復讐の魔王

やま

36.戦争前

「これは、凄い人だね」


 僕は門から出入りする人の数に驚く。彼らはここから数キロ離れた獣王国リグレムとの国境にある砦に向かう人と、そこから戻ってきた人たちの様だ。


 戦争がもう直ぐで始まるため、かなりの人が準備なんかのために出入りしている様だ。


 グランディークの大将は、グランディークの副将軍であるメルト・クライス副将軍。今年で50後半になる男性だが、幾多もの防衛戦を耐えてきた歴戦の将軍だ。


 それに、勇者であるリュウジとタダシに回復要員としてミミが含まれると言う。なぜ知っているかと言うと、街中で噂になっているからだ。


 たぶん、士気を高めるためだろう。勇者がいれば負けないという自信があるのだろう。


 獣王国は、獣王自らが出てくるそうだ。マリンティアさんから聞いた話だけど、餓狼族は一度仲間と認めたら、かなり仲間意識の高い一族らしい。


 奴隷を取り返すために何度も小競り合いはあった様だけど、グランディークの中で反乱があり、不安定な情勢の今を狙ったのでは? と、マリンティアさんは言う。


 獣王ローガスト・リグレムの実力は、ヘルガーさんと接戦して負けてしまうほどの実力らしい。普通の人はこれだけでは全く伝わらないけど、ヘルガーさんの実力を知っている僕らからすれば、かなりの強さだ。


 そんな人が相手で、グランディークは大丈夫なのか? と思ってしまう。でもまあ、ぼくには関係ないけどね。


「エル兄さん!」


 そんな、門を出入りする光景を見ていたら、色々と荷物を抱えたルイーザたちがやって来た。彼女たちの手には、買い物した物が握られている。みんなホクホク顔だ。良い物が買えた様だね。


 戦争前に、何故こんな悠長に買い物をしているかと言うと、この領地の住民は、万が一の時に備えて避難する事になっている。


 そのため、店を構えている人も、ここから離れるのだけど、その前に商品を売ってしまいたい各店の店主が安売りをしていたのだ。


 ここに来て直ぐ、それに気が付いたマリンティアさんたちは、少し時間が欲しいと言って、買い物に行ってしまったのだ。僕はそれが終わるまでここで待機。周りに見えない様にユフィーと遊んだりして。


「みんな、大量だね。良い物は買えたかい?」


「ええ、みんな早くここから離れたいのか、かなり割引してくれたわ」


 マリンティアさんも嬉しそうだ。魔族領ではお目にかかれない物もあったと言う。それは良かった。


 そんなみんなと話をしていると、街の人たちがザワザワと騒ぎ始める。何かと思ったら、この領地の領主、ヘルティエンス伯爵の屋敷から軍が隊列を組んでこちらへと向かって来たのだ。


 先頭には大将であるメルト副将軍が、馬に乗り進んで来て、その後ろには勇者であるリュウジとタダシが付いていた。


 その光景を見た僕は自然と手に力が入る。今直ぐにでも殺してやりたいけど、今はダメだ。


 それが伝わったのか、僕の手を握るマリンティアさん。そして僕の方を見ながら「落ち着きなさい」と声をかけてくれる。その声に落ち着かせる水魔法も一緒にのせてくれた。


「……ふぅ、ありがとう、マリンティアさん。落ち着いたよ」


 僕の言葉に頷いてくれるマリンティアさん。それから隊列を見ていると、先頭の2人と少し離れたところに、女性の兵士と一緒に馬に乗っているミミの姿があった。顔色は真っ青を通り越して白くなっている。


 後ろに一緒になる女の兵士も困った様な表情をしている。まあ、勇者の1人がビクビクとしていれば、民たちも何かと思ってしまうしね。


 その後は特に問題が起きる事もなく、隊列を組んで砦まで行ってしまった。これから数日の内に戦争が始まるのだろう。


 さてと、どうするかな。


 ◇◇◇


「何故、私はダメなのですか! 兄上は行くのですよね!?」


「あん? 当たり前だろ。オヤジの補佐をしなきゃならねえんだからよ」


「それなら、私も付いて行ってもよろしいではないですか!」


「ダメだ。オヤジからの命令だからな。メルはここでお袋と一緒に待機だ」


 兄上は、それだけを私に伝えると、部屋を出て行ってしまった。もう! 私も国のために働きたいのに!


 父上が隣国のグランディーク王国に宣戦布告をして1週間が経った。その間、国中は大慌てだけど、皆が仲間を助けると意気込んで準備に励んでいる。


 それなのに、父上は私には何もさせてくれない。母上も「仕方ないわね」と笑うばかり。


「もう! どうして私はダメなのかしら?」


 私は自分の寝室のベッドにボフッと寝転ぶ。コロコロコロコロとベッドの上で転がりながら考えるけど、父上の考えがわからない。


 私の力は兄上に及ばないまでも、負ける事なく戦う事が出来る。それなのに。


「それは、メル様の事が大切からですよ」


 ベッドのうえで転がっていると、金狐族で私の侍女をしてくれている、ケイトが紅茶を持って来てくれた。


「それでも、私は一緒に戦いたいのよ」


「ふふ、メル様は一緒に行かれるクリス様が大好きでいらっしゃいますものね」


「にゃ、何言っているのよ!? べ、別にクリスなんて好きじゃないしっ!」


 私はケイトの言葉に過剰に反応してしまう。私の反応を見てクスクスと笑うケイトに、やってしまった、と後悔する私。はぁ、と私は溜息を吐きながら、手に持つクッションに顔を埋めながら話す。


「……そうよ。今回もクリスは、偵察で先行すると思う。毎回何か起きないか不安で仕方ないのよ」


 クリスは私の婚約者で、鷹族の偵察兵をしている。魔法の届かない空高い上空から、相手の陣地を偵察する役。


 自由自在に飛び回る事は出来るけど、あまり重たい物は持てなくて、飛行時間も1時間ほどが限界。速度を上げればより短くなるから、戦闘には向いていない種族。


 今回も、偵察兵としてグランディークの方へ向かっているはずだけど、毎回心配になるのよね。はあ、隠れていこうかしら?

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