復讐の魔王

やま

73.謁見

 じゃらんじゃらん、と、音を鳴らす鎖。僕の両手にある手錠から伸びるその鎖は前を歩く女性が握っていた。


「さっきも話した通り、これから皇帝陛下にお会いする。不遜な真似は許さんからな」


 前を向きながらも話しかけてくる女性、氷帝のメディスはそんな事を言ってくる。ゼルテア帝国の皇帝か。確かまだ30代前半の若い皇帝だったよね。20歳半ばで後を継いでそれから帝国を纏めていった天才だったかな?


 僕は黙りながら現皇帝の事を思い出していると、目的の場所に辿り着いたようだ。うわぁ、全員が全員僕を警戒しているよ。


 そしてメディスに引っ張られるまま中へと入ると、のし掛かる圧力。メディスは飄々としているけど、カグヤは顔を青くしている。僕もこの程度は全くだ。ヘルガーさんに比べれば全然だからね。


 僕は臆する事なく堂々と後に続く。視線の先には面白そうに僕を値踏みしてくる金髪の男性。左右には前伯爵のところで会った剣帝ラゲルに、赤髪のグラマラスな女性に、白髪の老人が立っている。僕の前を歩くメディスを含めて彼らが四帝なのだろう。


「そいつが件の男か?」


「はっ! 数日前に起きた大爆発の際に一緒に現れた男です」


 玉座で偉そうに僕を見てくる皇帝。あまりにも不愉快だったので睨み返したついでに殺気を飛ばすと、一気に降りかかる殺気。そして僕の周りを四帝が囲んでいた。


 メディスとラゲルが剣の切っ先を向けて、赤髪な女性が炎を放ち、白髪の老人が拳を構えていた。


「……貴様、不遜な真似は許さんといったはずだが?」


「少し皇帝を見ただけじゃないか」


 僕がやれやれと言うと、さらに殺気が膨れ上がった。ったく、何をそんなに怒っているのだろうか? 元々、皇帝の事を敬う気は無いし。ますます殺気が膨れる中


「そこまでだ」


 と、声が響く。気が付けば四帝の背後に皇帝が立っており、メディスとラゲルを割って僕の前までやって来た。四帝の制止する声を無視して僕の前まで来た皇帝は僕の手錠を壊した。


 その突然の事に騒めく四帝や周りの幹部たち。流石の僕もこれには驚いた。皇帝は気にした様子もなく玉座に戻る。何がしたいんだ?


「皆の者は下がれ。今からこの者と2人で話をする」


「へ、陛下! お待ち下さい! この者と2人きりなど危険過ぎます! せめて、我々四帝をお側に……」


「俺が、負けるとでも?」


 部屋が軋むほどの威圧感がこの場にいる全員を襲う。なるほど、四帝が従うだけはある。耐えれなくなった幹部はその場に倒れ込み、四帝たちは渋々皇帝の言葉に従うしかなかった。


 気が付けば、僕と皇帝の2人だけ。僕帰っていいかな?


「なるほど、あいつによく似ているな」


 そう思ったら突然変な事を言い出す皇帝。訳もわからずに訝しげに見ていると、今まで以上の圧を感じる。さっきまでは耐えられていた僕も、これには膝をついてしまった。な、なんだこれ?


「まさか、俺が転生した時代にあの男の力を引き継ぐ者が現れるとは。それに貴様の中に眠る力。病気で死んだとは聞いていたが、身籠っていたか」


 1人でぶつぶつを言い始めた皇帝。そして1人で納得したのか、僕の方を見てくる。


「取り敢えず自己紹介としておこう。俺の名はクロヴィス・ゼルテア。このゼルテア帝国の皇帝だ。そして、前世の名は魔王ウィルベルト。傲慢を司りし魔王だ」


 皇帝クロヴィスがそういった瞬間、彼の手には黒色なのに眩い光を放つ剣が握られていた。その剣からはとてつもない魔力が吹き荒れる。


傲慢の光心剣エクスカリバー。これが俺の七大罪の武器だ。お前にならわかるだろ? 憤怒の魔王よ」


 ……確かにこの感覚。僕がヘルと出会った時の感覚に似ている。まさか皇帝が魔王だったなんて。


「俺は母親の不貞から生まれたようでな。半分魔族の血が流れているんだよ。誰にも気付かれる事は無く、ここまで来たが。そしてこの力を受け継ぐと同時に、ウィルベルトの記憶も戻った。今の俺はクロヴィスであり、ウィルベルトでもある」


「……その隠していた事をどうして全くの初対面で赤の他人である僕に話す?」


 僕にはそれがわからなかった。別に僕に話さなくてもいい事だ。それを何故?


「お前にも話してやろうと思ってな。魔族の目指した世界を」


「魔族の目指した世界?」


 僕は訳もわからずに聞くしかなかった。

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