復讐の魔王

やま

62.遺体が眠る場所は

「魔王の死体か」


「はい、強欲の魔王と名乗ったヘルという者が、魔王の死体を探して利用しようとしています」


 マリアと揉めた翌日。僕はヘルガーさんに伯爵領で出会った強欲の魔王、ヘルの事を話していた。因みに呼び捨てなのは、昨日の話し合いでそうしてくれと言われたからだ。


 恥ずかしがりながらもそう伝えてくるマリアは可愛かったな。


「……何変な顔してるんだよ、お前は」


 おっと、昨日の事を思い出していたら、ヘルガーさんにそんな事を言われてしまった。僕はごほん、と一呼吸置いて話を続ける。


「それで、何か心当たりはありませんか?」


 僕の質問にヘルガーさんは


「あるぞ」


 と、簡単に答えてくれた。おおっ、やっぱりヘルガーさんは知っていると思ったが、まさかこうも簡単にわかるとは。期待してヘルガーさんの言葉を待っていると


「ここ最近は魔王は倒されていないが、昔に亡くなった魔王がいる。その遺体が安置されている場所があるんだよ」


「それってどこにあるんですか?」


「お前も知っている……いや、知らないといけない場所にある」


 ヘルガーさんは、僕を見ながらそんな事を言ってくるが、全く見当がつかない。一体どこの事を言っているのだろうか? 僕が首を傾げていると


「グランディーク王国の南にある歴代のグランディーク王が眠る大墳墓に置かれている。ここまで言えばわかるだろう。あそこには王以外も眠っているからな」


 それって……そういう事か。確かにそこには王以外も眠っている。そこなら確かに置かれているかも。


「でも知りませんでした。王以外に眠っている人……ハヤテ・エンドウの他にシスティーナさんも眠っているなんて」


「歴代のグランディーク王とシュバルツ家の当主だけが知っている事だったからな。まあ、それも今代で途絶えたが」


「……そうですね。でも、ありがとうございます。教えてくれて」


「構わん。ただ、ハヤテやシスティーナが眠る場所は、王たちが眠る墓所のさらに奥で、侵入されないように罠などが置かれている。門番もな」


 中々先に進むのが手強そうだけど、システィーナさんの遺体を奴に奪われるわけにはいかない。何とか奴より先に辿り着かないと。まあ、奴もその事に知っているかどうかもわからないのだけど。


「ふぅ、いい汗をかいたわ。あら、話は終わったかしら?」


 ちょうど話が途切れたところに、笑顔のメルクリアさんが部屋へと入って来た。後ろには目が死んでいるマリア、ルイーザ、マリーシャ、ミミにローナさんが付いて来た。


 どうやら、僕たちが話し合っている間は、みんなで訓練をしていたみたい。みんな疲れているけど、中でも体力が少ないミミは今にも倒れそうだ。


「つ、疲れましたぁ〜。メルクリアさん、物凄くスパルタなんですよぉ〜」


「……確かに訓練に慣れている私ですらこの有様だ。ミミなんて」


「……」


「ちょ、ちょっと、ミミ!? 返事をしなさい! この子、立ったまま眠っているわ!?」


 そう言い慌てふためくマリアとルイーザたちはミミを担いでソファに寝かせる。その間、メルクリアさんはヘルガーさんの隣へと座り、イチャつき始めた。これもたった1日なのに見慣れてしまった。だって、周りを気にせずにイチャつくのだから。


「それで、話し合いは終わったのかい?」


「あ、はい、終わりました」


 ミミをソファに寝かせ終えたみんなが僕の隣に座ると、メルクリアさんが同じ質問をしてくる。その事に僕は返事をして、次の目的地をみんなに話す。


 グランディーク出身のルイーザとマリーシャは当然知っている場所だ。何度か足を運んだ事もあるしね。


「すぐにでも出るのかい?」


「はい、みんなも疲れているでしょうから、明日には出ようと思います」


「……」


 どうしたのだろうか。僕が答えるとメルクリアさんは黙り込んでしまった。何か変な事を言っただろうか?


「エル、夜になったら私の部屋に来な。渡す物がある」


 そして、メルクリアさんは突然そんな事を言うのだった。


 ◇◇◇


「お主が起こした問題で貴族たちが騒ぎおるわ」


 僕の前に座るでっぷりと肥えた男、グランディーク王であるデンベル。全く、どんな生活をしたらそんな醜い体型になるんだか。


「はぁ……知らないよそんな事は。僕は君たちに力を貸した見返りにあの場所を借りただけ。その話の時にどうなってもいいと君は言ったはずだよ?」


「た、確かにそう言ったが、あそこまでなるとは普通思わないだろう! 伯爵領であり、北の要である砦の1番近い補給地が、今は建て直しのため全く機能していないのだぞ! その間に獣どもが攻めて来たら!」


 ぎゃあぎゃあと喚き散らす豚。全くうるさいなぁ。でも、前の王だと僕の話は聞いてくれなかったし。はぁ、どうしてこの国にしか大きな霊脈は通ってないのか。


「……わかったよ。北には僕の傀儡おもちゃ置いておくから使いなよ。君たちの言う事を聞くようにもしておくからさ」


「そ、そうか! お主の物なら安心して任せられる!」


 僕の提案にホッとして、手に持つワインをがぶ飲みし始めた。うぇ〜、あんなんじゃ味もわからないんじゃないのかい? 見ているだけで気持ち悪くなるよ。


「それじゃあ、僕はもう行くよ」


「ぬ、お主のために食事を用意したのだがいらぬのか?」


「ちょっと急いでいてね。それじゃあ」


 さて、勇者のお墓でも見に行こうかな。

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