復讐の魔王

やま

35.新たな騒動

「さて、次は北と南どちらに行こうか?」


 僕はみんなを見渡して尋ねてみる。みんなには色々と情報を集めてもらったからね。何かしら提案があるかもしれない。


 なぜ、この話をするかというと、ハーザド侯爵領の目的は終えたので、次の目的地を決めるためだ。


 少し恥ずかしい自作自演から1週間が経ち、領主がラグレティス先輩に正式に変わったのを見届けたため、この領地を離れることにした。これ以上この領地に残っていてもいい事はないしね。


 ただ、事前に話していたのだけど、この街で仲間になったパトリシア、サリー、エリーネには別行動をしてもらう事にした。


 3人には王都で情報収集をしてもらう事になる。パトリシアだけは、貴族の令嬢としていたのでバレる可能性があるので、僕たちとの連絡係になってもらうけど。


「私は北が良いと思うわよ」


 1番初めに提案したのは、マリンティアさんだ。


「理由はね、私もさっき知ったのだけど、北では獣王国リグレムが動き出したそうよ。もしかしすると、グランディーク王国とゼルテア帝国と戦争をするかもしれないわ」


 ……これは思ったよりも大きな話だね。他のみんなもあまりの事の大きさに驚いている。


「今すぐにって訳じゃないのだけど、起こる確率は高いっていう手紙が送られて来たわ」


 そうやって、僕たちの前にある机に手紙を置くマリンティアさん。僕たちみんな覗き込む。うん、先ほどマリンティアさんが話してくれた内容が書かれている。


「でも、どうして、獣王国はグランディークに戦争を? 今まではにらみ合いだけでしたのに?」


「多分だけど、奴隷を解放するためだと思うよ」


 サリーの疑問に僕は答える。獣王国はその名の通り、獣人が集まり作り上げた国だ。


 国の王は他の国のように世襲制ではなく、各種族の中で1番強い者が選ばれ、その皆が戦い、最強の1人を決める。その1人が獣王となり、国を治める。それが獣王国だ。今は確か餓狼族が王についているんだっけ。


 獣人族の特徴は、魔法が苦手な代わりに、基本的な身体能力が高く、魔力でも能力を上昇させる事が出来る。


 見た目は、人族に動物の特徴である耳や尻尾などがついているような姿で、肉体年齢の若い期間が人族より長く、労働力でも、性的対象としても、欲しがる人は多いらしい。


 多分、国王が変わって、国が落ち着いていないこの時期を狙ったのだろう。奴隷にされている獣人族を助けるために。


 この国は奴隷が認められている。だが、当然として奴隷となるのは、借金が返せずに肩代わりのために身売りをした者、犯罪を起こした者など、何か理由が無いと奴隷には出来ないよう定められている。


 だけど、中にはそんな理由もなく、誘拐などをして奴隷にする奴隷商人もいる。国は見つけ次第摘発しているのだが、隠れられて全て見つけられていないのが現状だ。


 中には魔族専門の奴隷商もいるぐらいだ。敵対している国なら別に良いだろうという、こちら側の身勝手な理由で。


「これはいつ頃かはわからないんだよね?」


「ええ、ベルヘイムはリグレムとも関係があるから、そこから流れて来たのでしょう。それをお父様が私に伝えてくれたのだと思うわ」


 なるほど。ヘルガーさんもマリンティアさんの事が心配なんだね。しかし、それなら選択肢は一択だ。


「それじゃあ、北に行こう。戦争が始まれば、北にいる勇者に加えて、他の地域の勇者も集まるかもしれない」


 僕の言葉にみんなが頷く。そういえば小競り合いは何度かあったけど、戦争というのはした事がないね。これも見るだけでも今後の経験になる。不謹慎だけど、少し楽しみになって来た。


 ◇◇◇


「よく集まってくれたな、我が国の勇者たちよ」


 私たちの前で、玉座に踏ん反り返るデンベル王。今ここにいるのは、私と美々に誠に真由美と忠。北にいる竜二は、そのまま待機みたい。


 私たちがここに呼ばれた理由は、ここ最近起きている事件の事と、これから起きる北での戦争での事でしょう。


 でも、光魔法って便利よね。南にいた誠に連絡水晶で伝えると、すぐに戻って来られるのだから。


 誠は来たばかりの頃に、あの当時はまだ生きていたエルフリート様の案内で、各地に連れて行ってもらっているから、誠も行けるようになっているのよね。


「皆に集まってもらったのはわかっていると思うが、勇者であったケンタ・ニドウが亡くなった事と、北にある忌々しき国、獣王国リグレムが宣戦布告して来た事についてだ」


 やっぱり思った通りのことだった。デンベル王が言うには、健太の事件は魔族の仕業で終わった。理由は普通の人間であれば、健太は遅れを取らないだろうからと、そんな理由で。


 戦争については、既に北にいる竜二に忠と何故か美々が加わる事になってしまった。私が何度デンベル王にお願いしても聞く耳は持ってくれず、意見は通らなかった。


 美々は、勇者たちの中でも、回復や防御系の魔法が得意だから、治療要員で送ると言う。私も行くと言ったけど、却下されてしまった。


 そして、その場で忠と美々は、誠に転移で連れて行かれてしまった。このせいで美々と別れる事になるなんて、この時は思いもしなかった。

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