復讐の魔王

やま

40.VS氷帝

「面白い! 私の氷をこうも容易く溶かすとは! もっと楽しませてくれ!」


 そう言い笑いながら、僕に細剣を向けて迫ってくる氷帝メディス。僕も慣れない双剣は止めるためにクロバをしまう。やっぱり片手の方がしっくりとくる。


「貫け、氷牙!」


 僕も、氷帝に向かって駆け出すと、メディスは走りながら突きを放って来た。まだ距離は離れているのに何を? と思ったが、細剣の先から鋭く尖った氷柱が、僕目掛けて飛んで来た。


 僕は炎を纏わせた炎心剣で、先ほどと同じように氷柱を叩き落とすと、目の前には氷帝のスラっとした足があった。僕の首を狩るようにしならせながら。


 僕は咄嗟に体を後ろに逸らして、氷帝の蹴りを避けるが、氷帝は空中に氷を作り出し、それを足場にして足を振り上げ、思いっきり振り下ろして来た。


 これはさすがに間に合わないと思った僕は、転移を使う。僕がいなくなり、僕が元いた場所に氷帝が足を振り下ろした瞬間、氷帝を中心に氷の棘が地面から飛び出して来た。危ない技を使うものだ。


 僕が少し離れたところで構えていると、氷帝は僕を見ながら


「……お前は一体何者だ? 何故、勇者しか使えない光魔法が使える?」


 やっぱり、今のでわかるか。だけど、簡単に話すわけにもいかないから


「何を言っているんだい? 僕はただの通りすがりの男さ」


 僕が堂々と言い放つと、氷帝は不審者でも見るかのような視線を僕に向けてくる。そ、そんな目で見られたら傷つくじゃないか。


「……まあ、良いだろう。その化けの皮、剥がしてやる!」


 氷帝がそう言い地面に細剣を突き刺すと、氷帝の周りから氷で出来た動物の像が、沢山氷帝を囲うように出来た。そして、僕を目指して動き出す。僕の炎心騎士のように。


 僕は囲まれるのが嫌だったので、先ほどの氷帝が使った地面から氷の棘を放つ技を炎で作る。僕を中心に一気に上がる気温。


 僕は更に棘ではなく蛇のように動かし、氷像へと食らいつかせる。食らいつかせた部分から、氷像は溶けていく。


 更に、氷帝へと炎の蛇を向かわせる。氷帝は、炎の蛇を避けるが、僕はクネクネと炎の蛇を速く動かし、氷帝を上下左右から攻める。


 氷帝は少しずつ逃げ場を失って行き、一気に炎の蛇を襲わせる。だが


「ちっ、凍てつかせ! コキュートス!」


 氷帝の魔力が爆発すると同時に、氷帝は襲い掛かる炎の蛇を手に持つ細剣で切っていく。本来であれば切られたとしても、炎なのであまり意味は無いが、氷帝から切られた場所から炎が凍らされた。


 炎の蛇だけでなく、氷帝が立っている部分を中心に地面が凍っていく。ここまで気温が冷やされていく。


 そして、氷像となった事で炎の蛇の主導権を氷帝に取られたようだ。標的を僕に変えて、襲いかかってくる氷の蛇。


 しかも、僕が使っていた炎の蛇よりかなり巨大になっている。巨大な八つ首の氷の蛇が来る。


「行けぇ! 八つ首の氷の蛇ヤマタノオロチよ!」


 先ほどとは逆の立場になってしまった。僕に迫り来る氷の蛇たち。氷の蛇が触れたところが、一瞬で凍っていく。


 僕が炎を使えなかったら、この辺りはもっと気温が下がっていたのだろう。炎を使っていても、吐く息が白くなるほどだ。


「ユフィー、力を貸してくれるかい?」


『うん、良いよ!』


 炎心剣の中に眠っていたユフィーに、手伝ってもらえるか尋ねると、ユフィーの明るい声で返事が来た。そして、炎心剣が赤く輝き出し、禍々しく赤黒く染まった大剣へと変化した。


憤怒の炎心魔剣ラース・レーヴァテイン、燃やし尽くせ!」


 先ほどとは逆に四方から襲って来る氷の蛇たちに向かって、業火の斬撃を放つ。氷の蛇たちと僕の業火の斬撃がぶつかった瞬間、氷の蛇は一瞬で溶けて、辺りは水蒸気で真っ白に覆われた。


『うわぁ〜、何も見えないね〜』


 辺りが一面真っ白になった事に驚きの声を上げるユフィー。彼女は初めて見る光景だろうからね。


 ただ、ずっと真っ白にさせておくわけにもいかない。僕は風魔法を発動して吹き飛ばす。真っ白に染めていた水蒸気が吹き飛び、辺りが見えるようになる。


 辺りの地面には水溜りが多数出来ていて、地面はドロドロになっている。そして視線の先には喜悦の表情を浮かべる氷帝が立っていた。


「ふふふ、本当にお前は何者なのだ? まさかここまで私と戦える者がいるとは。しかもまだ余裕があると見る」


 僕を見ながら舌舐めずりをする氷帝。どうして、こんなにも嬉しそうなのだろうか。そう思っていたら、グランディーク兵がいる方から声が上がる。


 僕も氷帝もそっちを見ると、血塗れに倒れる勇者たちに、心臓を手刀で貫かれた今回の将であったメルト副将軍の姿があった。

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