復讐の魔王

やま

41.終了

 ……これはとんでもないな。獣王の周りは真っ赤に染まって、生きているのが勇者の2人しかいない。それ以外は全部骸に変わっている。


 獣王はメルト副将軍に突き刺していた手刀を抜き取り、メルト副将軍を地面に放る。


「残るはお前たちだ、グランディークの勇者たちよ。お前たちには無理矢理この世界に連れてこられて、同情する部分はある。しかし、お前たちが同房に手をかけた事は、俺は許すことは出来ない。ここで死んでもらう」


 そして、獣王は勇者たちの首を切り落とすため、ギロチンのように構えた手刀を、まずはタダシの上へと振り下ろす。


 しかし、途中で獣王の攻撃を阻むように見えない壁が、タダシの上に出現し、獣王の手刀を弾いた。一体何が? そう思ったら、グランディーク軍の方から、黒髪の少女が馬に乗せられやって来た。


 そして、少女の手から放たれる魔法で、勇者2人の傷が瞬く間に癒えて行く。彼女はミミ・シノノメか。色々と話をするうちに僕に懐いてくれた子だ。


「ちっ、遅えぞ、美々! 危うく死にかけたじゃねえか!」


 そんな治療してくれた彼女に対して、怒鳴り散らすリュウジ。タダシも礼など言わずにただ立ち上がるだけ。そんな彼らにミミは小さな声で「ごめんなさい」とつぶやくだけ。何となくだけど、彼らの中の関係がわかった気がする。


「ちっ、相手がこんな強いなんて聞いてないぞ。もっとレベル上げなきゃな」


「ああ。こんなところで死ねん」


 2人はそう言いながら懐から何か巻物のような物を取り出した。そして、呪文を唱えると、2人の足元は輝き出し、2人の姿はその場から消えてしまった。


 ……まさか、転移の魔法を魔法陣にしていたとは。他の幹部級のグランディークの兵士たちも次々と取り出し、発動して行く。


 取り残された何も聞かされていない兵士たちは、突然消えた幹部たちに戸惑いの声を上げる。その中には勇者であるはずのミミ・シノノメも含まれていた。そして


 ズドォーン!


 と、獣王軍の方から大きな音がする。その方を見ると、大きな火柱が立っていた。そこから次々と上がる火柱。あれは一体何が起きているんだ? そう思っていたら、グランディーク兵の1人が、首元を押さえて僕たちの元へと駆け寄って来た。


「た、たす、たすけてくれぇー!」


 目からは涙をこぼし、僕たちが敵なのも構わずに助けを求めて来る。しかし、次の瞬間、首元に付けられている紋様が赤く光り出し、魔法が発動した。あれは火属性の……兵士がいた場所に火柱が立ち上がった。


「なっ!? まさかさっきの火柱ももしかして!」


 獣王は今の光景を見て、先ほど解放された獣人たちの方を見る。そしてその予想は当たっていた。獣王軍のあちこちから火柱が立ち上がり、獣王軍の兵士たちはパニックとなっている。


 それはグランディーク軍も同じで、事情を知らない兵士たちは、我先にと逃げようとして、押し倒したり、殴り合ったりしていた。


 そして、中には


「おい! あんた勇者なんだろ! 何とかしてくれよ!」


「勇者様! 仲間が! 仲間が死にかけなんだ! 助けてくれ!」


 傷だらけの兵士たちに囲まれる、ミミ・シノノメの姿があった。だけど、馬からは降りており、ミミをここまで連れて来た女兵士の姿は無い。ミミを置いて逃げたのか。


 ミミは、涙を浮かべながらどうしようかとしているようだが、周りが我先にと叫ぶものだから、どれにも行けない状態になっている。


「あーあ、何だかやる気が無くなったね。私も帰るとするか」


 声のする方を見れば、氷帝が手に持つ細剣を鞘に戻して、気だるそうに呟いていた。


「獣王はいいのかい?」


「私たちの目的は、グランディークと獣王国が戦っているところの、後ろを突く事さ。目的は達成されたし、あわよくば獣王の首を取りたかったけど、こんな事されたら興醒めさ。私たちは大人しく帰るよ。こちらにも被害が出ているようだし」


 確かに獣人たちに巻き込まれて、帝国兵も逃げ惑っている。氷帝は直ぐに自軍に戻り、撤退の合図を出す。その頃には火柱は上がる事は無くなり、獣王軍も何とか落ち着く事が出来た。


 ただ、グランディーク軍だけが、頭がいないため、ばらばらに行動している。そこを落ち着いた獣王軍に攻撃される。


「くそ! こうなったら勇者の首を差し出して、俺は助けてもらうぜ!」


 獣王軍が攻めて来るのを見て、自棄になった兵士たちは、傷だらけの兵士を治療していたミミを囲い始める。このままでは、捕まり獣王軍に突き出されて、殺されるだろう。


 ……仕方ない。彼女には色々と聞きたい事がある。その中でもし、反乱に加担していれば、殺せば良いだけだ。


 僕は憤怒の炎心剣をしまい、クロバを抜く。そして今にもミミに掴みかかろうとする男を切り伏せる。


「悪いけど、彼女は僕が貰うよ」


 この日、グランディークと獣王国で始まった戦争は、その日の内に収束した。グランディーク軍の砦は、獣王国に取られ、そこで、グランディーク軍との睨み合いとなった。


 グランディーク軍の惨敗は瞬く間に、国内を駆け巡り、勇者たちの信頼を落とす事になったのだった。

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