復讐の魔王

やま

61.話し合い

「ここがマリア様のお部屋にございます。後はよろしくお願いします」


 ローナさんはそう言うと親指を立ててきた。無表情なせいで中々シュールだ。僕はローナさんに頷いて扉を叩く。


「マリアさん、僕だ、エルだ。部屋に入っても良いかな?」


 僕が扉越しに声をかけるけど、扉の向こうからは返事が無い。うーん、どうしたものか。そう考えていたら、ガチャっと音がして、扉がゆっくりと開かれる。そして、扉の隙間からマリアさんが覗いてきた。


「……何の用?」


「ま、マリアさんと話がしたくて」


 僕がしどろもどろに答えると、マリアさんは無言で扉を開けてくれた。取り敢えず中に入れてくれるようだ。


 マリアさんの部屋は、白を基調としたシンプルな部屋だ。所々にピンクの小物が置かれたり、竜のぬいぐるみが置かれたりと、可愛らしいところもある。


「女の子の部屋をじろじろ見るなんて感心しないわね」


「あっ、ご、ごめん。慣れなくて」


「……まあ、良いわ。それで話って何かしら?」


 マリアさんはベッドに腰掛けると、自分が座る隣をぽんぼんと叩く。そこに座れって事かな? ドキドキしながらすわるけど、特に何も言われなかった。


「話はわかっていると思うけど、さっきの話の事なんだ。まず、僕の代わりに怒ってくれてありがとう。本来は僕が言わないといけないのに」


「べ、別に良いのよ。お母様に対して少しイラっとしたから言っただけだから。だから頭を上げて頂戴。そんな頭を下げられたら、話なんてできないでしょ」


 僕の頭の上で聞こえるマリアさんの声。僕は頭を上げると、マリアさんはホッとしたような表情を浮かべていた。


「それから、メリクリアさんの話なんだけど」


「あ〜、あれは別に忘れて良いわよ。お母様が勝手に言っているだけだから。竜族ってさ、強い相手に惹かれる事が多いんだって。竜に勝てる相手なんて殆どいないじゃ無い? ましてや、お母様たちは竜王、それこそお父様ぐらいじゃ無いと倒せない程だったから」


「そういうのは、マリアさんも同じなの?」


「私? ……そうね。お母様ほどでは無いけど、やっぱり自分より強い人の方が好きね。まあ、それだけじゃないけどね」


 マリアさんはそう言って、僕の方へと体を向けてきた。僕も体を向けるとぽつぽつと話し始めてくれた。


「初めはね、危ない奴って思っていたの」


「危ない奴? それって僕の事?」


「あなた以外に誰がいるのよ。あの頃はあなたは誰でも殺すって目をしていたからね。みんな物凄く警戒していたもの」


 ……僕ってそんな目をしていたのか? 全く気が付かなかった。


「あなたから話を聞いたらその理由もわかったから良かったけどね。それからこの国にやって来て、何日か過ごす内に、あなたへの警戒から興味へと変わってきた」


「……」


「それから、色々な街を移動して、問題へと首を突っ込んでいく内に、なんだかんだ言いながらも、みんなを助けていくあなたへと惹かれていった」


 みんなを助ける? 一体どういう事だろうか? そんな事したっけ? 全く身に覚えのない僕は首を傾げるけど、それを見たマリアさんはくすくすと笑ってくる。な、なんだよ。


「エルは違うって言うかもしれないけど、私の目からはそう映ったわ。勇者に捕らわれていた女性たちを助けて、領地の人を苦しめていた領主を倒した。全く自分には関係ない戦争に参加して獣王を助けて、本来は敵であるはずのミミを助けた。北では、現れた魔王を倒したりね」


 ……そう言われたらそうかもしれないけど、全部は敵を倒す過程で偶々助けただけなんだけど。


「別にエルは助ける必要はなかったじゃ無い? 勇者を倒した後は放っておいても良かったし、領主の座をわざわざ弟の方へと仕向ける必要もなかった。戦争なんか当然参加する必要は無かったし、魔王が暴れた時も、逃げれば良かった。違う?」


 うっ、そう言われればそうなのかもしれない。全く意識はしていなかったが。うぅむ。


「まあ、そうところ全部含めて好きになったって事よ」


 あっけらかんとした雰囲気で、とても重要な事を言うマリアさん。それからは再び沈黙が僕たちを包む。僕から言わないといけないのに、なんて言えば良いのかわからない。いや、言う事は決まっているのだけど、なんて伝えれば……良し。僕はマリアさんの目をジッと見る。そして


「ごめんマリアさん。マリアさんの気持ちは嬉しい。もう復讐しか残っていないこんな僕を好きになってくれて。だけど僕は、復讐が全て終えるまで誰かを好きにはなれない。本当にごめん」


 僕はマリアさんに頭を下げる。女々しいかもしれないけど、僕の中にはまだユフィーがいる。まだ彼女の復讐も終えていないのに、彼女を忘れて誰かを好きになる事なんて僕には出来なかった。


 マリアさんに対して申し訳ない気持ちと、自分の中の女々しい気持ちで一杯の僕は、そのまま頭を下げていると、頭の上から笑い声が聞こえる。恐る恐る頭を上げると、マリアさんが笑っていた。なぜ?


「そんな事わかっているわよ。逆にその人の事を忘れて、私と付き合うなんて言ったら、逆に怒っていたわよ。だから、あなたの気持ちに区切りがついた時で良いから、答えを教えて欲しい。その時の答えで決まるから」


「……でも、この復讐がいつ終わるかわからないら、どれだけかかるかも……」


「それまで待つわよ。これも惚れた女の弱みってやつよね。ふふ、でも、嫌いじゃ無いわ」


 そう言って、再び微笑むマリアさん。僕は真剣にマリアさんと向き合い


「……わかった。いつになるかわからないし、マリアさんを待たせて辛い思いをさせてしまうかもしれないけど、僕の中で区切りがついたら答えるよ。こんな僕でごめん」


「もう、謝らないでよ。私が決めた事なんだから。ほら、この話はもう終わり! 私、エルの事やユフィーの事がもっと知りたいわ。教えて?」


 それからは、ローナさんが夕食に呼びにくるまで、僕は自分やユフィーの事、マリアさんからはマリアさんの事を色々と教えてもらって過ごして行ったのだった。

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