復讐の魔王

やま

67.憤怒VS強欲

「はぁ!」


「グギャア!」


 本当に面倒な相手だな、こいつらは。次から次へと現れてくる異形。倒しても倒してもキリがない。クラリスの指示の通り大墳墓の中を進んでいるのだが、こいつらが足止めをするせいで中々思うように進めない。


「本当にこいつらどうにかならないのかしら!?」


 僕の隣でもマリアがイライラとしながらも、異形を倒していく。この異形たちは手足を切ったぐらいじゃ止まらない。頭を潰しても複数あれば動いて襲ってくるし。アンデッド系の魔物よりもタチが悪い。吹き飛ばしたとしても次々出てくるしな。


「エルフリート様! そこを右です!」


 クラリスの指示の通り右に曲がる。だけど、曲がった先は壁で行き止まりだった。僕はクラリスへと振り返るけど、クラリスは頷くだけ。信じて進むか。


 僕は少しビビりながらも壁へと突っ込む。僕は来るであろう衝撃を待ち構えていたけど、特に衝撃もなく壁を突破してしまった。なんだ、ただの幻覚魔法か。


 壁を突き抜けた先は、何もなく階段が繋がっていた。この先って事か。確かに先からヘルの気配が漂って来る。しかもこれは


「この道は私と大叔母様しか知らない下への近道です! これを使えば早くたどり着きます!」


 クラリスの言葉通り、近くにはヘルの気配がする。しかもその他にも気配が。この気配は……


「っ! ど、どうしたのよ、エル!? そんなに殺気を出して!?」


 僕から急に溢れ出す殺気にマリアは戸惑いの声を出す。だけど、これは抑えようが無いよ。忘れる事のないこの気配。この先にはヘル以外にあいつがいる!


 僕は後ろのクラリスたちの制止の声も無視して1人で突っ走る。異形たちが襲って来るが、そんなものに構っている暇はない。


 迫る異形を全て焼き払い、僕は目の前に現れる扉を切り裂く。そしてその先には


「思ったよりも早かったね、憤怒の魔王。まさかこんなに早く追いつかれるとは思ってなかったよ」


「なっ、クラリス! お前ってやつは!」


 僕がたどり着いた部屋には、ヘルにクラリスの父親、敵対した一族の奴らに、そして


「誰だい、彼は? おっ、後ろの彼女たち可愛いね」


「もうっ、マコトの馬鹿! 直ぐに別の女に目移りするんだから! 私だけを見てよ! そうじゃないと、他の女なんて殺したくなるじゃない!」


 ヘルの隣にはヘラヘラと苛立つ笑みを浮かべる勇者マコトに、マコトに抱き付く勇者マユミが立っていた。


「マコトォォォォッ!!!」


 俺は・・我慢が出来ずに、憤怒の炎心剣を構えて、マコトへと迫る。しかし、俺とマコトの間に入る影。俺の炎心剣を軽々と受け止める。


「おっと、彼は役に立つからね。君に倒されるわけにはいかないよ」


「どけぇ! ヘル! 邪魔するんじゃねえ!」


 俺の炎心剣を受け止めた影、ヘルは両手で強欲の風心鎌アダムスデスサイズを握り、下から振り上げる。俺は首を後ろは逸らしてバク転しながら避ける。


「な、なんだよ急に。気持ちの悪い奴だなぁ。殺したくなるよ」


「あんた、マコトに剣を向けたわね! ぶっ殺してやるんだから!」


 俺が攻撃した事に、当然怒るマコトとマユミ。だけど、そんな事は知るか。


「へぇ」


 俺は奴を殺すために体中から魔力を放出する。マコトを前に手加減出来るわけがないだろうが。


「エ、エル、一体どうしたのよ!?」


「マリアさん! 待ってください!」


「どうして止めるのよ、マリーシャ!? どうしてエルはあんなに怒っているのよ?」


「それは仕方ないんですよ。あのヘルの後ろにいる男は……ユフィー様の仇ですから」


 後ろで色々とみんなが話しているけど、俺には全く気にならない。そのままマコトを見据えるだけだ。俺は炎心剣を構えて再びマコトへと向かう。マコトは抜いた剣を構えて迎え撃とうとするが


「おっと、させないよ?」


「邪魔をするなぁ!」


 俺の振り下ろした炎心剣を再び風心鎌で受け止めるヘル。ギリギリと鍔迫り合う俺の剣とヘルの鎌。剣から溢れる炎と鎌から漏れる風。


 ぶつかり合う魔力が周りは吹き荒れて壁を傷付けて行く、俺はそんな事は御構い無しに風心鎌を弾き、下から切り上げる。


 ヘルは俺の炎心剣を風心鎌の柄で弾き、風心鎌を回して突きを放ってきた。風心鎌の柄の先には風が纏わせられており、全てを貫く程の魔力を帯びている。


 俺は腰から空いている左手でクロバを逆手で引き抜き、魔力を流す。クロバの能力である闇魔法を発動、クロバに闇の魔力を纏わせ、風心鎌の柄を弾く。


 ヘルは弾かれた勢いのまま回転し、鎌を振り下ろしてくる。俺は転移でヘルの鎌を避け、炎の斬撃を放つ。


「えっ!? あいつ、今!?」


「……なんで、光魔法が使えるんだ?」


 向こうでマコトとマユミが何かを話しているが、今はそれよりも目の前にいるヘルだ。俺の炎の斬撃を見えない壁に弾かれる。


「悪いけど彼らは色々と実験に使うから倒させる訳にはいかないんだよね。悪いけど、ここで倒されて貰えるかな?」


 そして、吹き荒れる風と魔力。なんて禍々し風だ。まるで死を呼ぶ風のようだ。この風を浴びたクラリスの一族たちは、次々に胸元を押さえて倒れる。あいつが放つ殺気に耐えられないようだ。クラリスも苦しそうにしている。


 俺はクラリスたちを庇うように魔力を再び解放。また俺の殺気とヘルの殺気がぶつかり合い地面が割れる。


「前に言ったよな、ヘル」


「ん? 何かな?」


 俺は炎心剣の切っ先をヘルへと向けて言う。


「俺の怒りに触れたらお前を殺すと。覚悟しろよ、ヘル。お前の姿、塵一つ残さずに消し去ってやる!」


「ははっ、やってみなよ、憤怒の魔王! 君の力、全てを奪ってやる!」

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