさんが認めた貴族にしか売らないため、奴隷の扱いが悪いところには売らないと決めていると聞いた。


 売られるまでの衣食住がかなりしっかりしているから、奴隷たちからしたら他の店よりこの店に拾われる方が良いんだそうだ。


 そして、今来ている子息は、クラウドさんから許可を貰っていないってわけだ。


「煩いなぁ。別にいいじゃないか、買うと言っているんだから。その素手に買い手が決まっている奴に提示した金額の倍を出してやる。だから、ミランダをここに連れて来い」


 そんな風に話を盗み聞きしていたら、突然ミランダさんの名前が出て来た。振り返ってみると、物凄く嫌そうな表情をミランダさんは浮かべていた。こんな顔初めて見たなぁ。嫌そうな顔も綺麗だなぁ。


「な、何ですか、テルさん? そんな私の顔を見て」


「いや、ミランダさんみたいな綺麗な人が、顔をクシャッてしても綺麗だなぁと思って」


 僕がそう言うとミランダさんは無言のままバシバシと僕の肩を叩いていく。ちょっ、い、痛い! な、なんで!?


 そして、ミランダさんがそんな風に僕の肩を叩くから、2人がこちらを見ていた。音でバレたみたい。ミランダさんを見た瞬間、笑みを浮かべる男の人。そういえば名前知らないや……いや、カルエルってさっきミランダさんが言っていたな。


「やあ、ミランダ! 会いたかったよ!」


 手を広げてこちらへと向かおうとするけど、ミルムさんに行き先を塞ぐように立たれる。


「カルエル殿。これ以上こちらの話を聞かないと言うのなら、こちらにも考えがありますぞ。我々は王家より、販売相手を選ぶ権利を与えられています。我々の言葉に逆らうと言う事は、王家の命令を逆らうという事になりますが、よろしいので?」


 ミルムさんが睨みを利かせて言うと、カルエルはぶるっと震えて何故か縋るようにミランダさんを見てくる。


 その視線を受けたミランダさんは遮るように僕の背に隠れた。僕の腕を抱き締めて。や、柔らかい。当然、その光景をカルエルは許せなくて、僕を睨んでくる。


 僕もミランダさんを守るために頑張って睨み返す。カルエルに効いているかはわからないけど。そんな睨み合いを続けていたら


「そこまでにしたらどうですか、カルエル」


 凛とした綺麗な声が聞こえて来た。皆が声のする入り口の方を見ると、そこには水色のふわふわの髪をした美女、シルフィオーレ様が立っていた。その後ろには、御付きとしてミルさんが立っていた。そして僕を見るなり睨んで来る。な、なんで!?


「彼女たちは私が買うと既に話はついているのです。ここは手を引いた方が身のためだと思いますが?」


 聞いたことない冷たい声でカルエルに言うシルフィオーレ様。カルエルはしばらくシルフィオーレ様とミランダさんを交互に見ていたけど、悔しそうに店を出て行った。


 ふぅ、ミランダさんも面倒な人に絡まれているなぁ。厄介ごとに巻き込まれないといいのだけど。 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品