復讐の魔王

やま

プロローグ 復讐誓いし魔王の卵

「……こ、こは…… ? それ、に……ぼく、は死んだ……はずじゃあ……」


 マコトに体を刺されて死んだはずの僕は、何故か目を覚ました。辺り一面真っ白な空間にだけど。


 でも、確かに僕は死んだはずだ。あの感覚を忘れるはずがない。体を剣に貫かれる感覚。体が少しずつ動かなくなっていく感覚。生きていた時の温もりが、血と共に体から抜けて冷たくなっていく感覚。


 あの感覚を忘れるわけがない。


「ええ。あなたは確かに死んだわ」


 そんな事を考えていたら突然声がする。僕は慌てて声のする方を見ると、そこにはとんでもない美女が椅子に座って僕を見ていた。


 血のように真っ赤に染まった長い髪の毛。目も同じように赤く染まっている。服は黒色のドレスで、胸を強調するかのようなデザインだ。そんな服を着なくてもすごいのだけど。ドレスのスリットから見える足も綺麗で、僕は目を離すことが出来なかった。


「ふふ、やっぱり愛しのあの人の面影があるわね。さすが私たちの子孫」


 そんな綺麗な女性は僕を見て1人で納得しているんだけど、僕には何がなんだかわからない。


「ええっと、あなたは誰なのでしょうか? それからここは一体どこで? 僕は死んだはずでは?」


「まあ、色々と疑問は思うと思うけど、簡単な事から行きましょうか。私の名前はシスティーナ・ラース・クラシウス。110年前にあなたの先祖であるハヤテ・エンドウと戦った魔王で、あなたの先祖になるわ」


 ……はっ? 僕の耳はおかしくなったのだろうか? どうして110年前の魔王が目の前に? 魔王は死んだはずでは? それに僕の先祖ってどういう事なんだ? わからない事が多過ぎて、何が何だかわからない。


「ふふ、そう慌てなさんな。初めから話してあげるから。私は110年前に死んだわ。でもそれは、ハヤテ・エンドウに殺されたわけじゃないの。この事は歴史からは隠されているけどね」


 それからシスティーナさんに聞いた話は僕にとって驚くものばかりだった。


 110年前に召喚されたハヤテ・エンドウは当然ながらその時の魔王だったシスティーナさんと何度もぶつかった。何度も生死をかけた戦いをして、何度も引き分けて。


 そんなある時、ハヤテとシスティーナさんは相打ちになり、2人とも大怪我したそうだ。そういえば、ハヤテ・エンドウの伝記にも数ヶ月ほど行方不明になったというのがあったな。


 その間、2人で助け合って生きていくうちに、ラブラブになったらしい。それから、自分たちの国に帰っても、時折会う仲になったそうだ。そこには伝承通りのグランディーク王国第一王女のメルティア・グランディークも一緒に。


 そうなれば、もう戦争にも興味が無くて、システィーナさんは自分の兄などの協力の下で、世間的には死んだ扱いにしてもらって、表舞台から去ったそうだ。全てはハヤテ・エンドウと一緒になるため。


 表舞台では、ハヤテ・エンドウが魔族に勝利し、メルティア王女と結婚したのだが、実際には2人と結婚したらしい。これを知っているのは当時のグランディーク王とシスティーナさんの兄だけ。


 それからみんなで暮らすようになったけど、その時に色々と気が付いたそうだ。メルティア王女が子供を産めない体であり、システィーナさんは既に身籠っていた事を。


 メルティア王女も当然悲しんだが、それ以上にシスティーナさんに子供ができた事を喜んでくれたという。みんなで元気な子に育てると話していた、というのをシスティーナさんは懐かしそうに語る。


「それから、お腹の子供は順調に育っていったわ。みんなで楽しく暮らしていてあの時は幸せだったわ。だけど、私は病に倒れてしまったの」


 国の1番の治療師に診てもらったりもしたが、治す術が見つからずに、このままでは子供を産むと同時にシスティーナさんが亡くなってしまうところまできていたらしい。


「だから私は決めたわ、子供を産む事を。ハヤテにもメルティアにも反対されたけど、私はあの人との子供が大切だったから。メルティアを説得して、私の子供をハヤテと2人の子供として育ててもらう事にしたのよ。」


 その後、産まれた子供を見て、システィーナさんは息を引き取ったそうだ。まさか僕の先祖の出生にそんな秘密があったなんて。驚いて言葉も出なかった。


「実はその時に私の力を子供たちが受け継げるようにしたのよ。私とハヤテの血を濃く継いだ子にね」


「それってまさか……」


「そう、あなたよ。エルフリート・シュバルツ。あなたが産まれた時に、あなたの中で私は目を覚ました」


 そう言い指をさしてくるシスティーナさん。そんな魔法が存在するなんて知らなかった。


「もしかして、システィーナさんは僕の体を乗っ取ろうと……」


「まさか。私の人生は110年前に終わっているの。あれでも結構幸せだったんだから私。好きなだけ戦えて、好敵手も出来て、その人の事が好きになれて、そして子供も産む事が出来た。今更誰かの体を使って復活なんて考えてないわよ。でも、あなたは違うでしょ?」


 ……そうだ。僕は後悔しかない。その後悔の中で死んでいってしまった。


「その憎しみや怒りに、私の与えた力が反応してしまったのよ。私の予定だったら魔力の量を増やすして、身体的に強くするぐらいだったのだけど、魔族としての血も深い眠りから目を覚ましてしまった」


「それは一体どういう事ですか?」


 僕は何を言われているかわからなかったけど、システィーナさんに手鏡を渡されて、見るように言われた。僕が鏡を除くとそこには


「僕の髪の色と目の色が変わっている……」


 そう、僕の髪の色と目の色が、前までは黒髪黒目だったのに、今は白髪赤目になっていたのだ。そして、口元から覗かせる牙。これは一体……。


「私の家系はヴァンパイアの家系だったのよ。その中で私はクイーン・ヴァンパイアだった。その血があなたの中で目覚めてしまったのよ。ヴァンパイア・ロードとして。そしてあなたの命は助かったの」


 ヴァンパイア・ロードって、魔族の中でも伝説級の魔族じゃないか。殆ど表舞台に出てこない最強の種族の一つ。そんな種族に僕はなったのか?


「まあ、あなたはその中でも1番の最弱なのだけどね」


 そう言ってシスティーナさんはクスクスと笑う。まあ、生まれたばかりだからね。仕方ないと言えば、仕方がないのかも。


「でも僕が助かったのはこのヴァンパイアの血のおかげですか?」


「ええ。ヴァンパイアの再生能力を侮ったら駄目よ。過信も駄目だけどね。それともう一つ。私の最強の力も引き継いでいるわ」


「最強の力?」


「ええ。右手を胸元に置いて、魔力を限界まで流してみなさい」


 僕はシスティーナさんに言われた通りに右手を胸元に置いて魔力を流す。すると、胸元が熱くなってきた……な、なんだこれは! 熱い熱い熱い熱い熱い!


「思い出すのよ、あなたの憎しみを、あなたの怒りを、全て魔力に乗せて解放するの!」


 憎しみを、怒りを、全てを解放する。


 僕は勇者が憎い。笑ってアルたちを殺した勇者たちが憎い! ユフィーを殺したマコトたちが憎い! 反乱を起こしたデンベルが憎い! それに従った貴族たちも憎い! 指示に従った兵士たちも憎い! 全てが憎い! 


 そう思っていたら、自分では知らなかった言葉が、まるで初めから知っていたかの様に頭の中に浮かび上がってくる。その言葉を僕は呟く。


「我が憎しみ、我が怒りを顕現せよ! 憤怒の炎心剣レーヴァテイン!」


 すると、僕の体全てが炎に包まれる。だけど、先ほどまでの熱さは全くない。それどころか、心地の良い暖かさだ。その炎が全て僕の右腕に集まり形を成していく。


 そして現れたのが、真っ赤に染まる一振りの剣。だけど、見ただけでただの剣ではない事がわかる。


「あなたたちがいう魔王というのには2種類、種類があってね。1つ目は周りの魔族から認められてなる魔王。この方法はいろいろな実力が認められる事によって決められるわ。
 そしてもう1つが七大罪を司る心剣を持つ者よ。七大罪を司る者は他の魔王たちよりも、強力な力を得る事が出来る。それが心剣。自分の感情に比例して強力になる。あなたの憤怒の炎心剣は、その名の通り憤怒を司っている。あなたが怒れば怒るほど、反応して強くなるわ」


 憤怒を司る心剣か。これは良い。僕にピッタリの力じゃないか。そう考えていたら、辺りの様子が変化していく。システィーナさんを見ると、システィーナさんも体が薄くなっていく。


「あら、もう時間ね。もう少し子孫と話がしたかったけど、仕方ないわね。最後にいくつか言っておくわ。ヴァンパイアの力の使い方は、あなたの頭の中に既にあるはずよ。そのうちの1つを使うかどうかはあなた次第。
 それと、魔族領にいる私の兄に会いなさい。あの人なら心剣を見せれば、助けてくれると思うから。
 それから最後に、死ぬ時は笑えるような死に方をしなさい。もう、後悔をしないように。私みたいにね」


 システィーナさんは、それだけを残して消えて言ってしまった。それと同時にこの世界も消えていく。僕の意識もそこで途絶えてしまった。


 ◇◇◇


「うぅっ……ここ、は……?」 


 目を覚ました僕は辺りを見回すと、どうやら砦の中のようだ。僕はこのまま残っているという事は、死んだからそのまま放置したって事かな。そして目の前を見ると


「……アル……ビル」


 アルとビルの死体が横たわっていた。僕は2人の側まで行き、2人の開いたままになっている目を閉じる。そうだ、あの力が使えるのか試してみよう。


 僕は2人から少し離れた胸元に手を置く。そして、魔力を流すとそれは右手に現れる。憤怒の炎心剣。よし、無事に発動出来たな。この剣は持っているだけで何と無く使い方がわかる。


 僕は刃先を2人の遺体に向ける。そして


「燃え上がれ」


 と呟くと、2人の遺体が燃え始める。今から埋葬している時間はない。奴らが来ないとも限らないし。だから、燃やすだけで許してほしい、2人とも。2人の仇は必ず取るから。


 僕は残った遺骨だけを持つ。何処か景色の良いところにでも蒔こうと思う。 


 エルフリート・シュバルツは死んだ。これから、ただのエルとして生きていく。奴らを殺してこそ、ようやく僕はエルフリートとして生きる事が出来るのだから。

「復讐の魔王」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く