復讐の魔王

やま

57.次の目的地は

「おい、お前らぁっ! こっちに木材運ぶの手伝え〜!」


「うっす!」


 カンコンカンコンと金槌を叩く音。あちらこちらで太い怒鳴り声が響く中、男たちはせっせと必要な材料を運んでいた。


 女たちは、怪我人の手当や料理の炊き出し、男たちの身の回りの世話をしている。子供たちは子供たちで出来る仕事をやっている。


 ヘルティエンスが暴走してから3日が経った。あれから残った貴族たちと兵士たち、それから冒険者たちが力を合わせて街の復興を行なっていた。


 魔賢樹が大暴れした被害は尋常ではなかったが、それでも、生き延びた人たちには活気があった。その理由の1つが、空高く登った火柱だ。


 面倒な事に、僕が放った日輪大葬サンズ・デストラクションを遠目から見た人たちは、あの一撃を、神様が助けるために放った一撃だと勘違いしている。


 まあ、魔賢樹の周りは危険すぎて、誰も誰が放ったなんて見てなかったっていうのも原因の1つだな。


 調子の良い者は、好き勝手に物語を作り、それで金を得ろうとしているのだから、本当に面倒だ。しかも、この状況が状況だからか、他の人たちもそれに縋ろうとする。面倒臭過ぎる。


 そんな事を考えている僕は何をしているかというと


「何か見つかったかしら、エル?」


「いや〜、物の見事に吹き飛ばしちゃいましたね」


 何か残っていないか探しにやって来た。ヘルティエンスが地下で魔賢樹の研究をしていたであろう場所へと。


 ここにはみんながいて、みんなで何かないか探している。僕と同じ七大罪の魔王、強欲を司る魔王ヘルが言っていた言葉。死んだ魔王の死体を利用して新たな魔王を作り出すという。


 奴の実験は成功していた。人間を生贄にする事で実際に魔賢樹は復活したわけだし。だけど、その方法がわからない。どうして魔賢樹は復活したのか。それがわかれば、止める事も出来るのだけど。


「本当に無いですね。でも仕方ないかもしれませんね。逆にエル兄さんのあの一撃を浴びて何かが残っている方が驚きですよ」


 そう言い苦笑いで僕を見てくるマリーシャ。何だか他のみんなの視線も優しい……ん? やっぱり元気が無いな。僕は元気が無い彼女の側に行き、頭を撫でる。


「やっぱり気になるか、ミミ?」


「……エルさん」


 元気が無い人物はミミだった。まあ、当然といえば当然か。ミミは大好きな姉であるカグヤと決別したのだから。


 帝国に一緒に来ないかと誘ったカグヤに対して、ミミは僕たちと一緒に行動して行くとはっきりと答えた。その言葉に嬉しいと思ったのは内緒だ。


 だけど、ミミはただ1人の肉親を裏切った事に罪悪感を抱いているようだ。マリーシャたちが言うには、夜眠っているとうなされているようだし。


「別に僕たちに無理してついてくる事は無かったんだぞ? あのままカグヤについていっても」


「ううん。それじゃあいつもと変わらない。私はお姉ちゃんにばかり頼って生きて来た。この世界に来てからも。そのせいでお姉ちゃんが張り詰めているのもわかっていた。だから……」


「ま、無理するなよ。ミミが思い詰めて倒れては意味が無いからさ」


「はい」


 はぁ、初めはグランディークに対する人質の意味で保護したけど、今となっては守る対象になってしまったな。


 それから暫くは、探して見たけど、やっぱり吹き飛んでしまっており、何も見つける事が出来なかった。


 うーん、どうしたものか。ヘルが最後に言っていた言葉も気になるしな。あいつは『次の死体を取りに行かなきゃ!』と言っていた。


 他にも魔王の死体はあるのだろうけど、僕には思いつかない。ここ数年は倒されていないだろうし。


「何を悩んでいるの、エル?」


「マリアさん。いや、ヘルの言葉を思い出していてね。あいつは魔王の死体を集めている。だけど、ここ最近は倒されたって話は聞かないからさ。どこへ向かったのかわからなくて」


「その事だったら、お父様に聞いた方が早いと思うわ。お父様の情報網だったらわかると思うし」


 ……それもそうだ。魔王の事を聞くには昔からいる魔王に聞く事が1番だ。全く思いつかなかったよ。


 なら、次の目的地は魔国ベルヘイムだな。まあ、一度行った事のある土地なので、僕の転移が使えるから楽ではあるけど。マリアさんも久し振りにバロンさんに会いたいだろうしね。


「それじゃあ、次の目的地は魔国ベルヘイムに決定だね。出発は3日後にしようか」


 僕の言葉に頷くみんな。ミミだけ行った事の無い土地なので少し緊張しているようだけど、まあ、直ぐに慣れるさ。


 さて、もう少し探してみるかな。


 ◇◇◇


 ヘルティエンス伯爵領壊滅事件より1週間後


「ここが、玉座の間だ。慣れているとは思うが、変な事はするなよ?」


 私はラゲルの言葉に頷く。ふぅ、何だか緊張するわね。グランディークの時は歓迎ムードが凄かったけど、ここではただの客。いや、客にすらまだなっていない。自分の実力を見せない事には。


「やあ、戻って来たのかラゲル」


「これはメディス。いつ見ても綺麗だな」


 謁見の順番を待っていると、白銀の長髪の綺麗な女性がやって来た。とても綺麗だけど、ラゲルとも劣らない雰囲気。


「ふん、そんな事はどうでも良い。それよりもお前、あの炎の剣士とやり合ったそうだな?」


「ん? お前さん、あいつを知っているのか?」


「ああ。今思い出しただけでもゾクゾクとするっ! あのドロドロとした殺意、久し振りにドキドキとした」


 顔を紅潮させ、微笑む銀髪の女性。確かラゲルはメディスって言っていたわね。女性の私から見てもとても綺麗だけど、少し危ない感じがするわね。そのメディスを見ていると


「ところで、その女は誰だ? お前の奴隷か?」


 そんな事を言って来た。私は全力で首を横に振る。ラゲルはそんなに否定しなくてもとか言っているけど、こういうところから噂って広まるものだから、初めが肝心なのよ。


「……こいつはグランディークの勇者だ。連れて来れそうだったから連れて来た」


「グランディークの勇者か。役に立つのか? 私が見た2人の男勇者は雑魚だったぞ? 獣王に手も足も出てなかった」


「まあ、何とかなるさ……っと、順番が来たみたいだ。カグヤ、お前は黙って俺の後ろについて来い。俺が説明するからよ」


「わかったわ」


 ふぅ、何としてもここで私の存在価値を認めさせないと。そうじゃないと、グランディークを攻める際に連れて行って貰えないからね。

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