復讐の魔王

やま

68.憤怒VS強欲(2)

「行くぞ!」


 俺はヘルに向かい走り出す。ヘルは迎え討とうとニヤニヤと笑みを浮かべながら風心鎌を構えている。


 奴の能力は未知数だ。ここに来る途中に現れた能力や、以前に気が付いた複数人の魔力。元々のヘルの能力なのか、それとも強欲の力により手に入れた能力なのかはわからないが、あの余裕な表情からは色々とあるのだろう。


 だけど、そんな事に警戒して攻めあぐねていたらそれこそ勝てない。少し危険を冒す事にはなるかも知れないが、ここは自分から攻める!


「しっ!」


「はっ!」


 俺は炎心剣を袈裟切りに振り下ろすと、ヘルは風心鎌を回転させ、柄を横に振り炎心剣を弾いて来た。そのまま風心鎌の石突きで突きを放って来るのを、俺は後ろに下がりながら炎心剣で逸らす。


 連続で突いて来る風心鎌の石突きを、炎心剣で下から切り上げ、ヘルへと切りかかろうとするが、ヘルは切り上げられた勢いを利用し、風心鎌を回転させる。


 下から振り上げられる鎌。俺は後ろに体を逸らし、風心鎌をスレスレで避ける。ヘルはその勢いのまま体を回し、右足で後ろ回し蹴りを放って来た。


 俺は右腕で防ぐが、なんて重たい蹴りだ。俺はそのまま蹴り飛ばされてしまった。何度か地面を跳ねて、何とか体を起こした時には目の前に風心鎌を振り上げているヘルの姿が。


 振り下ろされる風心鎌を腰に挿しているクロバで逸らす。そして右腕に持つ炎心剣でヘルの胸元目掛けて突きを放つ。


 しかし、こんな丸わかりの突き、ヘルは余裕な表情で避けようとする。だが、残念な事にただの突きではない。


 炎心剣がヘルへと差し掛かる瞬間、炎心剣はヘルの目の前から消える。持ち主の俺もだ。現れたのはヘルの後ろ。突きがヘルへと差し掛かる時に転移を使ったのだ。


 動きの途中で目の前から消えればヘルも驚くだろうと思ったが、自分の思っていた以上に冷静に振り返って来るヘル。


 振り下ろそうとする炎心剣を風心鎌で受け止めようとしていた。ちっ、油断を誘えると思ったが、平然としてやがる。


「いや〜、良いなぁ光魔法。勇者しか手に入れる事が出来ない魔法。僕も欲しいなぁ」


 ヘルはそう言いながら炎心剣を弾き、風心鎌を横振りして来る。俺は跳んで避けるが、そこに魔法んを放って来た。威力より速度重視の、ウィンドバレットだ。


 転移を使って避けても良いのだが、今回は使わずに自分の周りに炎を竜巻のように発動させる。ヘルのウインドバレットを防ぎ切ると、そのまま炎の竜巻を火の矢に変える。


 火の矢は雨のようにヘルへと降り注ぐが、ヘルは防ぐのではなく、軽やかに避けていく。そのまま俺に近づいてき、風心鎌を振るう。


 俺はバックして下がるが、そのまま峰の部分でついて来た。間に炎心剣をいれてガキンッとぶつかり合った瞬間、体に衝撃が走る。


 俺は踏ん張るが、ズザザァーと後ろに吹き飛ばされる。


「次々行くよ! 鎌イタチ!」


 ヘルはそう言いながらブンブンと風心鎌を振って来る。そして鎌の先から放たれる風の斬撃。さっきのウィンドバレットの時と同じように炎の竜巻を発動。これで防げる、と思ったが、俺の予想に反して切り裂かれた。


 咄嗟に横に飛んで避けて何を逃れたけど、かなりの切れ味になっているぞ。俺も自身の周りに火の球を発動させ、風の刃にぶつける。


 何とか風の刃を掻い潜って、炎心剣を投げる。ヘルは普通に炎心剣を弾くが、弾いた炎心剣の元に転移。空中をくるくるとまわる炎心剣を掴み、再び転移。


「そう何度も同じ手を使われても面白くないんだ……よ?」


「残念、今度は転移しない、だ!」


 俺が転移を使って何度も目の前から背後に転移をしていたからか、ヘルは今度は後ろから不意をついてくると思ったのだろう。残念、転移の光はハッタリ。お前を惑わすための発動だよ。


 俺は振り向こうとして風心鎌を無理矢理振ろうとするヘルへと、炎心剣を振り下ろす。右肩から先を切り飛ばし、ヘルの右腕は風心鎌と共に宙を舞う。


「ぐうっ! やるね!」


「まだまだ行くぞ!」


 ヘルは、右肩を手で押さえながら距離を取ろうとするが、当然逃すわけもない。俺は火の球を放ちヘルを牽制する。


 ヘルに当たれば良いが、この程度の攻撃は当たらないので、逃げ道を塞ぐように牽制に使い、俺は距離を詰める。


 ヘルの顔へ向けて炎心剣で突きを放つ。ヘルは顔を横に逸らして避けるが、そのまま炎心剣を横に振る。咄嗟にヘルはしゃがみ俺に向かって来るが、そこは丁度俺の膝が当たる位置だ。


 左足を振り上げ膝蹴りを放つと、ヘルは左腕で防ぐが、吹き飛び地面を転がって行く。


「ユフィー!」


『了解です!』


 そして、炎心剣に眠るユフィーの力を借り、炎心剣を強化させる。


憤怒の炎心魔剣ラース・レーヴァテイン! 吹き飛ばせ、死炎ノ刺突ラースヴォルカン!」


 強化した炎心魔剣の周りに死圧を込めた死の炎を纏わせる。渦巻く炎は触れるだけで炭に変えてしまう。それほどの炎を突き放つ!


 ボッ! と音がした瞬間、ヘルへと向けて放たれた炎。一瞬にして壁まで迫りズドォン! と大きく大墳墓を揺らす。


 炎の刺突が触れた箇所は溶けてガラスになるほどの熱量。煙も上がりヘルがどうなったか。まあ、残念な事に奴の複数の魔力が消えていない。


「はは、ははははっ! 流石だね、憤怒の魔王!」


 そして、煙の中から現れたのは、大笑いするヘルだった。左半身大火傷を負い、左腕も吹き飛んだというのに奴の余裕は何だ? そう思った瞬間、ヘルは壁際に避難していたクラリスの一族の男に近づき魔力の腕で掴む。そして


「がぁっ!? ああぁぁぁ!」


 なっ!? あいつ、男の魔力を奪っているのか? 男の魔力を奪うと今度は男の腕を魔力で作った腕で引きちぎり、自分の無くなった腕に引っ付ける。


「ふぅ、さあ、始めようか、憤怒の魔王」


 これは面倒な事になったな。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品