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世間知らずの魔女 〜私、やり過ぎましたか?〜

やま

21.来ちゃった

「……辺境伯はどこへ行った!?」


 私の怒鳴り声とともに机を叩く音が部屋の中に響く。部屋の中にいるのは、私が連れて来たラルフ他部下たちと、辺境伯の配下の内、位の低いものだけだった。


「リカルド王子、今辺境伯領に残っている兵士は1千にも満たしません。そして、砦の方にはヘパストス軍に加えて、砦は突破され、砦にいた兵士は降伏。それに合わせて辺境伯軍2千ほどがヘパストス軍に加わり、2万を超える軍がこちらを目指しています」


 私はもう頭を抱えることも出来なかった。まさか、辺境伯が裏切るとは。いや、今までの事を考えれば、予想は出来ただろう。


 王都に手紙を送ったのは2日前。王都から援軍が来るのは早くても2週間はかかるだろう。それまで限られた兵士でヘパストス軍を抑えなければいけないが、それにも限度がある。こちらは周りの貴族から急いで集めても5千にも届かない。一体どう耐えれば……


「……お兄様、悩んでいますねぇ」


「そうですね。何か手伝える事があったら良いのですが」


 ……駄目だ。悩み過ぎてシルエット殿とシリカの幻聴まで聞こえて来るなんて。少し休憩しようと思い立ち上がり窓際に行くと


「あっ、バレちゃいましたね」


「ええ、手でも振っておきますか」


 私と視線がぶつかる2人の女性。そして何を思ってか私に向かって手を振って来た。さっきは頭を抱える気にもならなかったけど、この2人を見たらつい頭を抱えてしまった。


 あの2人はどうやってここに……ってそうか、2人は空間魔術を使えるからここまで転移して来たのか。


「……少し外に出て来る」


 私はそれだけ言って部屋を出るが、誰も止める者はいなかった。戦争の事で悩んでいると思っているのだろう。それも間違いではないが、今はそれよりも


「あっ、お兄様、会議を抜け出しても良かったのですか?」


「そうですよ、リカルド様。仕事はしっかりとこなさないと」


 ……自分の事は棚に上げて何を言っているんだか、全く。だけど、こんな時だけど、シルエット殿の顔見られて良かった。悩んでいた心も少し落ち着いた。


「直ぐに戻るから大丈夫だよ。それよりもどうして2人がここにいる? シルエット殿も父上に止められていたはずだろう」


「ふふっ、勿論陛下の許可は頂いていますよ。頑張って説得しましたから……来ちゃった」


 うふふ、と笑うシルエット殿。とても可愛らしくて、父上にはどんな説得をしたのか気にはなるが、聞いたらダメな気がする。それに、今はそれどころではないしな。


「そうか。しかし、これからここは戦場になる。2人は直ぐに王都に戻るのだ」


「……何かあったのですが、お兄様?」


 心配そうに尋ねて来るシリカ。私はシリカとシルエット殿を交互に見比べる。シリカは王女であり、シルエット殿は宮廷魔術師だ。別に話しても構わないだろう。


 私は2人を会議室へと案内する。突然入って来た2人に皆は驚きの表情を浮かべるが、私が来てから今日に至るまでの出来事を話していく。


 ここにいる者の殆どがまだシルエット殿の事を知らないため、訝しげに見ているけど、私は気にする事なく話して行く。


 シリカは現状に驚きの表情を浮かべるが、シルエット殿は表情を変える事なく淡々と話を聞いていた。


「これが、今のヘパストス王国との現状だ。砦を取られて、奴らの侵入を防ぐ手立てがない。それに既に侵入しているヘパストス軍に合わせて、裏切った辺境伯軍をどうにかせねばいけないのだ。
 こういう事情もあって2人には直ぐに王都に戻ってもらいたいのだ。シルエット殿の転移魔術があれば直ぐに父上の耳にも入る。直ぐに動いてくれるだろう」


「なるほどですね。ふむ……それなら私が時間を稼ぎましょう」


 私が今の辺境伯領の現状について話すと、シルエット殿はそんな事を言う。そして、近くにいる兵士から地図を持って来るようにお願いする。


 兵士は戸惑いながらも、この屋敷と砦までの周辺地図が書かれているものを持って来た。そしてその地図を机の上に広げて見るシルエット殿。


 周りの私たちはただ黙って考え事をするシルエット殿に釘付けだった。


「この範囲であれば、私だけでも充分時間を稼ぐ事が出来ますね。早速行きますか?」


 自信満々にそう言い放つシルエット殿。シルエット殿の事を知らない辺境伯にいた者たちは、シルエット殿を睨みつけるように警戒しているが、シルエット殿のの実力を知っている騎士たちや、何度も目撃している私としてとても心強い言葉だった。


 それから、1時間後に準備をして、陣を建てているヘパストス軍の前に来る。シルエット殿は右から左へと眺めてから


「もう、あそこに味方はいませんよね?」


 と、尋ねて来た。砦の近くの村の住民などは既に避難し終えている。砦付近で野営場所を作っている奴らは皆ヘパストス軍か寝返った辺境伯軍だ。その事を伝えると


「なるほど、それならば心置きなく使えますね。それでは少し離れていてくださいね。風豪零土」


 シルエット殿が地面に手をつき魔術を発動させる。地面の流れに乗って、ヘパストス軍たちの元で発動される。


 普通に見る限りでは何も起きていないのだが、砦の周りと砦の上だけ気温が下がり雪が降って来る。ヘパストス軍たちは体を寄せ合い体を温めていた。確かにこの方法なら時間稼ぎになるだろう。


「それから、あの軍を囲むために土の壁を作って、砦と引っ付けます。大きな壁に囲まれては何も出来ないでしょう」


 シルエット殿の言う通り、砦の出入り口をそれぞれ大きな土の壁が出来て通れないようにしていた。あっという間に大きな壁が出来て囲まれたヘパストス軍。


 その光景を見ていた他の者たちは唖然と口を開けているしか出来なかったのだった。

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