王国最強の元暗殺者

やま

26.村での奇襲

「……こんな疲れる尾行は初めてだ」


 メリィの話を聞いて手伝う事になってから今日で3日目。メリィと話し合った結果、俺はメリィたちの後を隠れてついていく事になったため、その通り後をつけていたのだが……これがもう見ているだけで疲れるものだった。


 冒険者とすれ違えば食料を要求し、商人とすれ違えば品物を要求して、女性とすれ違えば体を要求して、町へとやって来れば、宿屋も食事もタダにしろと喚き、メリィが間に入らなければ、喧嘩がいつ起きてもおかしくないほどだった。


 メリィが間に入って謝らなければ、公爵家の名前を出していたか、レイルが遠慮無しに切っていたか、どちらにせよ関わっただけでその人は死んでいただろう。


 そんな、腹立つ光景を何度も見させられながらも辿り着いた場所が、以前は村だった場所だ。今は人1人としていない。


 家屋は無事な家屋もあれば崩れているところ、燃えた跡が残っている箇所など様々だ。ただ確実なのが争った跡だという事だ。


 レイルたちは村に入ると2人ずつの3つに分かれて村の中を調べ始めた。メリィはその中で獣人の少女と見て回るようだ。


 俺も気が付かれないように村に入って調べる。レイルたちが目的ではあるが、この騒動にも少し興味がある。


 平穏な村に突然現れたゾンビの群れ。ゾンビは自然でもそんな大量には出ない。理由は色々とあるが、まず死体を放置する事自体少ないからだ。


 人間がモンスターに殺されたり、事故にあって死んだり、毒を食べたりなど死に方は様々だが、そうなった場合、必ずと言って良いほどモンスターに食われる。そのため、ゾンビとして復活する前に食べ尽くされる事が多いため、自然界でゾンビが発生する事が少ないのだ。


 勿論絶対とは言えない。偶々見つからなかった死体がゾンビになる事もある。だが、村を襲う事が出来るほどのゾンビが自然に発生する事はほぼ考えられない。


 この事を依頼した人物も俺と同じ発想に至ったのだろう。ゾンビを裏で作っている黒幕がいると。だから、実力は一応あるレイルのパーティーに調査を依頼したのだろう。


 しばらく村の中を調べていると、レイルの声が村中に木霊する。パーティーメンバーが集まる中、俺もこっそりと後に続く。


 レイルの元へと行くと、レイルは血塗れの女性を抱きかかえていた。そして、獣人の少女からポーションを貰おうとしているが……誰がどう見ても罠じゃないか。


 このパーティーの中でそれに気が付いたのはメリィだけ。メリィは咄嗟にレイルを押し飛ばすと同時に、先ほどまで動かなかった血塗れの女性は、瞼が開き、大きく口を開けてメリィへと噛み付いた。


 メリィは左腕を深く噛み付かれて、ゾンビの女を何とか引き剥がそうとするが、痛みのせいか力が入っていない。レイルたちも引き剥がそうとした瞬間、地面から飛び出す腕。ゾンビたちが潜っていたようだ。


 レイルはすぐに反応をして剣を抜き、伸びてくる腕を切る。そして、そのままメリィへと噛み付く女の首を切り落とす。他のメンバーも大丈夫なようで互いに支え合っていた。


 メリィはレイルにポーションをかけられるが、左腕を半ばまで食い千切られているため、治りが遅い。それに、激痛のせいか歩くのもままならない。


 その間に気が付けば数十体とゾンビに囲まれていたレイルたち。逃げるにはレイルが先陣を切るべきなのだろうが、レイルはメリィに一言二言かわして、走り出す。その後に続くメリィ以外のメンバー……あいつら簡単にメリィを見捨てやがった。


 確かに怪我人のメリィは今回はもう戦えないだろう。少しは足を引っ張るかもしれない。たが、レイルほどの実力があれば、メリィがいたとしてもイレギュラーが起きない限りは突破出来たはずだ。


 それを簡単に見捨てるなんて。それほど自分が大切なのだろうな。メリィは血が止まらない傷口を押さえながらも、杖を構える。


 このまま見捨てるわけにはいかないな。俺は腰から投擲ナイフを3本抜き、メリィの1番近くにいるゾンビへと投げる。


 シュッ! と飛んで行ったナイフはゾンビの額に刺さり、背中から倒れる。同時に氣道を発動し、メリィの元へ飛ぶ。腰からクロスリッパー抜き、額へと突き刺す。


 そのまま力が抜けて膝をつくゾンビを、後ろにいるゾンビたちを巻き込むように蹴り飛ばし、メリィを庇うように立つ。


 彼女を引っ張ってゾンビの群れを抜けようと思ったが、左腕を大怪我している彼女だ。ただでさえ顔色が悪いのに、無理させるわけにはいかない。


 どうこの群れから抜けようかと考えていると、どこからか投げられる丸い球。丸い球からは縄が出ており、先端には火が付いていた。そして、縄が燃えていき、球に火がつくと、一気にあたりを白く包む。古典的ではあるが煙玉か。そして


「こっちだ、あんたら!」


 と、呼ぶ声がする。チャンスはここしかないと思った瞬間、痛く感じないほどの強さで、メリィの右腕を掴んで走り出す。左腕の痛みは少し我慢してほしい。


 レイルたちがどうなったか少し気にはなるが、今はそれよりも彼女を助ける事が先決だ。煙玉から出る煙から抜け出し、声のした方へと走ると、そこには2人の小柄な人物がいた。顔は隠しているためわからないが、見た目からして俺と同い年か、少し下ぐらいか。


「もしかして、あんたらが俺たちの依頼を受けてくれた奴らか?」


 そう言いながら顔に巻く布を解いたのは、茶髪の男で、もう1人は金髪の女だった。さっきの言葉からして、この村の住人だろう。何か話を聞けるかもしれないが……それよりも先にメリィの治療が先だな。


◇◇◇


「ふむ、これは良い材料になりそうですな」


「ぐ、ぐぞっ! は、離せ!」


「ふふ、離すわけがないでしょう。あなたは他のゾンビたちとは違うゾンビになりそうですからね」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品