復讐の魔王

やま

24.最初の標的

「久し振りにこの街にも来たね」


 僕はグランディーク王国の東側に位置する街、ハーザド侯爵領地へとやって来た。


 この家も当然ながらデンベルと繋がりがある家だ。東西南北のうち東のハーザド侯爵家と北のヘルティエンス伯爵家がデンベル寄りの家で、西のクレイドル侯爵領と南のカレイド伯爵領が王族寄りだった。


 だけど、今はデンベルの指示に従っているそうだ。無理もない。あいつらなら平気で住民を人質にとって来るだろう。


 なぜこの2つの家が狙われないかと言うと、西はゼルテア帝国、南はクリスタンド王国と接しているからだ。


 ゼルテア帝国は一応は同盟を組んでいるが、ほぼ冷戦状態だ。今は魔族の事があるため攻めては来ないが、もしクレイドル侯爵領を占領などしたりすれば、隙を突かれるのは目に見えている。


 南のクリスタンド王国はグランディーク王国というよりかは、カレイド伯爵と仲が良い。代々仲が良くて、クリスタンド王国の王家にカレイド伯爵家の先祖がいたりもするのだ。


 その家を攻めようとすれば、クリスタンド王国が来るのはわかっているため、そのままにしているのだろう。


 そんな事情もあって、グランディーク王国の中は何とか落ち着いているらしい。これが、ヘルガーさんの部下であるペルスさんから聞いた情報だ。


 そんな、自分たちの敵であるハーザド侯爵領に入るために、僕たちは門で順番待ちをしている。因みにフードは被っていない。理由は僕たちもマリンティアさんも見た目は人族とそんなに変わりないからだ。


 まあ、念には念を入れて闇魔法の幻影で顔を変えているが。僕たちの番が来れば、僕たちの顔を見て鼻で笑う門兵たち。


 僕たちから直ぐに興味を無くして、通してくれる。門兵が聞いて呆れるね。こんな杜撰な警備だと、いつ侵入されてもおかしくないよ。


 門から少し離れたところで、僕たちは立ち止まる。ここら辺では待ち合わせなどで人が集まっているため、立ち止まっても怪しまれないのだ。


「何だか、思った以上に普通に入れて拍子抜けしたわ」


 呆れたようにいうマリンティアさんにルイーザたちも頷く。それは僕も同意だ。僕たちがいた頃に比べてかなり治安が悪くなっているようだし。でもまあ、もう僕には関係の無い話だが。


「それで、これからの事なんだけど」


「どうするのだ、エル兄上?」


「うん、二手に分かれて行動しようと思う。僕とマリーシャが冒険者ギルドへ、マリンティアさんとルイーザ、それから僕との連絡役でユフィーが買い物と宿の手配で。これでどうかな?」


「私は構わないわよ。ただ、土地勘が無いからあれなんだけど」


「それなら私がわかるから大丈夫だ。ユフィー様こちらへ。フードの中へ隠れていて下さい」


「は〜い」


 ユフィーはフラフラ〜と飛んでいき、ルイーザのフードの中へと入る。ユフィーには街中では外に出ないように言っている。誰から狙われるかわからないからね。少し窮屈だけど我慢してほしい。


「それじゃあ、夕刻の鐘が鳴ったら中央広場に集合にしよう。それで良い?」


 僕の言葉にマリンティアさんたちも頷く。そこから二手に分かれて行動する。僕たちはそのまま通りにある冒険者ギルドを目指す。


 ペルスさんの話通りなら、ここのギルドには勇者の1人がいるはずなのだが。この時間帯はいるのだろうか。


「エルお兄ちゃん、ギルドに行ったらどうするの?」


「ギルドでまず、僕とマリーシャの冒険者登録をする。僕は前のカードは使えないからね。そこで、冒険者として過ごして、情報を集める」


「それじゃあ、ルイーザやマリンティアさんはどうするの?」


「もちろん、2人には目立たなくしてもらう。4人でいたら目立つけど、僕たちだけならそこまで目立たないからね。それに最初で目立って覚えられたりでもしたら、次からが動きづらいし」


 僕の言葉に納得したようで、頷くマリーシャ。そのまま通りを歩いていると、ようやくギルドが見えて来た。僕たちがギルドに近づこうとすると


「ぐぎゃあっ!」


 突然、ギルドから人が飛び出して来た。飛び出したというよりかは飛んで行ったに近いのだけど。飛んで行った男は向かいの家へと頭から突っ込んで行った。そして次に武器を構えた男たちが出てくる。


 ただ、腰は完璧に引けており、明らかに戦意を消失していた。どういう事だ? そう思って見ていたら、1人の男が出て来た。その瞬間、僕は腰に差してあるクロバを抜こうとしたけど、何とか我慢する。


 ふぅ〜、ふぅ〜……落ち着け俺。落ち着くんだ。今はまだ早い。今焦っても失敗するだけだ。落ち着け。


「……マリーシャも動くなよ」


「……はい」


 僕とマリーシャは何とか耐え切り、ギルドから出て来た男たちの一部始終を見ていた。


「はぁ〜、全くどいつもこいつも面倒っすね〜。見た目だけで判断して。そんなに死にたいのなら殺してやるっすよ」


 狐目をした男、異世界からの勇者の1人であるケンタ・ニドウがそう言いながら腰の短剣を抜く。その後ろには奴隷の首輪をした女性が3人付いて来た。あいつの奴隷なのだろう。一人一人が武器を持っている。


「……あっ! あの子!」


 その女性たちを見ていたら、隣のマリーシャが声を上げる。彼女の視線の先にはケンタの奴隷の女性たちがいる。その中でも、紫色の髪を腰まで伸ばした女性がいた。どうやらマリーシャが知っている人物のようだ。


 その間にも、ケンタはジリジリと残りの男たちは近づく。そして、一番近い男に向かって短剣を突き刺そうとした瞬間


「やめなさいっ!」


 と、怒鳴り声が聞こえてくる。声の主人はギルドの中から聞こえて来た。そして出て来たのは、真ん中だけハゲている男の人だった。


「ケンタ様、申し訳ございません。我が支店の冒険者が問題を起こしまして。ケンタ様の手を煩わせるわけにはいきません。もしよろしければ、部屋にある秘蔵のお酒をお飲みしませんか?」


「おっ、それは良いっすね! 頂くっすよ!」


 出て来たハゲの男の人の言葉に、気を良くしたケンタは、ギルドの中へと消えて行った。そして、残ったハゲの男の人は、ボロボロの男たちを憲兵に連れて行かせた。


 そして、それを見送ったハゲの男の人は、そのままギルドへと入ってしまった。だけど、ようやく出会えたぞ。僕は沸々と湧いてくる怒りを抑えながら、ギルドへと入って行くのだった。

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