世間知らずの魔女 〜私、やり過ぎましたか?〜

やま

2.一目惚れ

 私の名前はリカルド・デストライト。私が住む国、デストライト王国の第2王子である。


 早速ではあるが……一目惚れをした。


 その理由を話すにはまずはそれまでの過程を話さなければならない。


 私はとある森へとやって来ていた。デストライト王国の中にある誰もが避ける森、別名『魔女の森』と呼ばれているところだ。


 ここは昔から開拓地として選ばれていた。豊かな天然資源が豊富に眠ると考えられているからだ。そのため、歴代の王は、この森を開拓しようと何度も開拓軍を派遣したのだが、今まで1度も成功した事はない。


 その理由は、この森に生息する魔獣たちの襲撃のせいだ。この森は天然資源が豊富な分、魔獣たちが住みやすい環境でもある。


 小型級の魔獣が森に住み、その小型級の魔獣を狙って中型、大型たちが住んでいる。森の奥地に行けば、伝説の超型も住むとも言われている土地だ。


 そのため、我々人間が開拓しようとすれば、魔獣たちは集団で襲ってくる。自分たちの住処を守るため。


 その結果、今まで派遣した開拓軍は全滅、国もこの森に触れるのは及び腰になってしまっているのだ。


 それなのに、私がこの森へと来た理由。それは、とある薬を探しにやって来たのだ。私には1人の兄と1人の妹がいるが、兄とは母親が違う。


 私の兄は父上の第2夫人であるメーテル・デストライト夫人になり、私と妹は第1夫人であるナルシア・デストライトの子供として生まれて来た。


 しかし、私が5歳、妹がまだ1歳の時に母上はこの世から去ってしまった。理由は病死だが、私はそうではないと考えている。ただそれが言えるだけの証拠が無いため言えずにいるのだが。それからは妹と助け合って生きて来た。


 だが、その妹も先日から、体の調子が良く無い。寝込む事が増えていき、歩けなくなるほど衰弱していったのだ。


 医者でもわからない病らしい。私はその医者を殴り飛ばしそうになったが、妹の前なので我慢した。


 それから王宮にある図書館などで調べていると、魔女の森にはどんな病にでも効いて回復させる花があると書いてある本があった。


 私にはもうこれしか無いと思った。それから父上にだけわけを話して、信頼できる部下を連れて魔女の森へとやって来た。


 初めの方は順調に探索を行なっていたのだが、父上だけにしか話していないのに、どこから漏れたのかわからぬが、私の命を狙う刺客が森の中で現れた。


 当然、対抗する私たちだが、5人しかいなかった我々に対して、刺客たちは20人近く、数の差に私の信頼出来る部下たちは皆殺されてしまった。


 私は何人か返り討ちにした後森の中へと逃げた。部下たちが命を張って時間を稼いでくれたおかげだ。しかし、それでも後を追ってくる刺客たち。


 これは不味いと思った時、運が良いのか悪いのかはわからないが、魔獣たちが私たちを襲い始めたのだ。刺客たちはその対処に追われ、私を見失ってくれた。私はその隙に何とか刺客を撒く事が出来た。


 しかし、その代償として魔力は尽きて、体中は怪我だらけ。このままではこの森の中で死んでしまうだろう。それでも、妹のためにどのような病でも治す花を見つけなければならない。


 その思いだけで私は森の中を彷徨った。当てなどはなかった。ただ進むままに進んだだけ。


 森の中を歩いてどのくらい経っただろうか。目が霞む中、それでも止まらないと思った私はただ真っ直ぐ進んだ。


 しかし、体はもう限界へと達していた。私はその場に倒れこむ。もう体は動かない。このままここで死んで、魔獣たちの餌になるのか。


 殆ど意識のない中、そのまま目を瞑りかけたその時、私の体を誰かがつつく。私は顔を上げるとそこには、月明かりに照らされる白髪の綺麗な女性が、私の顔を覗き込んでいた。それを見た私は心の底から


「……女神だ」


 と、感じてしまった。しかし、私の記憶はそこで途切れてしまった。もう少し見たかったのだが……。


 ◇◇◇


 その女神は、死に際の見間違いではなかった。私を助けてくれて、看病をしてくれる女性になりかけの少女、シルエット殿。年齢は16歳らしい。私の3つ下だな。


 身長は160ほどで、何色にも染まっていない肩まである白髪に透き通るような青い目。胸は殆どないが、すらっとした体。痩せ細っているのではなく、必要な筋肉しかつけていないしなやかな体。とても綺麗な女性だ。


 見た目だけではなく、魔術の才能も豊かだ。私の怪我を治した治癒の魔術に風の魔術、他にも色々と使えるようだが、どれも我が国が誇る魔術師たちの上をいく。筆頭魔術師ですら敵わないだろう。それほどの才能を持っている。


 その上、大型級の魔獣ですら圧倒する力。私は彼女から現れた話を聞いた時は、既に死を覚悟していたというのに、彼女は全く表情を変えずに家を出て行った。まるで散歩に行くかのように。


 大型級は数百という犠牲でようやく倒せる魔獣だ。それをいとも簡単に倒してしまうとは。


 それほどの才能を持っているシルエット殿。彼女ならもしかしたら花がなくても妹を助ける事が出来るかもしれない。


 だが、それ以上に私は彼女から目を離す事が出来なかった。命を助けられた事もあってだろうが、私自身、彼女に心から惚れてしまったのだから。

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