復讐の魔王

やま

32.助けた彼女たちは

「……思ったより簡単に破れたな」


「そうですね。でも、あれはエル兄さんの剣がないと出来ないですよ?」


 僕の呟きに答えてくれるマリーシャ。ハーザド侯爵の屋敷に入るためには、悪意を持つ者が入れば、術者に伝わる結界をどうにかしないといけなかったが、まさか憤怒の炎心剣で術式を燃やせるとは思わなかった。


 物は試しとやって見たけど、いとも簡単に燃やされていくところを見るのは中々驚いた。だけど、たまたま見つけたこの方法は戦いでも使える。どこまで通用するかは試して見ないといけないけど、魔法が得意な相手なら有利だ。


 それから僕とマリーシャは、こっそりと屋敷に入る。屋敷の中には最低限の兵士しかいなかった。大方、まだ行方不明のケンタでも探しているのだろう。


 王都に送ってから1週間。そろそろ誰かしら話を聞きに領地に来るはずだが、それまではハーザド侯爵もわからないだろう。兵士が少なくなっている今がチャンスだ。


「わぁ〜、おっきな花瓶ですね〜」


 廊下に飾られている美術品が珍しいのか、ユフィーはあっちに行ったり、こっちに行ったりとしている。そういえば、生前のユフィーも美術品には目がなかったな。


 その上、ユフィーは目利きが良いから、彼女の部屋には大量に珍しい品物が沢山置いてあったのを思い出す。そこら辺は、変わらないんだな。


「……て、……ですか!?」


 誰にも出会わない様に隠れながら、屋敷の中を歩いていると、どこからの部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。ここは……執務室か?


 僕は、自分とマリーシャに幻影の魔法をかけて、壁際に寄る。近くで見られればわかるだろうけど、一時的なら大丈夫だろう。


 僕たちは壁に耳を当てて、中から聞こえてくる声を聞く。


「考え直して下さい、父上! ただでさえ厳しい状況なのに、民から取る税金を増やすなんて! これ以上増やせば領民が飢えてしまいます! 
 それに、街中を我が物顔で歩く兵士に領民が不安を抱いています。確かに勇者殿の捜索は必要ですが、余りに数が多過ぎます。街の治安が悪化している、周辺の魔物が多くなり、冒険者だけでは捌き切れなくなっているとの連絡が来ております!」


 その様な大声が聞こえた後に、ドンッ! と何かを叩く大きな音がする。僕の隣にいるマリーシャがビクッとした。多分今怒鳴っていた男が机か何かを叩いたのだろう。


「フン、その様な些事、放っておけば良い。民なぞ我々選ばれし貴族が、豊かに暮らすための奴隷でしか無いのだからな。それからケンタ殿の捜索はやめんぞ。この領地内で勇者が行方不明になったと噂が立てば、私の外聞が悪くなるからな。最悪死体でも構わんから、探し出さなければ」


 ……中からあーだこーだと様々な話し声が聞こえてくる。あまり聞いていて良いものではないが。中にいる人数は3人。そのうちの1人がハーザド侯爵だ。どうせ大きな椅子に座って踏ん反り返っているのだろう。


 それから、先程から怒鳴りっぱなしの男は、長男のラグレティス・ハーザド。僕たちの5つ上の先輩だ。勿論僕たちとも知り合いだ。


 それからもう1人はラグレディス先輩の弟でニデル・ハーザド。彼も僕たちの2つ上の先輩だ。


 話の内容からでもわかる様に、かなり揉めているようだ。しかし、民は奴隷か。面白い事を言ってくれるじゃないか。民からの税金で生きているお前が。民がいなくなれば何も出来ない癖に。


 しかし、色々と面白い事は聞けた。まずは魔物から手を付けるか。僕たちはそのまま屋敷から出る。兵士が少ないためやりやすいね。


 一旦宿に戻って、マリンティアさんたちと合流しよう。


 ◇◇◇


「……って、感じかしらね。勇者ケンタが行方不明になって喜ぶ民だけど、その後に起きた税の増加に、街を闊歩する兵士たち。魔物たちの脅威もあって、みんな不安になっているわ」


 街の情報を集めて来てくれたマリンティアさんたちから話を聞けば、ラグレディス先輩が話していた内容と同じ様な話だ。


「なるほど。わかった、ありがとうマリンティアさん、ルイーザ。これである程度は決める事が出来る。それで彼女たちはどうなった?」


「彼女たちはようやく感覚が元に戻って来たところだ。でもまだ耳鳴りは続くようで、辛そうにはしている」


 僕が尋ねた事に、ルイーザが答えてくれる。僕が何を話しているかというと、ケンタから助けた奴隷たちの事だ。彼女たちはケンタの奴隷だったため、ケンタが死ぬと、所有権が拾った者になる。これは奴隷全てに付いているルールだ。


 そのため、ケンタが死んだ時点で、拾ったのはマリンティアさんだったので、マリンティアさんが持ち主となっている。


 でも、僕たちには奴隷なんか必要ないため、直ぐに奴隷から解放した。彼女たちは奴隷の制約のせいで感情を押さえつけられていたようで、感情を取り戻すと、ケンタに今までされた仕打ちを思い出して、涙を流し始めた。


 僕にはどうする事も出来ないので、マリンティアさんたちに任せるしかなかった。


 その後は、なんとか正気を取り戻したみんなとは今後どうするか話をして、彼女たちも眷属にする事にした。理由はもう帰れないからだ。


 ケンタに捕まっていたのは、グランディークの貴族令嬢、パトリシア・エーデルハイト。亜麻色の髪の毛をポニーテールにしたエーデルハイト伯爵家の令嬢だ。


 エーデルハイト伯爵は中立で動いていたが、彼女の美貌にケンタが目をつけたらしく、王権とやらを使って無理矢理奴隷にされたようだ。


 当然、エーデルハイト伯爵も抵抗するが、勇者たちに敵うはずもなく一家全員が殺されたらしい。他にも似たような貴族はいるようだ。本当にカスな奴らだな。


 それから、受付嬢をしていたサリー。金髪の髪で、男なら誰でも見てしまうほど大きな胸をした彼女も、冒険者ギルドに来ていたケンタに無理矢理奴隷にされたそうだ。


 そして、ハーザド侯爵家の侍女をしていたエリーネ。金髪のボブカットで、この中では1番すらっとしている彼女。どことは言わないが。彼女はハーザド侯爵がケンタに献上したらしい。


 パトリシアは勇者たちに、サリーは助けてくれなかった冒険者ギルドに、エリーネは自分を売ったハーザド侯爵家に復讐がしたいらしく、今後も僕の力になってくれるのなら、強くさせてあげると、約束すると、みんなは二つ返事で了承した。


 ヴァンパイアになった宿命で、五感が敏感になり過ぎて、体調不良を起こしているけど。僕も通った道だから仕方ないけどね。


 そんな彼女たちも、そろそろ治まってくる頃だ。彼女たちの準備が出来次第、事を起こすとしよう。この土地の領主を変えるための。



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