復讐の魔王
54.魔賢樹
「何だあれは?」
僕は、地面から次々と伸びて出て来る蔦のようなものを見ながら呟いてしまった。紫色をした蔦は、太さが1本1本太く、所々に目が付いている。そんな蔦が地面から大量に生えて来る。
「あれが、ヘルティエンス伯爵の研究の成果か。これはまた変なものを作ったものだ」
僕たちから少し離れたところで、ラゲルがそんな事を言っている。やっぱりあれが地下から発せられた気配の正体か。
地面から伸びて来た蔓は、近くにいる人間へと手当たり次第巻きついていく。敵味方関係なく。そこには兵士もいれば、文官、侍女もいる。
巻きつかれた人は、バキバキと音を鳴らし、全身の骨が砕かれる。それだけではなく、あの木は人間の血を養分としているようだ。体内から溢れる血を吸収している。
当然僕たちへも迫る蔓。僕は気を失ったマリーシャとミミを抱えているため、剣を持つ事が出来ない。逃げばかりになる。
ラゲルの方は、迫る蔓を次々と切っていくけど、切った側から蔓が生えてくるのだ。本当に面倒なやつを。
「エル!」
僕たちの方は人数が多いためか、多くの蔓が伸びてくる。迫る蔓を避けるけど、次々と向かってくる。マリアさんが、迫る蔓を切ってくれるけど、切っていく以上に生えてくる蔓。次第に囲まれてくる。
仕方ない。2人には少し我慢してもらおう。なるべく揺らさないようにはするから。
僕は両足に炎を纏わせる。ただの炎では無く、憤怒の炎を。そして迫る蔓を下から蹴り上げる。ズドォン! と大きな音と共に、打ち上げられる蔓。そこから炎が燃え上がっていく。
燃え上がるのを感じたのか、全ての蔓の動きが鈍くなる。今の内に屋敷から離れる。
「エル、大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ。マリアさんは?」
「私も何ともないわ。それにしても、こんなものを作っていたなんてね」
「全くだよ。あれは何なんだろうね?」
「あれは、魔王だよ」
僕とマリアさんが話していると、何故かラゲルが会話に入って来た。何の用だよ?
「そう邪険にするなよ。今は同じ敵を相手する仲間だろ?」
こいつ、どの口が言ってるのか。だけど、まあ良い。こいつは、僕たちの知らない情報を知っているようだから、聞くだけ聞くか。
「それで、魔王ってどういう事だよ?」
「あの樹にはな、昔の帝国が倒した魔王の死体と、人間たちを使って造られた人工の魔王だよ。人間を生贄に、魔王を復活させたんだよ」
「その通りだ!」
ラゲルの話を聞いていると、大元の樹の方から声がした。そこには、この騒動の元凶であるヘルティエンス伯爵と黒いローブを着た人物が、樹の根元に立っていた。
「全く役立たずの冒険者どもめ。襲撃すら防げんとは。仕方なく私の力を使ってやったわ。まさか、帝国の剣帝が混じっているとは思わなかったが、この魔賢樹には勝てまい! さあ、やれ、魔賢樹! 奴らを根絶やしにしろ!」
ヘルティエンス伯爵が魔賢樹へ指示を出すと、魔賢樹は、その通りに動き出した。あいつの言う事は聞くのか?
指示通りに動き始めた魔賢樹は、屋敷の塀を壊して、街にも攻撃を始める。町の住民たちはパニックだ。兵士が誘導しようにも、目の前であんな怪物が暴れたら、そんな暇も無いだろう。
「マリアさん! マリーシャとミミを起こせる!?」
「やってみるわ!」
せめてどちらかでも起きてくれれば、僕も戦闘に集中出来るのだが。でも、魔力枯渇は本当にきついからなぁ。僕も何度か経験した事があるけど、本当にあれはしんどい。気を失えたらまだ楽だけど、意識があったら涙が出るからね。
っと、そんな事より、あの魔賢樹をどうにかしないと。心なしか、魔賢樹の大きさが大きくなっているような気がするし。人間の血を吸収しているからか。
「うわぁ〜、ママッ!」
そんな時、子供の叫ぶ声が聞こえる。声のする方を見れば、瓦礫に下敷きになっている母親と、助けようと引っ張る女の子の姿があった。魔賢樹の蔦が破壊した瓦礫に巻き込まれたのか。
そして、そこに迫る蔦。母親は女の子に逃げるように叫ぶが、女の子は離れようとしない。
……この国の人間を助ける理由は無いが、子供まで罪は無い。僕は転移を発動して、子供の側に移動する。そして、子供と母親に触れて、再び発動。少し離れた場所に跳んだ。
それから、母親の怪我した部分を魔法で治す。これで逃げられるだろう。
「さっさと逃げろ。次は助けないからな」
僕の素っ気ない態度に母親は震えながら頷くけど、少女はじっと僕を見てくる。そして
「ありがと、お兄ちゃん!」
少女は微笑みながら礼を言ってきたのだ。俺の態度なんて関係無しに。僕は、魔賢樹を見ながら
「……いいから行け、死にたくなかったらな」
と、答えただけだが、少女はにこにことしている。そのまま、母親に手を引かれる少女は、先ほど死にかけたという事も忘れたように、笑顔で手を振りながら去っていた。
正直、のうのうと生きているこの国の人間が憎くて、見捨てたいところだが、さっきも思ったように、子供たちには責任が無い。その子供たちを守る為なら、少しは頑張ってみようか。
それに
「ははは! やれ! 皆殺しだ、魔賢樹よ! 勇者も獣王も魔王も剣帝も全て魔賢樹の前では雑魚だ! 魔賢樹こそ、最強の魔王だ!」
さっきからふざけた事ばかり抜かす、あいつを殺す。魔王の魔の字も知らないくせに好き勝手言いやがって。そんなに、雑魚だっていうなら見せてやるよ。
魔王の本気を。
僕は、地面から次々と伸びて出て来る蔦のようなものを見ながら呟いてしまった。紫色をした蔦は、太さが1本1本太く、所々に目が付いている。そんな蔦が地面から大量に生えて来る。
「あれが、ヘルティエンス伯爵の研究の成果か。これはまた変なものを作ったものだ」
僕たちから少し離れたところで、ラゲルがそんな事を言っている。やっぱりあれが地下から発せられた気配の正体か。
地面から伸びて来た蔓は、近くにいる人間へと手当たり次第巻きついていく。敵味方関係なく。そこには兵士もいれば、文官、侍女もいる。
巻きつかれた人は、バキバキと音を鳴らし、全身の骨が砕かれる。それだけではなく、あの木は人間の血を養分としているようだ。体内から溢れる血を吸収している。
当然僕たちへも迫る蔓。僕は気を失ったマリーシャとミミを抱えているため、剣を持つ事が出来ない。逃げばかりになる。
ラゲルの方は、迫る蔓を次々と切っていくけど、切った側から蔓が生えてくるのだ。本当に面倒なやつを。
「エル!」
僕たちの方は人数が多いためか、多くの蔓が伸びてくる。迫る蔓を避けるけど、次々と向かってくる。マリアさんが、迫る蔓を切ってくれるけど、切っていく以上に生えてくる蔓。次第に囲まれてくる。
仕方ない。2人には少し我慢してもらおう。なるべく揺らさないようにはするから。
僕は両足に炎を纏わせる。ただの炎では無く、憤怒の炎を。そして迫る蔓を下から蹴り上げる。ズドォン! と大きな音と共に、打ち上げられる蔓。そこから炎が燃え上がっていく。
燃え上がるのを感じたのか、全ての蔓の動きが鈍くなる。今の内に屋敷から離れる。
「エル、大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ。マリアさんは?」
「私も何ともないわ。それにしても、こんなものを作っていたなんてね」
「全くだよ。あれは何なんだろうね?」
「あれは、魔王だよ」
僕とマリアさんが話していると、何故かラゲルが会話に入って来た。何の用だよ?
「そう邪険にするなよ。今は同じ敵を相手する仲間だろ?」
こいつ、どの口が言ってるのか。だけど、まあ良い。こいつは、僕たちの知らない情報を知っているようだから、聞くだけ聞くか。
「それで、魔王ってどういう事だよ?」
「あの樹にはな、昔の帝国が倒した魔王の死体と、人間たちを使って造られた人工の魔王だよ。人間を生贄に、魔王を復活させたんだよ」
「その通りだ!」
ラゲルの話を聞いていると、大元の樹の方から声がした。そこには、この騒動の元凶であるヘルティエンス伯爵と黒いローブを着た人物が、樹の根元に立っていた。
「全く役立たずの冒険者どもめ。襲撃すら防げんとは。仕方なく私の力を使ってやったわ。まさか、帝国の剣帝が混じっているとは思わなかったが、この魔賢樹には勝てまい! さあ、やれ、魔賢樹! 奴らを根絶やしにしろ!」
ヘルティエンス伯爵が魔賢樹へ指示を出すと、魔賢樹は、その通りに動き出した。あいつの言う事は聞くのか?
指示通りに動き始めた魔賢樹は、屋敷の塀を壊して、街にも攻撃を始める。町の住民たちはパニックだ。兵士が誘導しようにも、目の前であんな怪物が暴れたら、そんな暇も無いだろう。
「マリアさん! マリーシャとミミを起こせる!?」
「やってみるわ!」
せめてどちらかでも起きてくれれば、僕も戦闘に集中出来るのだが。でも、魔力枯渇は本当にきついからなぁ。僕も何度か経験した事があるけど、本当にあれはしんどい。気を失えたらまだ楽だけど、意識があったら涙が出るからね。
っと、そんな事より、あの魔賢樹をどうにかしないと。心なしか、魔賢樹の大きさが大きくなっているような気がするし。人間の血を吸収しているからか。
「うわぁ〜、ママッ!」
そんな時、子供の叫ぶ声が聞こえる。声のする方を見れば、瓦礫に下敷きになっている母親と、助けようと引っ張る女の子の姿があった。魔賢樹の蔦が破壊した瓦礫に巻き込まれたのか。
そして、そこに迫る蔦。母親は女の子に逃げるように叫ぶが、女の子は離れようとしない。
……この国の人間を助ける理由は無いが、子供まで罪は無い。僕は転移を発動して、子供の側に移動する。そして、子供と母親に触れて、再び発動。少し離れた場所に跳んだ。
それから、母親の怪我した部分を魔法で治す。これで逃げられるだろう。
「さっさと逃げろ。次は助けないからな」
僕の素っ気ない態度に母親は震えながら頷くけど、少女はじっと僕を見てくる。そして
「ありがと、お兄ちゃん!」
少女は微笑みながら礼を言ってきたのだ。俺の態度なんて関係無しに。僕は、魔賢樹を見ながら
「……いいから行け、死にたくなかったらな」
と、答えただけだが、少女はにこにことしている。そのまま、母親に手を引かれる少女は、先ほど死にかけたという事も忘れたように、笑顔で手を振りながら去っていた。
正直、のうのうと生きているこの国の人間が憎くて、見捨てたいところだが、さっきも思ったように、子供たちには責任が無い。その子供たちを守る為なら、少しは頑張ってみようか。
それに
「ははは! やれ! 皆殺しだ、魔賢樹よ! 勇者も獣王も魔王も剣帝も全て魔賢樹の前では雑魚だ! 魔賢樹こそ、最強の魔王だ!」
さっきからふざけた事ばかり抜かす、あいつを殺す。魔王の魔の字も知らないくせに好き勝手言いやがって。そんなに、雑魚だっていうなら見せてやるよ。
魔王の本気を。
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