復讐の魔王

やま

55.日輪大葬

「魔賢樹よ! 町中の人間の血を吸収するのだ!」


 ヘルティエンス伯爵……いや、ヘルティエンスの命令を聞いた魔賢樹は、目に入る全ての人間に向けて蔦を伸ばした。


 しかし、人間たちへと伸び切る前に全てが切り落とされる。町中に切られた蔦の先端が落ちて、地面が大きく揺れる。


「なっ!? 何が起きた!?」


 そんな光景を見たヘルティエンスは、驚きと戸惑いの声を上げる。それも当然だろう。自分が最強だと疑わない魔賢樹の攻撃が全て防がれたのだから。


「この程度か、最強っていうのは」


「何だと!?」


 魔賢樹を侮る声にヘルティエンスは怒りの声を上げる。そして声の元へと顔を向ける。その声の主は当然ぼくだ。そして、蔦を全て切り落としたのも僕だ。


 憤怒の炎心剣をヘルティエンスに向けながら挑発すると、ヘルティエンスは怒って魔賢樹に僕へと攻撃するように指示を出して来た。予想通りだ。


「死ね!」


 僕の周りの地面から生えてくる魔賢樹の蔦。その全てが僕はと向かってくる。僕は地面から跳び、向かってくる蔦を避ける。当然、その後を追いかけてくる蔦。


 僕は魔賢樹へと近付こうと、街の中を走り抜ける。街の中は悲惨なものへと変わっていた。潰れ果てた家、所々赤く染まっている地面、僅かに残っている人間だったものの肉片など。


 それらを見ても何とも思わない僕。以前は怒りに燃えていたんだろうけど。今はそれ以外の事に怒っているからかな?


 まあ、今は関係無い。取り敢えずあの魔王もどきを潰す。その前に何度も伸びてくる蔦をどうにかしないと。近づくにつれて増えてくる蔦。今の数は20本を超えている。


 家すら容易く潰す程の大きさの蔦が20本以上僕を狙って伸びてくる。僕を叩き潰そう、突き殺そうと伸びてくる蔦を、避け、炎心剣で切り落とす。


 しかし、切った側から新たに生えてくる蔦。なんて再生速度だ。これだけなら確かに魔王級と言っても良いかもしれないね。


「ふはははは! どうした小僧! 啖呵を切っておいてこの程度か?」


 ……うるさい奴だ。直ぐに殺してやるよ。僕は大切な家族であるみんなを探す。疲れているところ申し訳ないが、彼女の力を借りないとあの技は使えない。魔力を探して……いた!


「マリアさん!」


「エル!」


 マリーシャとミミを介抱していたマリアさんを見つける。魔力切れだった2人は何とか魔力を回復させて目を覚ましていたが、少し体が辛そうだ。でも、今何が起きているのかはわかっているみたい。


 ルイーザはまだ目を覚ましてい無くてマリーシャが背負っている。ミミは回復魔法をかけてくれているみたい。


「エル、どうしたの?」


「時間が無いから手短に話す。マリアさん、あの技を使うから魔賢樹の周りを氷の壁を大きく作ってくれ。頼む」


 僕の言葉に顔を青くさせるマリーシャとマリアさん。見たことのないミミは、ルイーザを回復させながらも首を傾ける。前に初めて使ったのは、魔王城での訓練や時だからね。


「……使うしか無いのね?」


「ああ」


 魔賢樹は、どこが弱点がわからないけど、そこを切らない限り再生するだろう。再生にも限度はあるだろうけど、どのぐらいあるかはわからないので、そんなに時間はかけていられない。


 それなら、あの技で全てを……。


「……わかったわ。街の事は私に任せなさい。その代わり」


「ん?」


「終わったら、いっぱいお礼をしてもらうからね?」


 ウィンクをしながらそんな事を言ってくるマリアさん。僕は苦笑いで頷くしか無かった。でも、これで心置きなく放てる。


 僕は再び魔賢樹の蔦を切り落としながら近づく事に専念する。その間魔力を集めて。


 切った側から再び再生する蔦。炎心剣を構えて何度でも切り落としてやろうと思った時、僕へと向かっていた蔦が全て切り落とされた。これは


「よぉ、何をやるかは知らねえが手伝ってやるよ」


 両手、魔力の手で4本の剣を持ったラゲルが別の家の屋根に乗っていた。


「何のつもりだよ?」


「いや、俺の目的の1つにあれの排除が残ってるんだけどよ。俺がやると時間がかかるだろ? だから出来る奴に任せようかと思ってな」


 こいつが誰なのかは知らないし、何の目的でこの街にいたかも興味は無いが、勝手にやってくれるというなら好きにさせよう。ルイーザたちを傷つけた事は許さないので後で殺すけど。


「勝手にしろ」


「おう、勝手にさせてもらうぜ」


 そう言って、僕に集まる蔦を次々と切り落としていくラゲル。これで魔力を集めるのに時間を使える。


「はあぁっ!」


 僕の体内から噴き出す魔力。赤色に輝く魔力が全て憤怒の炎心剣へと集まっていく。炎心剣を両手に持ち空高く掲げる。


 魔王になって何百倍にもなった魔力の大半を消費する程の技。僕が編み出した極大殲滅魔法。


 空高く掲げた憤怒の炎心剣から放たれる魔力は、空で集まっていき丸く形を作っていく。渦巻く僕の魔力は少しずつ丸みを帯びていき、中から炎が吹き荒れる。


氷の城壁アイスランパート!」


 僕の魔法を見たマリアさんが、予定通り魔賢樹の周りに氷の城壁を作り出してくれた。僕の方を見て頷くマリアさん。良し、これで心置きなく撃つ事が出来る。


 その間も魔力を流し込んでいた魔法は、1つの球体へと姿を変えた。爛々と輝く球体はまるで、小さくなった太陽のように、辺りを照らしている。


「ヘルティエンス、お前が雑魚だと言った勇者と魔王の力を見せてやるよ! 消し飛べ! 日輪大葬サンズ・デストラクション!」


 炎心剣を振り下ろすと同時に、輝く球体は、魔賢樹へと放たれる。魔賢樹は危険を察知したのか蔦の全てを防御に回す。しかし、そんなものは無意味だ。何故なら全てを燃やし尽くすからだ。


 天高くから降り落ちし球体が、魔賢樹へと落ちた瞬間、辺りを轟かせる轟音。同時に空高く光の柱がそびえ立つ。輝く柱は、遠くから見る者の心を奪っていくが、近くにいる者は命を奪われていく。


 魔賢樹は再生しようとするが、再生した瞬間から再び燃やされ最後は消炭すら残さなかった。ヘルティエンスなんて燃やされた事もわからないまま消し飛んだだろう。


 屋敷があった場所に大きな穴が残っただけ。穴の中も全てが溶けてマグマのようにドロドロと溶けたものが溜まっている。マリアさんが氷の城壁で覆った中は全て吹き飛んだ。


 氷の城壁も蒸発してしまったけど、城壁があった場所より外には被害が無かった。ありがとうマリアさん。


「流石は憤怒、桁外れの力を持っている。その力欲しくなっちゃうな!」


 僕が屋敷があった場所の状態を確認していると、後ろからそんな声が聞こえてくる。振り向くとそこには、ヘルティエンスの側にいたローブの男が立っていた。


「誰だ、お前は?」


「おっと、そんな殺気立たないでよ。君と同類なんだから」


「同類だと?」


 僕が警戒しているのがわかったのか、男は自分のローブに手をかけて外す。ローブの中から現れたのは、少女に見間違うほどの顔をした少年だった。


「そうだよ。君と同じ七大罪に選ばれた魔王の1人さ」

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