復讐の魔王

やま

29.復讐者

「なっ!? こ、ここはどこっすか!?」 


 突然景色が変わった事に驚くケンタ・ニドウ。ここはハーザド侯爵領から少し離れた山の麓になる。実際に歩こうと思ったら3時間はかかる距離だ。そこに、僕が光魔法で転移したのだ。


「ここは、お前の死に場所だよ」


 僕が後ろから声をかけると、バッ、と振り返るケンタ。そしてすぐに腰に差してある二本の短剣を引き抜き、速攻で切りかかって来た。顔には困惑、それ以上に怒りが見える。


 だけど、この程度でキレられても困る。俺は自分の怒りを込めて発動する。俺の本気の力を。


「顕現せよ、憤怒の炎心剣レーヴァテイン!」


 胸元に手を当て魔力を放出する。俺の体内から魔力が吹き出し、徐々に形変えていく。現れたのは今までで一番赤黒く、血管の様な黒い線が走っている。俺の怒りが炎心剣として形表している。


 突然現れた炎心剣に驚きの顔をするが、ケンタは負けないと思っているのか、馬鹿みたいに真っ直ぐと突っ込んで来た。


「死ねぇぇぇ!」


「うるさいよ」


 首めがけて振り下ろされる短剣を避け、ケンタとすれ違いざまにレーヴァテインを振るう。それだけで、ケンタの右腕は体から離れる。


「えっ? ……ああぁぁぁ……ぐぁぁぁぁぉあっ! う、うでがぁぁぁぁっ!」


 切り落とされた先から、血が滝の様に吹き出し、余りの激痛に地面をのたうちまわるケンタ。たかが腕ぐらいでうるさいやつだ。アルたちは死んでしまったというのに……。


「くそっ、くそっ、くそおっ! お前、ぶっ殺してやる! 『雷化』!」


 ケンタは俺を殺す事しか考えておらず、周りが見えていない。そして勇者たちに復讐したいのは俺だけじゃない。


「アースニードル!」


 綺麗な声色が聞こえた瞬間、ケンタの足下から土の棘が勢い良く伸びていく。その土の棘はケンタの足を穿つ。雷化の状態だと物理攻撃は無効だと言っていたが、魔力を流す事で攻撃出来る事は、前の時に確認済みだ。


 俺しか見ておらず、周りを全く気にする事の無かったケンタは、避ける事が出来なかった。腕を切られた時の様にのたうちまわる事も出来ず、ただ痛みに叫ぶだけ。


 痛みにも慣れていないのだろう。今までこいつらがして来たのは一方的な蹂躙だからな。傷付けられる側の痛みなんて知らないのだろう。


「くそぉっ! 雷撃!」


 ケンタは痛みに歯を食いしばりながら魔法を唱える。ケンタの足に刺さっていた棘は雷で消し飛ぶが、ケンタは腕の激痛に加え、足の激痛のせいで立つ事すらままならない。今もその場に倒れる。


 俺が近づくのと同時に森の方からルイーザとマリーシャが出てくる。マリンティアさんには、街にいるテリーネさんとケンタの奴隷の保護をお願いしている。


「なな、なんなんっすか、お前たちは! くそっ! こんな事してタダで済むと思うなすっよ! この事がバレたらお前らなんてぶっ殺されるんっすから!」


「お前は何を言っているんだよ。この事がバレるとでも?」


「なっ? お、お前たちの目的は身代金の要求とかじゃないのか!?」


 まるでそれが普通だという様に、ケンタは真顔でそんな事を言って来た。その表情があまりに滑稽で、俺もルイーザもマリーシャも笑ってしまった。


「な、何がおかしいっすか!」


「何がって、全部がおかしいよ。お前の中ではどれだけ自分に価値があると思っている。残念ながら俺たちの中では復讐の対象でしかないお前は、逆に生きていられると困るんだよ」


「ふ、復讐だと?」
  
 自分の命の危険がようやくわかって来たのか、顔を白くさせながら体を震わせるケンタ。それでも、気丈にまだ尋ねてくる。


 というか、まだ気がつ……あっ、まだ幻影を使ったままだった。それは気が付かないな。俺は自分とマリーシャたちの幻影を解除する。


 マリーシャたちも何度かケンタとは出会っているからわかるだろう。ケンタは突然顔の変わった俺たちを見て驚きの表情を浮かべ、その顔が見覚えのある顔だった事に、再び驚く。


「お、お前たちは何ヶ月か前に逃げ出した女ども! そ、それにお前は先輩に殺されたはずじゃあ!?」


「そうだよ。確かにマコトに殺されたが、お前たちに復讐するために、戻って来たんだよ」


 俺はそう言いながら、少しずつケンタに近づく。ケンタは俺から逃げようと地面を這うが、当然俺の方が速い。俺はケンタの下まで行くと、ケンタを足で押さえつける。


「ルイーザ、マリーシャ、前に昨日話した様に、こいつにはグランディーク王国への宣戦布告として送り返すよ。今の内にしておく事は無いかい?」


「私は大丈夫だよ。私とルーちゃんの復讐対象は勇者たちもそうだけど、1番は私たちを捕まえた貴族だから」


「ああ、貴族たちが反乱を起こしたせいで父上たちも殺された。兄上たちを殺したのも勇者だがこいつでは無い様だし」


「わかった。それじゃあ予定通り僕の力『死炎契約』でこいつを配下にするよ」


 この事は昨日の相談である程度決めていた。ケンタを利用してグランディークを混乱させる事を。こんな事では、揺るがないだろうが、それでも勇者の1人が死んだとなれば、混乱は生じるだろう。


 今の俺の魔力ならこの距離からでもグランディークの王都に送る事が出来る。こいつを暴れさせたら、止められるのは勇者ぐらいしかいないだろう。


「や、やめろっす。そ、そうだ! た、助けてくれたらデンベル王に口添えをしてやるっす! 勇者すら倒せるほどの実力があれば、助けてくれるっすよ!」


 まるで、自分は良い考えを思いついた、といったような感じで提案してくるケンタ。だけど、そんな事は火に油を注ぐようなものだ。


「いくら喚こうが、お前の運命は変わらない。このまま俺の配下となって、仲間の勇者たちを襲うんだ。そして死ね」


 俺はケンタが何かを叫ぶ前に、死炎契約を発動する。炎心剣から炎が吹き出てケンタを燃やして行く。炎の中から叫び声が聞こえてくるが、俺たちはただ見ているだけだ。


 そして炎が消え中から現れたのが、炎と雷を纏ったゾンビだった。当然ながら普通のゾンビに比べたら段違いの強さを誇る。顔にもケンタの面影があるし、気付くだろう。


「お前にはこれからグランディークの王宮で暴れてもらう。女子供以外で王宮で出会った者は全員殺しても良い。わかったな?」


 俺の言葉に頷くケンタ。俺はケンタに向かって光魔法の転移を発動。ケンタは一瞬で消える。これで王宮に行っただろう。


 見る事が出来ないのは残念だが、まずは1人目だ。

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