復讐の魔王

やま

プロローグ 反乱

 勇者召喚がされて半年が経った。この半年間で、マコトたちはかなり強くなったらしい。らしいというのは、僕は今は王都にいなくて、ユフィーとの話で聞いたからだ。


 僕は現在魔族領との国境にある砦、メルッセ砦にいる。ここはグランディーク王国の西にある砦で、この国の最前線である。今は小康状態で落ち着いているが、いつ魔族たちが攻めて来てもおかしくないところだ。


 勇者たちが召喚されたから、1週間ほど経った時に、将軍より、この砦に行くように命令された。本当言うとあまり行きたくはなかった。ユフィーと離れちゃうからね。でも、国王陛下の命令を断るわけにはいかなかったので、この砦へとやって来た。


 ユフィーと離れ離れになったのに、話ができる理由は、魔水晶という魔道具を使ったからだ。これは2つで1つの魔道具で、対になる魔水晶を持つ相手と遠くにいても連絡を取る事が出来るかなり貴重なものだ。


 それを僕とユフィーは片方ずつ持っていて、2日に1回ほどだけど、話をしている。魔力が続けば、長い事話せるしね。


 その時に聞いたのだけど、マコトは、110年前のハヤテみたく、光魔法が使えるらしく、既に将軍と接戦出来るほど強くなっているという。


 他の勇者たちも光魔法こそはもったいなくても、近接戦闘に特化したリュウジ。


 斥候や素早い動きで敵を翻弄するケンタ。


 大きな盾を持ちみんなを守るタダシ。


 魔法師団長以上の魔力を持ち、火水土風の全ての魔法が使えるマユミ。


 弓を持たせれば百発百中でかなり遠い距離でも狙い撃つことが出来るカグヤ。


 大抵の怪我や呪いを治すことが出来るらしく、聖幼女と呼ばれているミミ。


 みんなが、みんな才能があって、そろそろ実践にも参加させようかという話も出ているらしい。


 彼らが戦えるようになると、僕の出番も少なくなるかな? そうなれば、ユフィーとも会う回数が増えるね、と言うと、魔水晶越しでもユフィーの顔が真っ赤になったのがわかった。


 砦から王都までかなり離れていて、ユフィーとはなかなか会う事が出来ない。でも、こんな風に話せる事が出来るから、僕は耐えられたのだけど……この話をしてから1週間ほどしたある日から、ユフィーとは連絡がつかなくなった。


 理由は全くわからない。前日までは話をする事が出来たのに、突然繋がらなくなったのだ。魔水晶が壊れたわけじゃない。これは片方が壊れれば、もう片方も壊れるようになっているからだ。


 それじゃあ、他の理由としてはユフィーに何かあったとしか考えられない。そうじゃないと、ユフィーが連絡しなくなる理由がわからないからだ。


 一体何が? と、不安になっていた頃、王都の方から馬で駆けてくる集団があると、物見から連絡が入った。


 僕も砦を登り、物見が言う方向を見てみると、確かに馬を走らせる集団がある。しかもよく見ると


「アル……それにビルもいる。一体どうして?」


 本当なら王都にいるはずのアルとビルが集団の先頭になって、走って来たのだ。僕は彼らを見た瞬間かなりの不安に駆られた。


 彼らを砦の中入れて、僕も会いに行くと、アルとビルがやってくる。よく見れば身体中傷だらけじゃないか。王都で一体何があったんだ? 他について来た兵士たちもだ。


「アル、ビル。どうしんたんだ一体。そんな傷まみれで、王都で何かあったのか?」


 僕がアルたちに尋ねると、アルは膝をついてそして


「……すまない、エル。守れなかった」


 と言う。


「な、何がだよ、アル。一体王都で何があった!?」


「王都ではな。デンベル公爵が反乱を起こした。デンベル公爵に加担した将軍たちや貴族たち、それに勇者たちのせいで、国王派のみんなはあっという間に殺されてしまった。国王陛下も王妃も……それにユフィーも」


 ……一体何を言っているんだ? 僕の耳には全く違う言葉が聞こえてくるみたいで理解が出来ない。


「親父やビルの父さんにエルの父親も頑張ったんだけど、勇者たちが強過ぎて太刀打ちできなかったんだ。それで親父たちも俺たちを逃がすのが限界で……もう……」


 そう言い涙を流すアル。ビルも悔しそうに手を握っている。血が流れるほど強く。


 堂々としていて、時には厳しかった父上。とても綺麗で優しかった母上。それから僕の愛した婚約者、ユフィーにももう会えないなんて。僕はあまりの事に気を失いそうになった。


 でも、周りは待ってくれなかった。


「大変です! 王都の方から軍が押し寄せて来ます!」


 物見から再び連絡が入る。それだけでわかったのだろう、アルたちは。


「あいつらもう来たのか! 俺たちが王都から逃げ出した時はまだ王都にいたのに!」


 そして、次の瞬間


 ドガァン!


 と、砦を揺らすほどの爆音が鳴り響く。あいつら、何もなしに魔法を放って来た!? そして、外から声が聞こえる。


「グランディーク王国軍よ! 今すぐ門を開けるか、中にいる反逆者、アルファード・クライスター、ビルモンド・ロイスター、そしてエルフリート・シュバルツを連れて来れば、お前たちの命は助けてやる!」


 この声が聞こえた瞬間、扉が躊躇いなく開かれた。僕もアルもビルも開いた口が塞がらなかった。周りの兵士たちを見ると、驚きの表情を浮かべている者もいるが、中にはニヤニヤと喜んでいる者もいた……そうか、既にこの砦は落ちていたのか。


 扉が開かれてなだれ込んで来た兵士たちに、僕たちも剣を構えて奮戦したが、数の暴力に勝つ事は出来ずに捕縛されてしまった。その上


「や、約束が違うじゃないか! 門を開けたら助けて……ぐぎゃあっ!」


「ここにいる兵士たちは、反逆者たちに加担した裏切り者だ! 全員殺せ!」


 他の兵士たちも殺し始めた。僕やアルたちがいくら叫ぼうともその暴虐は止まる事はなく、みんなが捕まり死に絶えるまで、止む事はなかった。


 そして、僕たちは勇者たちの元にひざまづいている。ここにいるのは男たち4人だけのようだ。目の前にはマコトたちが、ニヤニヤとした顔で僕たちを見下ろしている。だけど、僕は聞かずにはいられなかった。


「……どう……して?」


「んん? なんだって?」


「どうして……ユフィーを殺したんだ? 彼女は何もしていないだろ!」


 僕が怒りのままに問うと、マコトは、はぁ、とつまらなさそうにため息を吐きながら理由を教えてくれた。


「普通さ。召喚された勇者に王女が一目惚れするのがテンプレだろ? それなのにあの女ったらさ『私には婚約者がいますのでそんな話は受けられません』って言うんだぜ。全く、ふざけんなよ!」


「がはっ!」


「「エル!」」


 僕はマコトに何度も何度も蹴られて、地面に倒れこむ。


「だからさ、無理矢理手篭めにしてやろうと思ったんだけど、あの女、俺に襲われるぐらいなら死ぬって言って、隠し持っていたナイフで喉切って死んだんだぜ。あれはウケたな、なあ、ケンタ!」


「本当っすよ。あんな女いるんっすね」


「……おまえら……殺すっ!」


 俺はあまりの怒りに縛られている事なんて忘れていた。僕の頭の中にはこいつらを殺す事しかなかった。だけど、立ち上がりマコトに向かおうとした瞬間、僕は横に吹き飛ぶ。目眩がするけど、元いた場所を見て見ると、そこにはリュウジが立っていた。


「気を抜くなよマコト」


「ああ、悪かったよリュウジ。さて、それでは僕たちも目的を果たそうか」


 そう言ったマコトは僕の髪を掴んで無理矢理引きずる。そして、僕の目の前にアルとビルを並べる。


「実はさ、俺たちって、この世界には無いみたいだけど、ステータスってのがあって、経験値を集めるほど強くなれるんだよ。訓練とかでも上がるんだけど、それは微々たるものでさ。でもRPGとかみたいに魔物を倒すと結構貰えて、ある程度成長する事が出来たんだよ」


 マコトは嬉しそうにそんな事を話すが、僕には意味がわからなかった。


「そこで俺たちはある実験をしたんだ。人を殺したら経験値が貰えるのかなって。そこで、王宮にいる侍女をみんなで強姦してから殺したら、なんと、経験値が貰える事がわかってさ! それはもうテンションが上がったよね!」


 僕がおかしいのか? なんでそんな非道な事をこいつらは笑って話せるんだよ。


「その事をデンベル公爵に話したら、奴隷とかを用意してくれて、片っ端から殺してレベリングしたんだよ。その見返りが今回な反乱なんだけどね。まあ、特に損はないから引き受けたんだけどね。さあ、ここまで言えばわかるかな?」


 マコトは、他の兵士に僕を預けてから、アルたちの元へ行く。そして、4人それぞれが剣を持ち、アルの後ろへと立つ。……ま、まさか


「や、やめろぉぉぉ!!!」


 僕が叫ぶのと同時に4人は手に持った剣を同時にアルへと振り下ろした。アルの体を突き抜ける4本の剣。僕がいくら暴れて助けに行こうとも、兵士に取り押さえられて動けない。


 くそくそくそくそくそくそっ! どうして僕はこんなに弱いんだ! みんなを守りたいと思って修行して、鍛えたのに。こんな時では全くの無力だ。


「俺に、経験値、入った」


「くわぁ〜、タダシ先輩に取られたっすかぁ〜」


「残念だったね。まあ、次があるじゃないか」


「くそっ! 放せ! お前たち! アルやビルも一緒に戦った仲間じゃないか! どうして見てられるんだ!」


 僕は、僕を押さえつける兵士に怒鳴るが、兵士たちは何も言わない。そして目の前で


「せ〜のっ!」


 ビルの体を剣が貫く。僕はそれを止める事も出来ずに見ている事しか出来なかった。


「今度は俺だな」


「なんだ、今度はリュウジか。まあ、こればかりは仕方ないか。それじゃあ最後にっと」


 マコトたちが楽しそうに話している中、僕は俯く事しか出来なかった。目からは止めどなく涙が溢れてくる。


 マコトは僕の髪を掴み無理矢理顔を上げさせる。


「ねぇ、今どんな気持ち? 目の前で親友が殺されるのを、何も出来ずに見ているって、どんな気持ち? ねぇ、ねぇ、教えてくれよ!」


「……殺す、絶対にお前らを殺す! 勇者たちも、裏切った貴族たちも、見ている兵士たちも! 全員ぶっ殺してやる!」


 僕は怒りのままに叫ぶ。口の中が切れて血反吐を吐こうとも、止む事は無い。


「あ〜、うるさいうるさい。とっとと死ねよ!」


 そして、マコトの剣が僕の体へと刺さる。何回も何回も。僕は血を流し、体が冷たくなっていくのがわかった。そして自分の地の中へと倒れ込む。


「ああっ! マコト先輩、ダメじゃ無いですか! 1人で殺したら!」


「ごめんごめん。あまりにも苛立ってさ。そう言えばケンタだけ経験値入ってないのか」


「そうっすよ!」


「悪かったよ。なら、僕のコレクションから1人女を連れて行っていいからさ!」


「約束っすよ!?」


 勇者たちの楽しそうに話をしている姿を見ると、怒りに体が燃えそうになる。なんでこんな奴らが生きて、ユフィーたちが死ななくちゃならないんだよ!


 憎い。勇者たちが憎い。反乱を起こしたデンベルが憎い。それに加担した貴族も憎い。参加した兵士たちも憎い。見て見ぬ振りをした国民も憎い。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ。


 全てが憎い


 だけど、僕の体はもう動かない。僕は意識が薄くなる中、憎しみだけが渦巻いていた。

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