復讐の魔王

やま

22.これから

「ヘルガーさん、エルです」


 僕は、コウモリを肩に乗せて、ヘルガーさんの部屋へとやって来た。この手紙を持って来たコウモリはヘルガーさんが連絡用に使っているコウモリで、この広い地下迷宮で時たま飛んでいるのを見る。


「おう、入れ」


 中からヘルガーさんの声が聞こえたので、扉を開けて中に入ると、中にはヘルガーさんと全身真っ黒なのっぺらが座っていた。誰だ?


「ああ、こいつの名前はペルス。魔物から進化したやつだ。前の種族はドッペルゲンガー、姿形から声に、動作まで全てを真似る事が出来る。その代わり戦闘能力は皆無だが、諜報活動には重宝する」


「なるほどですね。それで僕を呼んだ理由は、彼……彼女? も関係あるのですか?」


「ああ、こいつが諜報活動を行なっていたのはな、グランディーク王国なんだよ」


 グランディーク王国の事か。あれから4ヶ月が経ったけど、何か変わった事でもあったのだろうか。


「まあ、あまり大きな事は起きてねえ。勇者どもを使ったクーデター以外はおとなしいもんだ。ただ、グランディーク王国は、勇者どもを1年間の修行と称して、それぞれ自由にさせる事になった」


「なっ!?」


 僕は突然の事に驚いてしまった。あいつらを自由にさせるって、とんでもなくまずいじゃ無いか。あんな奴らを自由にさせたら……


「その中で、奴らはそれぞれに分かれて冒険者をするようだ。それで誰が早くトップのSランクになれるか競うらしい」


 なるほど。だけど、1人ずつか。もしかしてこれってかなりのチャンスでは無いか。勇者たちが全員揃えば今の僕じゃ厳しいけど、1人なら倒せる筈だ。周りに仲間がいてもそこまで強くは無いだろう。なら


「……もしかして、ヘルガーさん、このために僕を?」


「どうするかはお前次第だ。まあ、そこまで復讐にとらわれる事はねえ。最悪この国で……」


「それは絶対に無理ですね。復讐を諦めたら僕は僕じゃ無くなる」


「そうか。それならもう止めはしねぇ。ペルス、ありがとよ。戻ってくれ」


 ヘルガーさんの言葉にペルスさんは頷くと、その場で一回りする。すると姿が変わり、娼婦のような姿になってしまった。女性として色々情報を聞き出しているのだろう。


「それでは失礼しますわ、ヘルガー様」


 ペルスさんは優雅に礼をして、部屋を出て行った。僕も出るか。みんなに話をしないといけないし。


「ヘルガーさん、僕も失礼します」


「ああ」


 僕は部屋を出てみんながいるであろうところへ向かう。2人はマリンティアさんにヴァンパイアの力の使い方を習っている筈だ。マリンティアさんもハーフだけどヴァンパイアの力を持っているし。


 地下王宮を歩く事10分。目的の部屋に辿り着いた。僕が扉を叩くと、中からローナさんが出てくる。


「入っても大丈夫ですか?」


「はい、どうぞ、エル様」


 ローナさんに促され中へ入ると、そこには優雅にお茶をしている3人が座っていた。マリンティアさんは当然王族という事で綺麗な所作で、ルイーザもマリーシャも侯爵家の令嬢だったので、とても綺麗だ……あっ、ユフィーもここにいたのか。ユフィー専用のミニカップまであるよ。


「あっ、あるじ様!」


 僕に気が付いたユフィーが僕に向かって飛んで来て肩に座る。少し大きくなったかな? 今では30センチほどまでの大きさになった。


「あら、どうしたのエル?」


「マリンティアさん、それにみんなに話があって来たんです」


 それからは、ヘルガーさんに聞いた話、僕たちの目的を話す。


「ようやく仇が取れるんですね、エルお兄様」


「うん、今のあいつらがどれほど強くなって、どれだけの仲間を揃えているかはわからない。だけど、必ず殺す。それだけは間違い無いからね」


 そんな風に笑い合う僕たちを見ていたマリンティアさんが


「……はぁ、しょうがないわね、私も付いて行ってあげるわよ」


 と、そんな事を言い始めた。僕たちは驚いてマリンティアさんを見るけど、マリンティアさんは飄々としている。


「それはダメだ、マリンティアさん。僕たちの私怨にマリンティアさんを巻き込むわけにはいかない。だから、マリンティアさん、ここで……」


「あなたたち、見てて危なっかしいのよね」


「え?」


 僕たちはマリンティアさんの言葉に驚いてしまった。危なっかしいとはどういう事なのだろうか。あまりに不思議に思っていると


「あなたたちが復讐の事に話している時、自分の顔見たことある? 物凄く気持ちの悪い顔をしているわよ。別に復讐をするなとは言わないし、止めないけど、復讐だけに飲まれてはダメよ」


 真剣な表情でそう言ってくるマリンティアさんの言葉が、僕の胸に突き刺さる。僕たちは自分たちの顔を見合わせると、確かに見ていて気持ちの良いものではない。


 綺麗なルイーザやマリーシャでさえも、醜悪に見えてしまう。2人も、同じ事を思ったのか、気持ちの悪そうな顔をしている。


「だから、私はあなたたちのストッパー役。やり過ぎて戻ってこれないようにさせないための。あっ、ローナは留守番ね」


「そんな後生なっ!」


 わーわーと言い合う2人を見ていると、僕の頬をむにむにと触ってくるユフィー。僕と目が合うとユフィーはニッコリと微笑んで


「あるじ様は大丈夫です! だって、私にいっぱい優しくしてくれるのですから!」


 ……確かにマリンティアさんの言う通りだね。復讐に囚われすぎてこの子の笑顔を無くすような事があってはいけない。二度と。そうならないためにも、復讐以外の事も考えないといけないかもしれない。


 だけど、とりあえずはこの国を出よう。そしてグランディークで情報収集だな。

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