復讐の魔王

やま

1.戻って来た王都

 僕が死んでから1週間が経った。現在はもう直ぐで日が暮れそうな時間帯になるが、その中を僕は歩いている。現在どこにいるかと言うと、それは……王都だ。


 王都に戻って来た理由は、目的の復讐では無い。何も準備もせずにあいつらを殺す事は出来ないだろう。それに、たぶん実力も今の僕とは差があるはずだ。


 ……あいつらの事を考えると、殺したい衝動に駆られるが、今は我慢する。まずはこの体に慣れないといけないし。


 このヴァンパイアの体だが、人間だった時に比べて格段に身体能力が上がっていた。重たい物も強化魔法を使わなくても軽々と持ち上げられるし、走る速度もかなりのものだ。


 それに、ヴァンパイアだからなのか夜目も効く。今でも昼間みたいに周りを見る事ができるぐらいだ。かといって昼間は眩しいのかというとそうでも無い。普段通りに見える。


 それから、夜の方が体調が良い気がする。これはヴァンパイアの特性を少し受け継いでいるようだ。


 僕も聞いた事があるだけなのだが、普通のヴァンパイアでも昼間日光に当たる事は出来るが、すぐに日焼けをしてしまうらしい。その上当たり過ぎると、病気になりやすいのとか。


 逆に夜は昼間に比べると元気になる。別にテンションが上がるとかでは無いのだが、眠く無くなった。その上、眠りが浅くなったかな。あまり寝なくても次の日には支障が無い。これは有り難かった。これから色々としていくうちに役に立つだろう。


 そして、感覚も鋭くなった。耳は遠くまで聞こえ、匂いも数キロ先までわかるようになり、目は夜目に効くようになったのと遠くもわかるようになった。


 ただ、鋭くなり過ぎた弊害で頭痛が酷くなり、慣れるまで3日ほど動けなかった。耳鳴りは酷くなるし、鼻は匂いがキツくて吐き気がして、目は少しの明かりを見るだけで痛かった。良過ぎるのも駄目らしい。


 あと変わった事といえば、闇魔法が使えるようになった事だろう。僕は元々光魔法が主で、火魔法と水魔法が少し使えるぐらいだったのだが、ある時なんと無しに闇魔法を使ってみれば使えたのだ。


 これはたぶんシスティーナさんの力を貰ったからだろう。でもこれもありがたい。闇魔法には認識阻害の魔法や、呪い系の魔法がある。これは復讐には使える。喜び過ぎてむせたのは内緒だ。


 そして、ヴァンパイアとして1番の問題なのが……血だ。感覚的にそんな頻繁に必要は無いようだが、それでも飲まないと駄目らしい。体がそう言っている。


 なんて言えば良いのだろうか、飲まないとイライラして来て体調が悪くなる感じだ。昔見た酒に溺れた男が、イライラして暴れている光景を思い出したぐらいだ。


 たぶん飲まなさ過ぎるとそれに近い感じになるのだろう。そして血を欲して誰かを襲うと。


 とりあえず助かったのは獣や魔物の血でも大丈夫だった事だ。本当に嫌々だがゴブリンの血を飲んで見ると、物凄く不味かったが飲めなくはなかった。


 他に無くて最終的にヤバくならないと飲まないと思うけど。獣だとまあ飲めなくは無いかな、ってぐらい。ゴブリンよりは断然マシだったが。


 ただ、自分の血は駄目だった。少し傷付けて出て来た血を舐めてもただの鉄の味だった。自分の血で補うのは駄目らしい。残念。


 それと、その時に気が付いたのだが、ヴァンパイアの唾液には、かすり傷程度なら直ぐに治せるほどの効果があった。何度か自分の腕に切り傷を付けて唾をつけて見ると、つけていない時に比べて治りが早かった。いざという時に使えるな。


 そんなこんなでヴァンパイアの体を色々と確認していて1週間後には王都に着く事が出来たのだ。歩きならその何倍かはかかるのだが、馬と同じぐらいで着く事が出来た。これは身体能力が上がったのと、夜に寝る時間が短くても良くなったからだな。


 俺が目的の復讐をしないのに、この王都にやって来た理由は、父上たちの遺体を弔いたいと思ったからだ。本当なら直ぐにでも魔族領に行くべきなのだろうけど、あいつらは父上たちの事を反逆者と罵っていた。


 この国は犯罪を犯した者を見せしめにする事がある。二度とそういう事を起こさないように。そう考えると、殆どの確率で父上たちの亡骸は晒されているだろう。なんとか弔ってあげたいけど……。


 それから、万が一生存者がいたら助けるつもりでもいる。でも、あいつらが誰かを見逃している事はないだろうから、これに関しては望み薄だ。悲しい事だが運が良ければとなる。


 そして、最後の目的が資金を確保する事だ。今の僕の持ち金は、砦にいたらほとんど使う事が無いのであまり持っていない。そのため、これから生活をして行く上で、心許ないので、シュバルツ家に行く事にした。


 既に誰かに使われている事は無いと思うけど、中の物は全て持って行かれただろう。だけど、中には当主だけが知っている隠し金庫がある。万が一の時のため用に。それがバレてなかったら使えるだろう。


 優先順位的に


 父上たちの骸を弔う→シュバルツ家の隠し金庫を探す、だ。その中で生存者が生きていたら助けるかな。


 とりあえずは王都に入らなければ。そのために僕は変装をする。白髪はたまにいるのでローブをかぶるだけで良いのだが、問題は顔だ。


 王都の兵士なら僕の顔は知っているだろう。そんな奴が現れれば直様兵士に囲まれてしまう。そうならない為に僕は、


「はい、次ぃ……お前はその仮面は?」


 仮面を付ける事にした。途中の村で偶々見つけたものだ。何かに使えるだろうと思って買っておいて良かった。


「すみません、子供の頃に顔中大火傷を負って人に見せられるものでは無いのです。必ず不快にさせてしまいますから」


 そう言い僕は仮面を少しズラす。仮面のズラしたところからは皮膚が酷く爛れた火傷の跡が見える。これを見た兵士は顔を顰める。


「わ、わかったからそれ以上見せるな! 通行証は?」


「すみません。それも無いのでこれで」


 そう言い僕は兵士に銀貨を握らせる。本当なら通行証が無ければ大銅貨1枚払えば良いのだが、これ以上詮索されるのは嫌だったので、これで黙らせる。


 ちなみにこの世界の貨幣は


 小銅貨→銅貨→大銅貨→銀貨→大銀貨→金貨→白金貨になる。


 小銅貨が1クル。そこから順に銅貨が10クル、大銅貨が100クル、銀貨が1千クル、大銀貨が1万クル、金貨が10万クル、白金貨が100万クルだ。


 まあ、白金貨なんて平民は見る事が無いけどね。僕も数回しか見た事ないよ。一般の市民の家族なら一月大銀貨2枚で生活が出来る。


「お、おう、通って良いぞ」


「はい、ありがとうございます」


 僕は許可が出たので、兵士に頭を下げて通る。よし無事通れたから、魔法は解除しておこう。僕が発動していたのは闇魔法の幻影ファントム。周りからの目を誤魔化す魔法だ。これで見える部分を火傷を負っているように見せたわけだ。


 さてと。父上たちがいるとしたら中央広場かな。……父上たちの姿次第では我慢が出来なくなるかも知れないな。覚悟はしておこう。

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