復讐の魔王

やま

27.小さな厄介事

「ふう、ここまで来れば大丈夫だろう。マリーシャは大丈夫……って、その子って」


「私は大丈夫ですよ、エル兄さん。でも、ダメじゃないですか。彼女を置き去りにしたりしたら。あのまま、置き去りにしたりしていたら、あの勇者に確実に襲われていましたよ!」


 僕に向かって、プンプンと怒るマリーシャ。その腕の中には、速く走ったせいか、ぐったりとしているケンタ・ニドウに狙われていた受付嬢の姿があった。どさくさに紛れて連れて来た様だ。


 確かにあのまま置いて来たのは不味かったな。マリーシャのお陰で助かった。


「ごめん、マリーシャ。浅はかだったよ」


「ふふ、気にしないでよ、エル兄さん。それよりも、この人をこれからどうする? あのまま置いていたら、大変な事になっていただろうから連れて来たけど」


「取り敢えず、マリンティアさんたちと合流しよう。相談はそこからだ。僕の幻影で冒険者登録した時とは違う顔で行くよ。あの顔は当分使えないからね」


 僕はそれだけ言うと、幻影を発動。僕とマリーシャ、ついでに受付嬢の顔も変える。姿は少し変えたらわからないだろう。


 それから、マリーシャは受付嬢を背に背負って、そのまま広場へ向かう。周りの人たちは背負われている受付嬢が、リュックにしか見えないだろう。今動かれたら怪しさ満載だけど。


「……エル兄さん」


「ああ、所々にいるね。多分バレないだろうけど、用心はしておいてね」


「はい」


 ギルドでの騒動があったせいか、大通りにはハザード侯爵の兵士たちがうろついている。僕たちを探しているのだろう。


 僕たちはその横を歩いて行く。怪しまれない様に堂々と。マリーシャはドキドキした表情を浮かべしていたけど、何も起こる事なく大通りまで出る事が出来た。


 大通りは、人がたくさん行き来しているため、マリンティアさんたちがどこにいるかが、一瞬わからなかったが、少し辺りを見回したらわかった。


 何故なら、腕を組んで怒っているマリンティアさんと、腰に差してある剣に手をかけているルイーザがいたからだ。


 そして、彼女たちの前には、5人ほどの男たちがニヤニヤと笑みを浮かべながら囲んでいたからだ。これは失敗したな。彼女たちは街中で10人とすれ違ったら、12人が振り返るほどの美人だ。


 そんな彼女たちと、中央広場というかなり目立つ場所で、待ち合わせをしたため、こんな事になってしまった。2人には悪い事をしたな。


 しかも、この騒ぎを聞きつけて兵士たちも集まってくるし。これはちゃっちゃっと、この場から離れ方が良さそうだ。


「まった、マリアさん、ルー」


 僕は大きな声で2人を呼ぶ。ただ、本名では呼ばない。覚えられると面倒だからね。2人も僕たちに気が付いたので、男たちを無視して、僕たちの元へと来て来れた。


「ごめんね、2人とも。待たせちゃった?」


「いいえ、そんなに待ってないから大丈夫よ」


「うん。大丈夫だ、エル兄上」


 うん、2人とも何ともなさそうだ。僕たちはそのまま中央広場を立ち去ろうとしたのだけど


「おい、待てよてめぇら!」


 先ほどマリンティアさんたちに絡んでいた男たちが、僕たちを囲む様に立つ。はぁ、諦めて来れたら楽だったのに。なんで、来るかなぁ。


「おい、そこの男。女どもを置いて立ち去れば、痛い目合わなくて済むぜ?」


 男たちの中の1人が僕向かってそんな事を言ってくる。だけど、聞く気がないので無視していると、僕の肩を掴んで来るので、僕はその手を掴み捻りあげる。


 このままへし折っても良いのだけど、それだと余計騒ぎが大きくなるので、男たちだけに殺気を放つ。男たちはそれだけで顔面蒼白となり体全身を震わせている。


 今後はこんな風に絡まれない様にしないと。いちいち構っているのも面倒だしね。


「今の内に行こう」


 僕がみんなに声をかけると、3人とも頷いてくれる。そして、宿屋に案内するために、ルイーザが先頭を歩いてくれる。その後ろをついていたら


「さっき、噂で聞いたのだけど、冒険者ギルドで勇者と白髪の男が暴れていたらしいのだけど、エルは知っているかしら?」


 と、マリンティアさんが尋ねてきた。顔はニヤニヤとしているので、誰が暴れたかは知っているのに、この人は。


「わかっているんでしょ? 僕ですよ。勇者の実力が知りたくて。それと我慢の限界だったし」


「それで、どうだった。勇者の実力は?」


「うーん、そこそこってところですね。今の僕だと、炎心剣を使わなくても、勝てそうな感じでした」


 他の勇者たちに関してはどうだかわからないが、ケンタ・ニドウに関しては、普通に倒せるほどの実力しかない。あいつを惨たらしく殺す方法を考えないと。そう考えていると


「こら、また気持ちの悪い笑みを浮かべているわよ」


 と、マリンティアさんに怒られた。おっと、落ち着け落ち着け。自分ではわからないけど、相当気持ちの悪い笑みを浮かべている様だから、落ち着かないと。


 それからは、中央広場から10分ほど歩いた距離に宿屋があった。数日間はここで住むらしい。部屋は家族部屋を1つ取る。


 少し値段が張る部屋だが、家族部屋は部屋が3つあり、ベットが各部屋にシングルが1つずつ付いている。これなら、みんなが入っても過ごせる。


 中に入ってからは、取り敢えず気を失っている受付嬢をベッドに寝かせてから、今後の事について話す事にした。さて、これからどう行動しようかな。

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