復讐の魔王

やま

34.演技

「助けてくれてありがとう。君がいなければ私たちは死んでいたよ」


 そう言って、僕に手を出して来るラグレティス先輩。だけど、その前に門の中から慌てて出て来る兵士が数人。慌てた兵士たちは、直ぐにラグレティス先輩の元へとやって来た。


「ら、ラグレティス様! 大変です!」


「どうした!? 別の場所でも魔物が現れたのか?」


「そ、それが、領主様とニデル様が!」


 ラグレティス先輩は全部話を聞く前に屋敷へと走ってしまった。さすがにこの場を放って行くわけもなく部下に指示をしてだけど。ルイーザたちも上手い事やったみたいだね。僕もゆっくり後について行くか。


 ◇◇◇


「はぁ、はぁ……な、なんだこの化け物は!?」


 俺が、自分の屋敷に戻り見たものは、大きく膨れ上がった腕を振り回す異形な化け物だ。


 その傍では、すり潰されたように原形をとどめていない肉片が飛び散っている。辛うじて肉片の側に鎧がある事から兵士と伺える。


 壁際には腕や足が本来曲がらない方へと曲がってぐったりとしている弟の姿があった。微動だにしない事から既に弟は……。


「グゥオワアアアアアアア!」


 全身の血管が膨れ上がり脈打つ怖気の走るその姿は、まだ魔物の方が愛らしいと思うほど。認めたくは無いが、辛うじて面影が残るその姿は、否応にも父上だと認めるしかなかった。なぜこのような姿に? 色々と思う事はあるがこの化け物になった父上を止めなければ!


「魔法部隊、あの化け物に一斉に放て!」


「し、しかし、あの方はハーザド侯爵様で……」


「そんな事は見ればわかる! だが、もしあの姿になった父上が街に出たらどうなる! とんでもない被害が出るぞ! そうなる前に倒さなければ!」


 魔法部隊は私の言葉に従い、父上を止めるべく魔法を放つ。しかし、父上の体は魔法で削って行くが、その後に直ぐに回復していく。


「グゥオウ!」


 父上は魔法を鬱陶しそうに腕で払うと、近くにいた魔法師へと走り出す。魔法師は動きを止めようと、次々魔法を放つが、父上は止まらない。そして上から振り下ろす拳。私の魔法でも止める事が出来ずに潰される魔法師。


 兵士たちが複数人で盾を持って立ち向かうが、父上が腕を振り払うだけで吹き飛ばされる。くそっ、魔法をものともしない程の回復力に、強力な力。一体どうすれば……。


 そう思っていたら


「僕が止めましょう」


 後ろからそんな声が聞こえて来た。振り向くとそこには、先程外壁のところで出会った仮面の男が立っていた。先程オークキングを圧倒したあの実力なら……。


「頼めるか?」


 私の言葉にこくりと頷く仮面の男。男は腰に差している頭身までもが漆黒の剣を抜く。そして、父上に向かって走り出す。


 そこからは一方的だった。大きく振る腕を軽やかに避け、分厚く膨れ上がった筋肉を軽々と切り裂いていく。しかもどこか余裕のある動きだ。父上が一方的にやられていく。


 ……しかし、この動きどこかで見た事があるな。一体どこだったか。その時はまだ今ほどの技量は無かったが、それでも、私以上の実力を持っていた事は覚えている。


 そんな事を考えているうちに、父上はその場で倒れこむ。もう回復が出来ないのか血塗れのままだ。仮面の男も抜いていた剣を鞘に戻す。


 私たちも近づこうとした時、仮面の男は父上へと火魔法を放つ。父上は断末魔を上げながら燃やされていく。肉の焼ける匂いに私を含めた兵士たちが眉を顰めながらもその光景を見守る。


 そして、灰だけ残ったその場所をジッと見ていると、仮面の男が


「王宮の仕業でしょうね」


 と、言い出した。突然の事で意図が読めずに私は仮面の男を見るが、仮面の男は気にした様子もなく続ける。


「私も聞いた話なのですが、王宮は人間の兵器化を企んでいるようですよ。来るべき魔族との戦争のために。そのため、色々な人物へとある物を渡しているそうです」


「ある物?」


 私が尋ねると、仮面の男は父上がいた場所を指差す。そこには割れたガラスの破片が散らばっていた。


「魔力を増幅させると言われるある薬ですよ。それを飲むと確かに魔力は増えるのですが体が耐えられないのです」


 ……そんなものが王都ではあるのか。しかし、どうして父上がそんなものを? 父上はお世辞にも戦いが得意では無かった。どちらかといえば、後ろから指示を出すタイプだ。それなのにどうしてそんなものを。


「私はとある貴族の指示で、その薬を追っています。その取引がこのハーザド侯爵領内で行われたと聞きやって来てたのですが、間に合わなかったですね」


「そうだったのか。だけど、君のお陰でこの領地は救われた。ありがとう」


 私は再び礼を言う。彼がいなければ、民たちは魔物が父上に蹂躙されていただろう。彼には何度礼を言っても足りないくらいだ。


「構いません。自分の仕事をしたまでですから。それでは失礼します」


「ま、待ってくれ。礼をさせてくれないか?」


「いえ、結構です。私も急がないといけませんから」


 仮面の男はそれだけ言うと、出て行ってしまった。私は意識を変えて、兵士たちに指示を出す。これからのこの領地の事を考えなければ。


 ◇◇◇


「はぁ、自作自演はしんどいな」


 僕は屋敷からだいぶ離れたところで仮面を外し、溜息を吐く。慣れない事はするもんじゃ無いね。ユフィーはもう眠っちゃったようだ。


 先ほどまでラグレティス先輩に話していた事は、全て僕が考えた事だ。薬なんてものは存在しない。瓶はルイーザたちに置いてもらっていたものだ。


 ハーザド侯爵があの様な姿になったのは、ルイーザの眷属化の力のせいだ。僕たちはヴァンパイアは、血を与える事により、眷属にする事が出来る。


 今回はグールにしたのだろう。ただ普通のグールはあそこまで強くは無い。その理由の1つに僕の血が関係している。


 簡単にいえば、僕の血に流れる魔力のせいだ。僕の血を味見したマリンティアさんが言うには、僕の血にはかなりの魔力が混ざっているらしい。そのせいで、眷属化するときには、普通より一、二段上の力を持つとか。


 その恩恵が、僕の眷属になったルイーザにもあったらしい。その結果が、あの膨れ上がった筋肉を持つハーザド侯爵の姿だ。


 けれど、これで目的は果たした。もうこの領地に用はないだろう。王都からも兵士が来るはずだ。勇者の事件に、領主の死亡など。もしかしたらこの土地は荒れるかもしれない。


 だけどまあ、ラグレティス先輩には頑張ってもらわないと。そのために侯爵は殺したのだから。

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