復讐の魔王
56.新たな七大罪の魔王
「魔王……だと?」
僕の目の前に立つ黒いローブを羽織った男。美少女に見間違う程だけど男だろう。その男はニコニコとしながら僕を見てくる。
表情だけなら、どこか楽しそうに微笑んでいるのだけど、僕の直感がこいつは危ないと告げている。親しくする事は出来ない類だ。
「そんなに警戒しないでよ! 僕は憤怒の君と仲良くしたいだけなんだから!」
「僕はさらさらする気は無い。このまま立ち去るというのなら見逃してやる。だが、僕の怒りに触れたらお前を殺す」
僕は憤怒の炎心剣を男へと向ける。男は苦笑いしながら両手を挙げる。
「はは、そう殺気立たないでよ。僕は争う気は無いんだから。僕は実験に来ただけなんだから」
「実験だと?」
「そうそう。僕が帝国から手に入れた魔王の死体を再利用出来るかどうかのね」
あの魔王の死体は元々は帝国のものだったのか。帝国が倒した魔王といえば、60年ほど前に討伐されたと言われる千年樹だったか。
元は魔物のトレンドだったけど、魔王まで進化したんだったか。帝国の北側から食人植物の森に変えて侵略しようとして、当時の皇帝が討伐軍を結成。そして5年の月日をかけて討伐したんだったかな。
「後は、この国の国王の依頼でね……って、うわっ!?」
僕は男の口から国王という言葉が出た瞬間、男へと切りかかっていた。男は軽々と避けるが、額からは汗が流れている。
「ちょっ、ちょっと、どうしたんだい? 僕には敵対するり……うわっ!」
ごちゃごちゃと言っているけど、もうこいつは僕の敵だ。あの男とどこで知り合ったのかは知らないが、この土地の領主であるヘルティエンスへと紹介したのもデンベルのはずだ。
その結果が、この有様だ。家屋は潰れ、人は死に、街は崩れかけている。下手すれば、この街は死んでいただろう。
もうこの国に未練は無いが、あの男が元凶でこうなったのなら話は別だ。僕が1番殺したい奴の仕業なんだからな。
「あの男と関わっているお前を殺す!」
「あちゃ〜、やっぱり国王の事は話すんじゃ無かったね。失敗しちゃった。上手くいけば仲間にしようと思ったけど……無理っぽいね。仕方ない。出て来て強欲の風心鎌」
次に切りかかった瞬間、男の手が輝き、次の瞬間、緑色の大鎌が現れた。大鎌は僕の炎心剣を防ぎ弾いた。
「それじゃあ、改めて自己紹介しておくよ。僕の名前はヘル。強欲の魔王さ。よろしくね、憤怒の魔王」
にこにこと自分の自己紹介をする男……ヘル。あの大鎌は危険過ぎる。そんな気配がする。僕が炎心剣を構えて、様子を見ていると
「おらぁっ!」
ヘルの背後からラゲルが切りかかった。ヘルはラゲルの4本の剣を全て大鎌で受け止める。
「もう、何だよ。せっかく同房と話をしているのに」
「はっ、お前が帝国から魔王の亡骸を盗んだ犯人なんだったな。悪いが殺させてもらうぜ」
その言葉と同時にラゲルの体中から魔力が吹き荒れる。これが奴の本気か。だけど
「はぁ、お前……うざいよ」
ヘルの体からは、それ以上の魔力が噴き出した。しかも、感じる魔力は1つではなく複数だ。本来ならあり得ない。
魔力は人それぞれ違う。人の数だけ魔力の数もあると言っても不思議では無いぐらい。だから、本来であれば、1人の人間から感じるのは、普通は1つだけだ。だからこそ、魔力を追って探索などしたりも出来るのだから。
だが、ヘルの体内から感じる魔力は、複数人分にもなる。どういう事なんだ?
「ちっ!」
「死ねよっ!」
ヘルが振った大鎌をラゲルは4本の剣で受け止めるが、防ぎきれずに吹き飛ばされる。同時に真っ二つに切り裂かれる住宅街。なんて斬撃だ。一振りで屋敷が切り裂かれるなんて。
「ほらほら、どうした! 殺すんじゃ無かったの!?」
「ちっ! うるせえ野郎だ!」
4本の剣で切りかかるラゲル。ヘルは4本の剣を巧みに大鎌で防ぐ。どちらかというとラゲルが押されているか。
さて、俺はどうしようか。このまま2人をまとめて殺してもいいが、2対1になるのは面倒だ。まとめて吹き飛ばすか。
そう思って炎心剣に魔力を集めようとした時、どこからかヘルに向かって矢が飛んでくる。ヘルの感知しづらい死角からだ。
ヘルはそれを避けると、ラゲルから距離を取る。その後も矢がいくつも放たれたからだ。そしてラゲルの側に降り立つ影。あいつは確か……
しかも、丁度ここにマリアさんたちもやって来た。ルイーザは目を覚ましたみたいで、マリーシャが肩を貸している。そして驚きの声を上げる人物が1人。それは
「お、お姉ちゃん!?」
そう、ミミだ。まあ、それも当然だろう。なんせ、ラゲルの隣に立っているのが、ミミの姉で、この国に召喚された勇者の1人、カグヤ・シノノメだったのだから。
「えっ?」
ミミの声を聞いてようやく気が付いたサクヤは、ミミを見て驚きに声を上げる。そして目から涙を流す。
「良かった、ミミが生きてくれて良かったわ。ミミ、こっちに来なさい。お姉ちゃんと一緒に行きましょう」
「えっ? どういう事なの、お姉ちゃん?」
「私はこの国に復讐するために帝国に行くわ。帝国は実力主義の国だから、私もミミも安全に暮らしていけるし、グランディーク王国も力を貸せば潰してくれると約束してくれた。だから一緒に行こう?」
そう言い手を差し伸べるカグヤ。ミミは僕たちを見るけど、誰も何も言わない。自分の進む道は自分で決めるべきだ。そしてミミは
「私は行けない」
そう答えを出したのだった。
僕の目の前に立つ黒いローブを羽織った男。美少女に見間違う程だけど男だろう。その男はニコニコとしながら僕を見てくる。
表情だけなら、どこか楽しそうに微笑んでいるのだけど、僕の直感がこいつは危ないと告げている。親しくする事は出来ない類だ。
「そんなに警戒しないでよ! 僕は憤怒の君と仲良くしたいだけなんだから!」
「僕はさらさらする気は無い。このまま立ち去るというのなら見逃してやる。だが、僕の怒りに触れたらお前を殺す」
僕は憤怒の炎心剣を男へと向ける。男は苦笑いしながら両手を挙げる。
「はは、そう殺気立たないでよ。僕は争う気は無いんだから。僕は実験に来ただけなんだから」
「実験だと?」
「そうそう。僕が帝国から手に入れた魔王の死体を再利用出来るかどうかのね」
あの魔王の死体は元々は帝国のものだったのか。帝国が倒した魔王といえば、60年ほど前に討伐されたと言われる千年樹だったか。
元は魔物のトレンドだったけど、魔王まで進化したんだったか。帝国の北側から食人植物の森に変えて侵略しようとして、当時の皇帝が討伐軍を結成。そして5年の月日をかけて討伐したんだったかな。
「後は、この国の国王の依頼でね……って、うわっ!?」
僕は男の口から国王という言葉が出た瞬間、男へと切りかかっていた。男は軽々と避けるが、額からは汗が流れている。
「ちょっ、ちょっと、どうしたんだい? 僕には敵対するり……うわっ!」
ごちゃごちゃと言っているけど、もうこいつは僕の敵だ。あの男とどこで知り合ったのかは知らないが、この土地の領主であるヘルティエンスへと紹介したのもデンベルのはずだ。
その結果が、この有様だ。家屋は潰れ、人は死に、街は崩れかけている。下手すれば、この街は死んでいただろう。
もうこの国に未練は無いが、あの男が元凶でこうなったのなら話は別だ。僕が1番殺したい奴の仕業なんだからな。
「あの男と関わっているお前を殺す!」
「あちゃ〜、やっぱり国王の事は話すんじゃ無かったね。失敗しちゃった。上手くいけば仲間にしようと思ったけど……無理っぽいね。仕方ない。出て来て強欲の風心鎌」
次に切りかかった瞬間、男の手が輝き、次の瞬間、緑色の大鎌が現れた。大鎌は僕の炎心剣を防ぎ弾いた。
「それじゃあ、改めて自己紹介しておくよ。僕の名前はヘル。強欲の魔王さ。よろしくね、憤怒の魔王」
にこにこと自分の自己紹介をする男……ヘル。あの大鎌は危険過ぎる。そんな気配がする。僕が炎心剣を構えて、様子を見ていると
「おらぁっ!」
ヘルの背後からラゲルが切りかかった。ヘルはラゲルの4本の剣を全て大鎌で受け止める。
「もう、何だよ。せっかく同房と話をしているのに」
「はっ、お前が帝国から魔王の亡骸を盗んだ犯人なんだったな。悪いが殺させてもらうぜ」
その言葉と同時にラゲルの体中から魔力が吹き荒れる。これが奴の本気か。だけど
「はぁ、お前……うざいよ」
ヘルの体からは、それ以上の魔力が噴き出した。しかも、感じる魔力は1つではなく複数だ。本来ならあり得ない。
魔力は人それぞれ違う。人の数だけ魔力の数もあると言っても不思議では無いぐらい。だから、本来であれば、1人の人間から感じるのは、普通は1つだけだ。だからこそ、魔力を追って探索などしたりも出来るのだから。
だが、ヘルの体内から感じる魔力は、複数人分にもなる。どういう事なんだ?
「ちっ!」
「死ねよっ!」
ヘルが振った大鎌をラゲルは4本の剣で受け止めるが、防ぎきれずに吹き飛ばされる。同時に真っ二つに切り裂かれる住宅街。なんて斬撃だ。一振りで屋敷が切り裂かれるなんて。
「ほらほら、どうした! 殺すんじゃ無かったの!?」
「ちっ! うるせえ野郎だ!」
4本の剣で切りかかるラゲル。ヘルは4本の剣を巧みに大鎌で防ぐ。どちらかというとラゲルが押されているか。
さて、俺はどうしようか。このまま2人をまとめて殺してもいいが、2対1になるのは面倒だ。まとめて吹き飛ばすか。
そう思って炎心剣に魔力を集めようとした時、どこからかヘルに向かって矢が飛んでくる。ヘルの感知しづらい死角からだ。
ヘルはそれを避けると、ラゲルから距離を取る。その後も矢がいくつも放たれたからだ。そしてラゲルの側に降り立つ影。あいつは確か……
しかも、丁度ここにマリアさんたちもやって来た。ルイーザは目を覚ましたみたいで、マリーシャが肩を貸している。そして驚きの声を上げる人物が1人。それは
「お、お姉ちゃん!?」
そう、ミミだ。まあ、それも当然だろう。なんせ、ラゲルの隣に立っているのが、ミミの姉で、この国に召喚された勇者の1人、カグヤ・シノノメだったのだから。
「えっ?」
ミミの声を聞いてようやく気が付いたサクヤは、ミミを見て驚きに声を上げる。そして目から涙を流す。
「良かった、ミミが生きてくれて良かったわ。ミミ、こっちに来なさい。お姉ちゃんと一緒に行きましょう」
「えっ? どういう事なの、お姉ちゃん?」
「私はこの国に復讐するために帝国に行くわ。帝国は実力主義の国だから、私もミミも安全に暮らしていけるし、グランディーク王国も力を貸せば潰してくれると約束してくれた。だから一緒に行こう?」
そう言い手を差し伸べるカグヤ。ミミは僕たちを見るけど、誰も何も言わない。自分の進む道は自分で決めるべきだ。そしてミミは
「私は行けない」
そう答えを出したのだった。
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コメント
琴
「えっ?」の次の文に出てくるカグヤの名前がサクヤになっていますよ