世間知らずの魔女 〜私、やり過ぎましたか?〜

やま

17.圧倒

「それで、これより魔術師ペテロとシルエットの魔法戦を始める。お互いどの魔法を使っても良いが、殺すのは無しだ。もし殺してしまったら、国の法に則って処罰する。両者とも自らの名を辱める事の無いように。では、始め!」


 国王陛下の声で私とペテロとの試合が始まります。そういえばそんな名前でしたね。すっかりと忘れていましたよ。


「ははっ、まずは様子見だ! アクアショット!」


 ペテロがそう言って杖を振ると、ペテロの周りに水の球が現れ私に向かって飛んで来ます。本当に様子見ですねぇ。そんなんじゃあ……


「なっ!? 私の魔法が途中で消えただと?」


 あぁ、やはりそうなってしまいましたか。残念な事ですが、こればかりは仕方がありません。彼が放つ魔術より、私が無意識に垂れ流してしまっている魔力の量の方が多くて、壁となって魔法を消してしまっているのですから。


 しかし、私もまだまだですね。魔力を垂れ流しているという事は、まだ魔力のコントロールが上手くいっていないという事ですから。まだまだ精進が足りませんね。


「ちっ、これならどうだ! アクアカッター!」


 アクアショットを何発も放っていたペテロですが、全く私に当たらない事に苛立って来たのか別の魔術に変えて来ました。


 確かにアクアカッターなら私に届くでしょう。しかし、届くだけです。私は目の前に迫るアクアカッターを手で払います。私の魔力で大分威力が小さくなっていた水の刃は私の手に触れただけで霧散してしまいました。


 何度何度も放って来ますが、ぺちんぺちん。私を傷つける事は叶いません。


「な、何を遊んでいるペテロ! ふざけているのか!」


 私に攻撃が当たらない事に王子様は怒っています。その怒鳴り声を聞いたペテロは焦った表情を浮かべますが、逆に慢心が消えました。ようやくスタートラインに立ってくれたというところですか。


 これでようやく心置き無く叩き潰す事が出来ます。手を抜いてやられたなんて後から言われて難癖をつけられても敵いませんからね。


「ちっ、舐めていた事は謝ろう。ここからは本気で行くぞ! アクアランス! アクアウィップ!」


 おっ、魔術の同時発動ですか。ペテロが両手に発動した水の鞭を自由自在に振り回して攻撃して来ます。私が鞭を避けると、そこに合わせたかのように水の槍が飛んで来ます。


「ちっ、ちょこまかと!」


 ペテロは更に水の槍の数を増やして来ました。さすがこの国の1番に選ばれるだけはあります。しかし、それでもまだ足りません。この数ならまだまだ余裕を持って避けられます。


「なっ!? こ、これでも当てる事が出来ないのか! くそっ、これならどうだ! 私の最強の技だ! ハイドロウェーブ!」


 ペテロが魔術を発動すると、ペテロがいる場所以外全てを覆い尽くすほどの大津波が現れます。おおっ、これは中々です。周りの観戦している貴族の皆様も流石にこれには大慌て。魔術師たちが総出で障壁を張っているとはいえ不安ですよね。


 そんな中でも堂々と座っている国王陛下とリカルド様。流石です。国王陛下は自身の役割を全うし、リカルド様は私が勝つと信じて下さっています。


 ふふっ、なんだかこそばゆいですね。今まで1人でいた時は信頼なんてされる事は無かったのに。されなくてもどうも無かったのに、いざされると嬉しいなんて。そして、それに答えたくなります。


「ボルテックスエンチャント発動」


 私は自身の体に目に見えるほどの蒼紫色の雷を纏わせます。これをすると髪の毛がぶわぁっとなるのですが、今は良いです。


 私は迫る大津波を迎え撃つように構えます。さて、真正面から突破させていただきましょうか。腰を低く構えて、右足を後ろへ、右手も手刀に変えて。力はなるべく抑えて。本気を出すとこの会場が壊れてしまいますからね。


「雷轟天撃」


 私は構えた右手の手刀を大津波に向かって振り下ろします。バチッ、と空間を焼くような音がすると次の瞬間、大津波は左右に大きく割れました。


 それと同時に地面には焦げた跡、壁際は大きな音と共に崩れていきます。おや、少し強過ぎましたか? 私の大津波の中心を割ったため、雷が触れた場所は蒸発、他の水は力無く沈んでいきました。


 雷が触れた箇所は例外なく燃えています。特に壁際が酷いですね。これはすぐに消さなければ。私はいくつものアクアショットを発動し、全てを1つに纏めます。特大のアクアショットを燃える壁にぶつかると、じゅわっと水蒸気が起こります。


 ふぅ、これで大丈夫でしょう。さて、勝負の続きをと思いペテロの方を見ると、ペテロは先ほどまで立っていた場所で膝をついて頭を下げていました。どうされたのでしょうか? 


「ペテロよ、良いのだな?」


「……はい、国王陛下。私では彼女の足元にも及びませぬ。私の負けです」


 どうやら、棄権をしていたようです。その姿を見て第1王子は更に怒鳴っていますが、誰もペテロを責める事はしません。まあ、そうしないように私も圧勝するように戦ったのですが。少しやり過ぎている部分もありますが。


「ふむ。皆の者! 今のペテロの言葉の通り今回の勝負はシルエットの勝利とする! 何か異論のある者は前に出よ!」


 国王陛下の言葉に異議を唱える方は1人もいませんでした。第1王子も黙ってしまいましたし。ふぅ、取り敢えずはこれで終わりですかね。

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