復讐の魔王
5.脱出
「さてと、さっさとここから出よう。他に兵士が来ないとは限らないし」
僕は、最後の1人を憤怒の炎心剣で刺しながら、ルイーザに声をかける。彼女たちを助けてから、10分ぐらいは経っただろう。直ぐにでもここから出たかったが、彼女が体を汚れているのだけは、洗いたいというので、待っていたのだ。
取り敢えず僕は、彼女たちに付けられていた魔封じの腕輪を壊す。魔封じの腕輪は名前の通り、魔法を使えないように魔力の流れを止める腕輪だ。これを付けられると、体に魔力を流す事が出来なくなり、魔法が放たなくなる。身体強化や魔眼なんかも使え無くなる。
ルイーザが自分、そして今だに気を失っているマリーシャの体を僕が渡した布に水魔法で水を付けて拭いている間に、僕は影縫で捕らえていた兵士たちを殺していた。生かしておく理由も無いからね。
「あ、ああ、そうだな。もう大丈夫だ、エル兄上」
俺の言葉に反応して、ルイーザが返事をくれたので、僕は振り向く。今のルイーザとマリーシャは、先ほどまで来ていた布切れでは無くて、男物の服装をしている。
僕はダインさんのところで話を聞いてから、そのまま来たので、彼女たちに合う服なんてもちろん持って無かった。
彼女たちの服を、あの薄汚れた布切れのままだと、可哀想だったので、僕の予備として持っていた服を渡したのだ。ルイーザは普通に着れたのだが、マリーシャは胸の部分が物凄く窮屈そうだ。服を手に入れるまで我慢して欲しい。
「武器はそいつらのを持って行こう。無いよりはマシのはずだ」
「わかった」
ルイーザは、壁に立てかけられていた兵士たちの剣から1つ取り腰にさす。そして、火魔法に属する身体強化を使い力を上げて、マリーシャを背負う。
夜目がほとんど効かないルイーザのためにゆっくりとなってしまうが、地下牢を出る。王宮を照らすのは月明かりのみ。
「ルイーザ、足下を気を付けてね。月が照らしていても、殆ど見えないから」
「ええ、わかった。でも、どうしてエル兄上はそこまで簡単に暗闇の中を歩けるんだ?」
「ん? その事は落ち着いたら話すよ。今は先に逃げ……危ないっ!」
僕がルイーザと話していると、突然風を切る音が耳に鳴り響く。ルイーザの方を見れば、後ろから飛んでくる大量の矢。僕は直ぐに闇魔法、影壁を発動。僕たちを囲うように影の壁が現れる。
矢が降り注ぐ音が止むと、僕は影壁を解除する。影壁が無くなった事で地面にポトポトと落ちる矢。それと同時に、王宮の方から現れた兵士たち。
「ようやく現れたか残党め! 女どもの事を言いふらせば、現れると思ったが、まさか1人でやってくるとはな!」
隊長の格好をした男がそんな事を言ってくる。ルイーザたちを囮にしていたとは。僕が殺した中に、襲って来た事が伝わる魔道具か何かがあったのだろう。これは迂闊だった。
「敵が1人なら、勇者殿たちを呼ぶ必要もあるまい。第1部隊、かかれ!」
隊長の男が指示を出すと、向かってくる兵士たち。相手をするのは簡単だが、時間がかかる。色々と面倒だ。ここは逃げるか。
「ルイーザ、逃げるから、マリーシャを僕の背に!」」
「あ、ああ、わかった……きゃあ! え、エル兄上、一体何を!?」
僕はマリーシャを背負うと、左手で支える。そして、右手でルイーザを抱き上げる。ルイーザは驚きの声を上げるが、今はそれどころでは無い。
「ルイーザ、舌噛むなよ!」
「えっ、きゃ、きゃぁぁあああ!」
僕は身体強化を発動して、最速で駆け出す。ルイーザはあまりの速さに僕の胸元に顔を埋めてしまった。今はそれで我慢してほしい。
「なっ、なんて速さだ! お、追え! 奴らを逃がすな!」
後ろでは隊長の男の叫ぶ声が聞こえるが、それもどんどんと遠くなっていく。そして、城壁まで走って来た。
「え、エル兄上、こ、このままだと壁に……」
「もう一回言うけど、舌を噛むなよ!」
「へっ? うっ、うきゃああああ!」
僕は城壁まで走ると、一気に膝を曲げ上に跳ぶ。4メートル近くある城壁の上まで跳び上がる。僕はあまり気にしないけど、そのは勇敢で、再び悲鳴をあげるルイーザ。もう少し我慢してくれ。
無事に城壁に着地すると、ルイーザが涙目で僕を下から見上げて来る。
「あ、兄上! ほ、他に方法は無かったのか!? こここ、こんな、飛ばなくても!」
「ごめんよ、これまだ続くから」
「えっ……?」
僕の発言に顔を青くするルイーザ。僕はその顔を見なかった事にして、今度は城壁から飛び降りようとした時
『あ……ない! ……ル!』
頭の中に誰かの声がした。誰かはわからないがとても綺麗な声。その声に僕は立ち止まってしまった。一体誰が? そう思った瞬間、僕が飛び降りようとしていたところに矢が突き刺さった。
「えっ?」
「なっ!?」
全く音がしなかったのに急に現れた矢。風切り音も、矢の姿も、飛び降りようとしていたところに刺さるまで気がつかなかった。僕は矢の飛んで来たと思われる方を見ると、そこは王宮。そして僕のいまの視力ならしっかりと見える。バルコニーに立つ影を。
「あれは……カグヤか」
僕の目には、復讐の対象の1人、カグヤ・シノノメが映っていた。アルたちが殺された時にはいなかったが、何も関わっていないわけがない。あいつも、復讐の対象の1人だ。だけど……
「飛降りるよ、ルイーザ」
「えっ? あ、うん」
僕はその場から飛び降りる。ルイーザも今度は覚悟が出来たのか、胸元で必死にしがみつく。復讐はしたいが、今は2人を助け出すのが先だ。それに今から王宮に向かっても、囲まれるのがオチだ。悔しいが今は逃げる。
地面に降り立った僕は、そのまま裏道を目指す。このまま王都を出るのだが、普通に門を通っては出られない。だからここで光魔法を使う。
王宮で使うと、勇者以外で使えるのは僕だけだからバレてしまうから使わなかったけど、今はまだ追っ手もいない。それに裏道なら見られる事も少ない。
「ルイーザ、このまま飛ぶからしっかり掴まってて」
「わ、わかった」 
「光ノ道!」
光魔法、光ノ道。この魔法は自分の見える範囲なら自由に転移する事が出来る。距離に応じて魔力は消費するけど、僕は裏道から、外壁の上まで飛ぶ。
そして、再び発動。今度は外壁の上から下に降りるのに使う。昔なら1回目の移動すら出来ない程だったけど、今は2回移動しても余裕だ。
「逃げ……切れたのか?」
「まだ、安心は出来ないけどね。このまま、抱えて僕が走るよ」
突然、頭の中に聞こえて来た声や、勇者たちの事があるが、今はとりあえず王都から離れよう。目指すは魔族領だ。それまでに、2人の荷物も用意しないと。
◇◇◇
「うそっ!? 私の矢が避けられるなんて!?」
私は、あまりの事に驚いてしまった。私が放った『無天の矢』が避けられるなんて。
私、東雲 輝夜が、この世界に転移してから、一度も避けられた事が無かったのに。この『無天の矢』は、物にあたるまで、音、気配、姿も消せる、反則級の効果がある、私のスキル。それをまさか避けられるなんて。
2発目を放とうとしたけど、侵入者はそのまま城壁から飛び降りてしまった。兵士たちがそのまま後を追う姿が見える。
でも、変な侵入者だったわね。髪の毛は真っ白で、白の仮面を付けていた。私の視力だからわかったけど、仮面から覗く真っ赤な憎悪に染まる目。
私の方を見ていたから、多分わかっていたのね。そして、勇者に恨みがある人。……まあ、色々と心当たりがあるわね。そんな事を考えながら、バルコニーに立っていたら
「お姉ちゃん……眠らないの?」
後ろから声がした。振り向くとそこには、クマのぬいぐるみを持って、眠たそうに目を擦る私の大切な妹、東雲 美々が立っていた。
「あら、美々。目が覚めちゃった?」
「うん。おトイレに行こうと思ったら、隣にお姉ちゃんがいなかったから」
美々は船を漕ぎながら答えてくれる。
「そうなの。それならおトイレに行ってから寝ましょ。私も眠るから」
「うん」
私は美々と手を繋いで部屋に戻る。私たちに恨みを持つのは仕方ないわね。でも、私も美々とこの世界で生き残るためには仕方ない事なのよ。美々が生きるためなら私は何だってするわ。人を殺す事だって……。
僕は、最後の1人を憤怒の炎心剣で刺しながら、ルイーザに声をかける。彼女たちを助けてから、10分ぐらいは経っただろう。直ぐにでもここから出たかったが、彼女が体を汚れているのだけは、洗いたいというので、待っていたのだ。
取り敢えず僕は、彼女たちに付けられていた魔封じの腕輪を壊す。魔封じの腕輪は名前の通り、魔法を使えないように魔力の流れを止める腕輪だ。これを付けられると、体に魔力を流す事が出来なくなり、魔法が放たなくなる。身体強化や魔眼なんかも使え無くなる。
ルイーザが自分、そして今だに気を失っているマリーシャの体を僕が渡した布に水魔法で水を付けて拭いている間に、僕は影縫で捕らえていた兵士たちを殺していた。生かしておく理由も無いからね。
「あ、ああ、そうだな。もう大丈夫だ、エル兄上」
俺の言葉に反応して、ルイーザが返事をくれたので、僕は振り向く。今のルイーザとマリーシャは、先ほどまで来ていた布切れでは無くて、男物の服装をしている。
僕はダインさんのところで話を聞いてから、そのまま来たので、彼女たちに合う服なんてもちろん持って無かった。
彼女たちの服を、あの薄汚れた布切れのままだと、可哀想だったので、僕の予備として持っていた服を渡したのだ。ルイーザは普通に着れたのだが、マリーシャは胸の部分が物凄く窮屈そうだ。服を手に入れるまで我慢して欲しい。
「武器はそいつらのを持って行こう。無いよりはマシのはずだ」
「わかった」
ルイーザは、壁に立てかけられていた兵士たちの剣から1つ取り腰にさす。そして、火魔法に属する身体強化を使い力を上げて、マリーシャを背負う。
夜目がほとんど効かないルイーザのためにゆっくりとなってしまうが、地下牢を出る。王宮を照らすのは月明かりのみ。
「ルイーザ、足下を気を付けてね。月が照らしていても、殆ど見えないから」
「ええ、わかった。でも、どうしてエル兄上はそこまで簡単に暗闇の中を歩けるんだ?」
「ん? その事は落ち着いたら話すよ。今は先に逃げ……危ないっ!」
僕がルイーザと話していると、突然風を切る音が耳に鳴り響く。ルイーザの方を見れば、後ろから飛んでくる大量の矢。僕は直ぐに闇魔法、影壁を発動。僕たちを囲うように影の壁が現れる。
矢が降り注ぐ音が止むと、僕は影壁を解除する。影壁が無くなった事で地面にポトポトと落ちる矢。それと同時に、王宮の方から現れた兵士たち。
「ようやく現れたか残党め! 女どもの事を言いふらせば、現れると思ったが、まさか1人でやってくるとはな!」
隊長の格好をした男がそんな事を言ってくる。ルイーザたちを囮にしていたとは。僕が殺した中に、襲って来た事が伝わる魔道具か何かがあったのだろう。これは迂闊だった。
「敵が1人なら、勇者殿たちを呼ぶ必要もあるまい。第1部隊、かかれ!」
隊長の男が指示を出すと、向かってくる兵士たち。相手をするのは簡単だが、時間がかかる。色々と面倒だ。ここは逃げるか。
「ルイーザ、逃げるから、マリーシャを僕の背に!」」
「あ、ああ、わかった……きゃあ! え、エル兄上、一体何を!?」
僕はマリーシャを背負うと、左手で支える。そして、右手でルイーザを抱き上げる。ルイーザは驚きの声を上げるが、今はそれどころでは無い。
「ルイーザ、舌噛むなよ!」
「えっ、きゃ、きゃぁぁあああ!」
僕は身体強化を発動して、最速で駆け出す。ルイーザはあまりの速さに僕の胸元に顔を埋めてしまった。今はそれで我慢してほしい。
「なっ、なんて速さだ! お、追え! 奴らを逃がすな!」
後ろでは隊長の男の叫ぶ声が聞こえるが、それもどんどんと遠くなっていく。そして、城壁まで走って来た。
「え、エル兄上、こ、このままだと壁に……」
「もう一回言うけど、舌を噛むなよ!」
「へっ? うっ、うきゃああああ!」
僕は城壁まで走ると、一気に膝を曲げ上に跳ぶ。4メートル近くある城壁の上まで跳び上がる。僕はあまり気にしないけど、そのは勇敢で、再び悲鳴をあげるルイーザ。もう少し我慢してくれ。
無事に城壁に着地すると、ルイーザが涙目で僕を下から見上げて来る。
「あ、兄上! ほ、他に方法は無かったのか!? こここ、こんな、飛ばなくても!」
「ごめんよ、これまだ続くから」
「えっ……?」
僕の発言に顔を青くするルイーザ。僕はその顔を見なかった事にして、今度は城壁から飛び降りようとした時
『あ……ない! ……ル!』
頭の中に誰かの声がした。誰かはわからないがとても綺麗な声。その声に僕は立ち止まってしまった。一体誰が? そう思った瞬間、僕が飛び降りようとしていたところに矢が突き刺さった。
「えっ?」
「なっ!?」
全く音がしなかったのに急に現れた矢。風切り音も、矢の姿も、飛び降りようとしていたところに刺さるまで気がつかなかった。僕は矢の飛んで来たと思われる方を見ると、そこは王宮。そして僕のいまの視力ならしっかりと見える。バルコニーに立つ影を。
「あれは……カグヤか」
僕の目には、復讐の対象の1人、カグヤ・シノノメが映っていた。アルたちが殺された時にはいなかったが、何も関わっていないわけがない。あいつも、復讐の対象の1人だ。だけど……
「飛降りるよ、ルイーザ」
「えっ? あ、うん」
僕はその場から飛び降りる。ルイーザも今度は覚悟が出来たのか、胸元で必死にしがみつく。復讐はしたいが、今は2人を助け出すのが先だ。それに今から王宮に向かっても、囲まれるのがオチだ。悔しいが今は逃げる。
地面に降り立った僕は、そのまま裏道を目指す。このまま王都を出るのだが、普通に門を通っては出られない。だからここで光魔法を使う。
王宮で使うと、勇者以外で使えるのは僕だけだからバレてしまうから使わなかったけど、今はまだ追っ手もいない。それに裏道なら見られる事も少ない。
「ルイーザ、このまま飛ぶからしっかり掴まってて」
「わ、わかった」 
「光ノ道!」
光魔法、光ノ道。この魔法は自分の見える範囲なら自由に転移する事が出来る。距離に応じて魔力は消費するけど、僕は裏道から、外壁の上まで飛ぶ。
そして、再び発動。今度は外壁の上から下に降りるのに使う。昔なら1回目の移動すら出来ない程だったけど、今は2回移動しても余裕だ。
「逃げ……切れたのか?」
「まだ、安心は出来ないけどね。このまま、抱えて僕が走るよ」
突然、頭の中に聞こえて来た声や、勇者たちの事があるが、今はとりあえず王都から離れよう。目指すは魔族領だ。それまでに、2人の荷物も用意しないと。
◇◇◇
「うそっ!? 私の矢が避けられるなんて!?」
私は、あまりの事に驚いてしまった。私が放った『無天の矢』が避けられるなんて。
私、東雲 輝夜が、この世界に転移してから、一度も避けられた事が無かったのに。この『無天の矢』は、物にあたるまで、音、気配、姿も消せる、反則級の効果がある、私のスキル。それをまさか避けられるなんて。
2発目を放とうとしたけど、侵入者はそのまま城壁から飛び降りてしまった。兵士たちがそのまま後を追う姿が見える。
でも、変な侵入者だったわね。髪の毛は真っ白で、白の仮面を付けていた。私の視力だからわかったけど、仮面から覗く真っ赤な憎悪に染まる目。
私の方を見ていたから、多分わかっていたのね。そして、勇者に恨みがある人。……まあ、色々と心当たりがあるわね。そんな事を考えながら、バルコニーに立っていたら
「お姉ちゃん……眠らないの?」
後ろから声がした。振り向くとそこには、クマのぬいぐるみを持って、眠たそうに目を擦る私の大切な妹、東雲 美々が立っていた。
「あら、美々。目が覚めちゃった?」
「うん。おトイレに行こうと思ったら、隣にお姉ちゃんがいなかったから」
美々は船を漕ぎながら答えてくれる。
「そうなの。それならおトイレに行ってから寝ましょ。私も眠るから」
「うん」
私は美々と手を繋いで部屋に戻る。私たちに恨みを持つのは仕方ないわね。でも、私も美々とこの世界で生き残るためには仕方ない事なのよ。美々が生きるためなら私は何だってするわ。人を殺す事だって……。
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