復讐の魔王
52.剣士
「っ! マリーシャ、ミカ、援護を頼む。私が何とか奴を抑える」
つーぅ、と流れる汗を拭いながら剣を抜くルイーザ。私たちに出来るのはルイーザの援護だけ。私とミミは、魔法を発動して、ルイーザを強化していく。
今私たちが出来る最大限の事。後はルイーザに任せるしか無い。ラゲルは、私たちの準備が終えるのを黙って見ている。余裕って事かしら?
「面白いなお前たち。本当はこんなところで楽しんでる場合じゃねえんだけど、少し遊ばせてもらおうかね?」
ラゲルはそれだけ言うと、瞬時にルイーザの目の前まで移動した。とんでもない速さ。ついていけない事はないけど、私では厳しい。
「はっ!」
だけどルイーザは、ラゲルの動きに反応して、剣を防ぐ。ラゲルの右手に握られる剣が、下から振り上げられるのを弾くと、既に左手に握られる剣は、ルイーザの眼前へと迫っていた。
「くっ!」
顔を横へと逸らして、迫る剣を避ける。その時に、スー、とルイーザの頰に赤く線が入った。少し掠ったようだけど、ルイーザは気にする事なく切りかかる。
「ほれほれ、これはどうだ?」
ラゲルの剣は、縦横無尽にルイーザを攻める。ルイーザは反応して防ぐけど、それもラゲルの思惑通り。致命傷だけど防ぎやすい攻撃を、ルイーザに防がせて、浅いけども防ぎづらい攻撃はルイーザを切り刻む。
まだ、始まって5分ほどだけど、既にルイーザの体は傷だらけ。いくら浅くて、致命傷にならないと言っても、このままでは不味い。
「ミミ、準備は良い?」
私の言葉に黙って頷くミミ。ミミにはルイーザを助けてもらわないといけない。私はラゲルにバレないように魔力を集める。
「ほれ」
「ぐっ!」
「これで終わりだな」
ラゲルは、ルイーザの剣を弾き飛ばし、空いている右手の剣で、ルイーザへと袈裟切りを放つ。ルイーザは、片腕を失うのを覚悟なのか、剣を振るうラゲルの右手を掴もうと、左手を伸ばす。
だけど、その前に、ラゲルの剣は見えない壁に阻まれた。ミミがルイーザを囲うように、魔力の障壁を張ったのだ。
勇者なだけあって、かなり堅牢な障壁になっている。エル兄さんの攻撃でもそう簡単には破れなかった。
この障壁の目的は、ラゲルの剣を防ぐのと同時に、私の攻撃から身を守るものだった。
「いきます! エクスプロージョン!」
私が魔法を発動した瞬間、ルイーザの辺り一面が爆発に巻き込まれ……なかった。私が放った魔力が霧散してしまったのだ。
私もミミもあまりの事に固まってしまった。そして、ラゲルの動きに反応する事が出来なかった。出来たのは
「がっ!」
ミミの障壁が解けて、動けるようになったルイーザが、私を押した。そして、ラゲルの剣がルイーザを背後から貫いたのだ。
私はそれを見ている事しか出来なかった。ミミもその場に座り込んでしまった。
「ぐうぅっ……はぁっ!」
「おっと!」
グシュッ、と、音がして離れるラゲル。ルイーザは傷の事なんて構わずに、右腕に魔力を集めてラゲルに振ったのだ。
その時の傷が広がる音と、ラゲルが離れる時に剣を抜いた音がさっきの音だ。ルイーザのお腹から流れる血。ルイーザが傷口を押さえるけど、全く止まらない。
「……はぁ……はぁ……お前は一体何者だ? ただの冒険者ではないな? さっきのマリーシャの魔法を切った剣術の腕。普通の冒険者だと、かなり有名になっているはず」
さっき私の魔法が発動しなかったのは、ラゲルが魔法を切ったからなのね。本当なら、そんな事出来るわけない、って言いたいところだけど、実際に目にしたら、信じるしかないわね。
「何を言ってるんだよ。俺はただの冒険者……と言いたいところだが、別に構わないか。あの人からは、任務終了の帰還命令が出てるし、ここで殺せばもう会う事も無いだろうしな。良いぜ、教えてやるよ。『二剣のラゲル』はこの国の活動用の名前で、とある国では『剣帝』と呼ばれている。よろしくな、嬢ちゃんたち」
……普通の冒険者じゃないとは思っていたけど、まさか剣帝だったなんて。グランディーク王国の隣にある国、ゼルテア帝国の四帝の1人。
でも、ゼルテア皇帝が、この国に2人の帝を送ってくるなんて。前の獣人国との戦争の時の氷帝といい。この国を狙っているのかしら。
色々と考えたい事はあるけれど、もうそれどころじゃなくなった。ラゲルから放たれる殺気が、増したからだ。
「それじゃあ、死んでもらうぜ、嬢ちゃんたち。じゃあな」
ラゲルは剣に魔力を流す。この魔力だとミミの障壁も突破されるかもしれない。だけど、ルイーザを置いて逃げるって選択肢は無い。私の大切な家族だもの。
「マリーシャ……お前……」
「私は逃げないよ。ルイーザは大切な家族ですから」
「わ、私も逃げません!」
ルイーザの反対側にはミミが立つ。いつもは震えているくせに、こんな時だけ胸張って無理して。私とミミはすべての魔力を注ぎ込むつもりで障壁を張る。これなら保つはず。
「くくっ、ほんとおもしれえな。行くぜ、嬢ちゃんたち!」
そして振り下ろされるラゲルの剣。私とミミの障壁にぶつかると、バリバリと音を立てる。初めの方は、障壁が押していたけど、直ぐにヒビが入る。
私とミミは踏ん張るけど……このままじゃあ耐えられない。そう思った時
「喰らい尽くせ、憤怒の炎心剣!」
燃え盛る炎が、ラゲルを包んだ。次の瞬間にはラゲルが炎を切り裂いたけど、それでも、警戒するように私たちから離れて行った。そして
「何、僕の大切な家族に手を出しているんだ? 殺すぞ?」
赤黒い魔力を全身から滾らせているエル兄さんが、やって来てくれたのだった。
つーぅ、と流れる汗を拭いながら剣を抜くルイーザ。私たちに出来るのはルイーザの援護だけ。私とミミは、魔法を発動して、ルイーザを強化していく。
今私たちが出来る最大限の事。後はルイーザに任せるしか無い。ラゲルは、私たちの準備が終えるのを黙って見ている。余裕って事かしら?
「面白いなお前たち。本当はこんなところで楽しんでる場合じゃねえんだけど、少し遊ばせてもらおうかね?」
ラゲルはそれだけ言うと、瞬時にルイーザの目の前まで移動した。とんでもない速さ。ついていけない事はないけど、私では厳しい。
「はっ!」
だけどルイーザは、ラゲルの動きに反応して、剣を防ぐ。ラゲルの右手に握られる剣が、下から振り上げられるのを弾くと、既に左手に握られる剣は、ルイーザの眼前へと迫っていた。
「くっ!」
顔を横へと逸らして、迫る剣を避ける。その時に、スー、とルイーザの頰に赤く線が入った。少し掠ったようだけど、ルイーザは気にする事なく切りかかる。
「ほれほれ、これはどうだ?」
ラゲルの剣は、縦横無尽にルイーザを攻める。ルイーザは反応して防ぐけど、それもラゲルの思惑通り。致命傷だけど防ぎやすい攻撃を、ルイーザに防がせて、浅いけども防ぎづらい攻撃はルイーザを切り刻む。
まだ、始まって5分ほどだけど、既にルイーザの体は傷だらけ。いくら浅くて、致命傷にならないと言っても、このままでは不味い。
「ミミ、準備は良い?」
私の言葉に黙って頷くミミ。ミミにはルイーザを助けてもらわないといけない。私はラゲルにバレないように魔力を集める。
「ほれ」
「ぐっ!」
「これで終わりだな」
ラゲルは、ルイーザの剣を弾き飛ばし、空いている右手の剣で、ルイーザへと袈裟切りを放つ。ルイーザは、片腕を失うのを覚悟なのか、剣を振るうラゲルの右手を掴もうと、左手を伸ばす。
だけど、その前に、ラゲルの剣は見えない壁に阻まれた。ミミがルイーザを囲うように、魔力の障壁を張ったのだ。
勇者なだけあって、かなり堅牢な障壁になっている。エル兄さんの攻撃でもそう簡単には破れなかった。
この障壁の目的は、ラゲルの剣を防ぐのと同時に、私の攻撃から身を守るものだった。
「いきます! エクスプロージョン!」
私が魔法を発動した瞬間、ルイーザの辺り一面が爆発に巻き込まれ……なかった。私が放った魔力が霧散してしまったのだ。
私もミミもあまりの事に固まってしまった。そして、ラゲルの動きに反応する事が出来なかった。出来たのは
「がっ!」
ミミの障壁が解けて、動けるようになったルイーザが、私を押した。そして、ラゲルの剣がルイーザを背後から貫いたのだ。
私はそれを見ている事しか出来なかった。ミミもその場に座り込んでしまった。
「ぐうぅっ……はぁっ!」
「おっと!」
グシュッ、と、音がして離れるラゲル。ルイーザは傷の事なんて構わずに、右腕に魔力を集めてラゲルに振ったのだ。
その時の傷が広がる音と、ラゲルが離れる時に剣を抜いた音がさっきの音だ。ルイーザのお腹から流れる血。ルイーザが傷口を押さえるけど、全く止まらない。
「……はぁ……はぁ……お前は一体何者だ? ただの冒険者ではないな? さっきのマリーシャの魔法を切った剣術の腕。普通の冒険者だと、かなり有名になっているはず」
さっき私の魔法が発動しなかったのは、ラゲルが魔法を切ったからなのね。本当なら、そんな事出来るわけない、って言いたいところだけど、実際に目にしたら、信じるしかないわね。
「何を言ってるんだよ。俺はただの冒険者……と言いたいところだが、別に構わないか。あの人からは、任務終了の帰還命令が出てるし、ここで殺せばもう会う事も無いだろうしな。良いぜ、教えてやるよ。『二剣のラゲル』はこの国の活動用の名前で、とある国では『剣帝』と呼ばれている。よろしくな、嬢ちゃんたち」
……普通の冒険者じゃないとは思っていたけど、まさか剣帝だったなんて。グランディーク王国の隣にある国、ゼルテア帝国の四帝の1人。
でも、ゼルテア皇帝が、この国に2人の帝を送ってくるなんて。前の獣人国との戦争の時の氷帝といい。この国を狙っているのかしら。
色々と考えたい事はあるけれど、もうそれどころじゃなくなった。ラゲルから放たれる殺気が、増したからだ。
「それじゃあ、死んでもらうぜ、嬢ちゃんたち。じゃあな」
ラゲルは剣に魔力を流す。この魔力だとミミの障壁も突破されるかもしれない。だけど、ルイーザを置いて逃げるって選択肢は無い。私の大切な家族だもの。
「マリーシャ……お前……」
「私は逃げないよ。ルイーザは大切な家族ですから」
「わ、私も逃げません!」
ルイーザの反対側にはミミが立つ。いつもは震えているくせに、こんな時だけ胸張って無理して。私とミミはすべての魔力を注ぎ込むつもりで障壁を張る。これなら保つはず。
「くくっ、ほんとおもしれえな。行くぜ、嬢ちゃんたち!」
そして振り下ろされるラゲルの剣。私とミミの障壁にぶつかると、バリバリと音を立てる。初めの方は、障壁が押していたけど、直ぐにヒビが入る。
私とミミは踏ん張るけど……このままじゃあ耐えられない。そう思った時
「喰らい尽くせ、憤怒の炎心剣!」
燃え盛る炎が、ラゲルを包んだ。次の瞬間にはラゲルが炎を切り裂いたけど、それでも、警戒するように私たちから離れて行った。そして
「何、僕の大切な家族に手を出しているんだ? 殺すぞ?」
赤黒い魔力を全身から滾らせているエル兄さんが、やって来てくれたのだった。
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