復讐の魔王

やま

7.提案

「……ふぅ、何とか落ち着いたかな?」


 僕は口元を拭いながら1人で呟く。目の前にはオークの死体が3体転がる。


 盗賊を殺した後、その場所で充満する血の匂いで、本能を抑えきれずに、もう少しでルイーザを襲いそうになったから、川までやって来たのだ。


 すると、運良く川の水を飲んでいるオークたちに出会ったので、血の渇きを潤すために贄となってもらった。ついでに今日のご飯にもなるから一石二鳥だ。


「……エル兄上。大丈夫か?」


 僕が、殺したオークの死体で必要な部分だけ解体していると、森の中からマリーシャを背負ったルイーザがやって来た。


「ああ、大丈夫だよ。それより、このオークでご飯にしよう。ルイーザも昨日から何も食べてないだろ? それに体も洗いたいはずだ。川で申し訳ないけどね」


「いや、大丈夫だ、エル兄上。水で洗えるだけでも有難い。マリーシャの体も拭いてあげたいから入っても良い?」


 ルイーザがそう尋ねてくるので僕は当然頷く。今日はここで野宿する事に決めて、その準備をする。川の側だから魔物は来ると思うけど、魔族になった僕の今の感知の範囲はかなり広くなっている。何かが近づけばわかるだろう。


 とりあえずオークの肉を捌いてしまおう。血の匂いに他の魔物が寄って来てしまうからな。


 それからオークを捌ききった僕はルイーザと一緒に下流の方へ進む。まわりの安全を確かめたら、そこで野宿の準備だ。


 まずは暗くなる前に火を準備しなければ。僕はルイーザたちが川で体を洗っている間に乾燥した木の枝を拾う。火に関して火魔法があるからつけるのは楽だね。


 しかし、これからどうしたものか。僕1人ならさっさと魔族領に向かえば良いのだけど、ルイーザとマリーシャを置いてはいけない。かといって2人を連れていけば、間違いなく魔族に襲われるだろう。


 彼女たちを魔族領に連れて行く方法は、僕の考えられる限りで2つ。


 1つは、このまま僕の奴隷、食料として連れて行く事。彼女たちの血を僕の食料として連れて行けば奴隷扱いなので何も言われないだろう。


 だけど、これをすれば魔族領に連れては行けるけど、狙われる可能性が無くなるわけじゃない。


 そしてもう1つは……こっちは正直に言うとやりたく無い。これをしてしまうと、彼女たちの人生を大きく変えてしまうからだ。


「エル兄上、私も手伝うよ」


 そんなことを考えながら野宿の準備をしていたら、後ろからルイーザの声がする。振り向くと、服装は同じだけど、髪などが濡れているルイーザが立っていた。背中には当然マリーシャを背負って。


 僕は地面に大きめの布を敷いて、ルイーザはそこにマリーシャを寝かせる。


 それから、小さく切ったオークの肉を焼く。オークは体長が2メートル弱ある豚顔の魔物で、徒党を組んで襲ってくる。


 体は脂肪と筋肉で覆われていて並みの大人だと太刀打ちができない。オークはオスしか生まれないため、子孫を残そうと、他の魔物、種族のメスを攫って襲ったりもする、女性の天敵だ。


 だけど、こいつらの肉は普通に美味しい。豚顔だからはわからないけど、豚肉と同じ味がして、その上、一体から取れる量が多いため、食べられないし、お金にならないゴブリンとは違って、まあまあ人気の魔物だ。オーク養豚場があるくらいだからね。


 そんなオークの肉を焼いていると


「う、うぅん……」


 寝かせていたマリーシャが動き始めた。まさか目を覚ましたのか? 僕とルイーザは直ぐにマリーシャの下に寄って顔を覗く。すると、マリーシャの目が少しずつ開かれていく。


「マ、マリーシャ、目を覚ましたのか!?」


「うぅ……る……るー……ちゃん?」


「ああ! 私だ! ルイーザだ! 良かった!」


 マリーシャが目を覚ました事がわかったルイーザはマリーシャを力強く抱き締める。マリーシャも苦しそうだけど、ルイーザを抱き締め返す。


 ルイーザがようやく満足して離れると、マリーシャは体を起こそうとするので、ルイーザは支えてあげる。そしてここで初めて僕に気が付いたマリーシャは


「ヒィッ! ゆ、許してください!」


 と、ルイーザの背に隠れた。やっぱり地下牢の事がマリーシャの心の傷になっているのだろう。ルイーザは僕の方を見て頷いてから、マリーシャの背をさすりながら僕の事について話していく。


「え? え、エルお兄ちゃんなの? で、でも、勇者たちは死んだって。そ、それに、髪や目の色が……」


 マリーシャはまだ僕がエルだって信じられないのか、ルイーザの背に隠れながら少し顔を出して僕を見てくる。僕と目があったらルイーザの背に隠れてしまうけど。


「まあ、死んだと聞かされた相手が、見た目とか変わって生きていたら信じられないのはわかるけど、僕は正真正銘、エルフリート・シュバルツだよ。今はエルだけどね。目が覚めて良かったよ、マリーシャ」


 僕が微笑んであげると、マリーシャも僕だってわかったのか、恐る恐るだけどルイーザの後ろから出てくる。そして、僕の側までやって来て、僕の顔をまじまじと見る。


「ほ、本当にエルお兄ちゃんだ。良かった……良かったよぅ……」


 マリーシャは僕の手を握りながら泣き出してしまった。僕は昔からしていたようにマリーシャの頭をポンポンと叩く。その感触で余計に泣いてしまった。僕は泣き止むまでポンポンしてあげるのだった。


 ◇◇◇


「……そうなのですね、ビルお兄ちゃんやアルお兄ちゃんは……」


 マリーシャが泣き止んで落ち着いてからは、夕食を食べながらルイーザに話したように僕の身に起きた事をマリーシャにも話す。


 ビルたちの話もしたのだけど、悲しい表情はするが、泣く事はなかった。


「それでエル兄上、これからどうするのだ?」


 夕食も話もひと段落したところでルイーザがそんな事を聞いてくる。そういえば僕の目的はまだ話してなかったね。


「うん。僕の目的は復讐をする事だ」


「……復讐」


「うん。父上たちを嵌めたデンベル。ユフィーやアルとビルを殺した勇者たち。それに従った貴族や兵士たちも。全て殺す。だけど、それを行うためには力が圧倒的に足りない。だからそのためにまずは魔族領を目指そうと思うんだ。まずは自分の力を使いこなせるように」


「……復讐か」


「……」


 僕の話を聞いた2人は難しい顔をして考え始めた。まあ、2人に無理に付き合わせるつもりはない。だけど


「わかった。私も手伝う」


「……私もあの人たちを許せない」


 2人は僕についてくるようだ。


「本当に良いのか? 考えた僕が言うのもあれだけど、復讐をしてもみんなは戻ってこないし、ただの自己満足だ。道半ばで死ぬかもしれない。そんな事より、今までの事を忘れて、どこかで静かに暮らした方が良いんじゃないのか?」
  
「何を今更。私はエル兄上について行くと決めたのだ。それに私自身もアル兄上たちや父上たちを殺した勇者たちが許せない!」


「私もだよ、エルお兄ちゃん」


 2人は決意を決めた顔で僕にそう言ってくる。それなら僕は僕の出来る限り2人を助けて行こう。もう数少ない僕の大切な家族だ。


「わかった。それじゃあ僕と一緒に魔族領に行こう。ただ、そのためにはやらないといけない事がある」


「やらないといけない事?」


「ああ。2人は人間だ。今人族と戦争中の魔族領にただの人間は入らないだろう」


 僕がそう言うと、2人は頷く。それを確認したら僕は話を進める。


「そこで2人を魔族領に連れて行くために2つ方法を考えた。1つは2人を僕の奴隷として連れて行く事だ。魔族領にも人族の奴隷はいると聞く。魔族の僕の奴隷なら通れるだろう。だけど、この方法は他の魔族に狙われないとも限らないから用心しないといけない」


「それなら、もう1つは何ですか?」


「もう1つの方法は、あまり使いたくはないけど……僕の眷属になる事だ」

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