復讐の魔王

やま

83.同化

 突然目の前に現れたユフィー。でも、今までのユフィーとは姿が全く違う。前まではエルの肩に乗る事が出来るくらい小さく、幼い雰囲気があったのに、今は私とそう大差ない背丈で、全てを包み込むような優しい雰囲気があった。


「何者だ、貴様は!」


 突然現れたユフィーにメディスが蛇を向けてくる。私は危ないと叫ぼうとしたけど、もう声を出す力も無かった。だけど、ユフィーはそんな私に微笑みながら、右手を掲げる。


『私とマリンティアさんの邪魔をしないでください、炎界』


 すると、掲げた右手から炎が噴き出て私たちを囲い、迫る蛇を弾いた。物凄い熱量なのに中にいる私は全く熱くない。


 何度も何度も炎の壁に蛇を打ち付けてくるメディス。それでもビクともしないこの壁を維持するユフィーは、真っ直ぐと私の側までやって来た。


『正直に言います。私にあなたの傷を治す術はありません』


 ……そうでしょうね。回復系の魔法が使えるのは水魔法だけ。エルや勇者の使える光魔法にも似たような事が出来るみたいだけど、火魔法にはそれが出来ない。


 私は水魔法を使えるから普段なら治療が出来るのだけど、この傷を今の魔力量で治す事は無理だ。


『でも、あなたを助ける方法はあります』


 ……どういう事? 傷を治す事が出来ないのに、私を助ける事は出来るって。動かない体で次の言葉を待っていると


『私と同化すれば、あなたの傷は治るでしょう』


 と、言われた。私はどういう事なのか言われた事がわからずに、少し考える時間が欲しかったけど、それより先に私の体に限界が来ていた。


 血を吐く私を見たユフィーが、倒れる私の横にしゃがみ込んで私の顔を覗き込んでくる。申し訳なさそうにしているのは、説明が出来ていないからだろうか。


 私が彼女と同化してどうなるのかは全くわからない。だけど、彼女ならエルたちに不利になる事はないと確信が出来る。だから私は頷いた。


『わかりました。それでは同化しますよ』


 ユフィーはそう言いながら顔を近づけて……えっ? 目の前にあるユフィーの顔。触れる柔らかな唇。そして、体の中に染み込む暖かい感覚。ユ、ユフィーにキスされた!?


「ちっ、鬱陶しい壁だな! 突き破れ!」


 体が熱くなる中、炎の壁を突き破ろうと迫る蛇が見える。少しずつヒビが入っていく壁に焦るけど、私を包む温もりが安心させてくれる。そして次の瞬間、体から炎が溢れ出る。


 溢れ出た炎は1本の火柱になって迫って来た蛇の頭を焼いていく。気が付けば体の痛みは無くなっていた。立つ事も出来る。


 そして同時に色々な記憶が頭の中を駆け巡る。知らない記憶だけど、知っている記憶。とても大切な記憶。忘れてはいけない大切な家族との記憶、勇者たちに襲われた悲惨な記憶。そして、とても大切な愛しの彼との記憶。


 正直この記憶は羨ましい。彼との思い出はまだかなり少ない。それに比べて私の記憶の中には沢山の彼との記憶がある。本当に羨ましい。


「ふう、自分の記憶で楽しむのは後にしましょう。まずは彼女をどうにかしないと」


 なんだか口調も変わっているような気がするけど、それも後にしよう。まずは私を睨んでくる彼女を倒さないと。


「……お前は誰だ? 魔王の娘はどこへ行った?」


 おや? 私がその魔王の娘なのだけど……そこでようやく私は自分の姿に気が付いた。私の髪の毛は紺色に変わっており、服装も胸元は氷のように煌めいた鎧をつけており、腰から下、足首までは炎のように揺らめくスカートを履いていたのだ。


 氷を鏡のようにして自分の顔を見てみると、橙色の右目に水色の左目。左右で目の色も変わっていた。確かにこの姿ではだれかはわからないかしら。


「私がその魔王の娘ですよ、メディス」


「……そんな馬鹿な。蛇に噛み付かれて瀕死だったはずなのに」


 傷も治っている今の姿に驚きを隠せないメディス。だけど、直ぐに焼かれた氷の蛇を直して、こちらを見てくる。


 私は右手にドライシス、左手に炎の剣を出し構える。左手の炎の剣はエルの魔王の剣を参考にして作っている。


「行きます!」


 私とユフィーの力であなたを倒す!

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