王国最強の元暗殺者
8.受注
「お前は師団を抜けると言うのか、ヘルよ?」
「はい、国王陛下」
俺はどっしりと玉座に座る国王陛下に向けて頭を下げる。このアルフレイド王国の国王、ネルフェス・アルフレイド。年は40ほどの金髪の男性。
見た目は周りの俺を射殺すような目で見て来る奴らに比べたらかなり細いが、その体から放たれる威圧感は周りの奴らにも勝るとも劣らない。
「ヘル。考え直しませんか? あなたはこの国でも重要な存在です。あなたの力が必要なのですよ」
国王陛下の近くで困ったように眉を寄せる銀髪の女性。彼女には俺が師団長になる前からかなりお世話になったが、俺は首を横に振る。俺の考えは何を言われようとも変わらない。
「申し訳ございません、第1師団長。もう決めた事なのです」
「……そうですか」
俺の言葉に悲しげに顔を俯く第1師団長。申し訳ない気持ちで一杯だが、この考えだけは変えられない。あいつとの約束でもあるから。
そう考えていたら、左側から殺気が迫る。俺はその場から反対側に飛び退くと、俺がいた場所の床が割れた。やっぱりお前か。
「ああっ! もうまどろこっしいのは止めにしようぜ、王様! ヘルは国を裏切るんだろ? 裏切り者は殺す! 簡単じゃねえか!」
「止めなさい、デイガス! 国王陛下の前で武器を抜くなんて!」
俺に攻撃を仕掛けて来た男、第9師団団長、デイガス・アルバンスは両手に漆黒の籠手を付けて構えて来た。
「獣人は喧嘩っ早いって聞くが、お前はその中でも沸点が低いな」
「あんっ!? 何だと、このクソエルフが!」
そんなデイガスを見て嘲笑する第6師団長。この様な師団長のみの謁見だと、この光景は日常茶飯事のため、他の師団長たちは気にも留めない。彼らは見学に徹するようだ。その光景を見ている国王陛下は溜息を吐きながら立ち上がる。
「なら、デイガス。殺しまでは許さんがヘルを止めてみろ。ヘルよ。デイガスに止められるようならば師団長は辞めさせん。わかったな?」
「へっ、やっぱり王様は話がわかるぜ。行くぞヘル。ぶっ殺してやる!」
……お前は国王陛下の話の何を聞いてたんだよ。殺すなって言われてるだろうが。ったく。だが、まあ良い。変な条件をつけられるよりかは断然マシだ。俺も腰にあるクロスリッパーを抜き構える。
「悪いが倒させてもらう」
「ぶっ殺してやる!」
◇◇◇
「……懐かしい夢だな」
寝ぼけまなこで見慣れない天井を見ながら1人で呟く。こんな懐かしい夢を見る事になるなんて。やっぱり依頼を受けたせいか。
体を起こしてベッドに座り込んでぼーっとしていると、扉をノックする音が聞こえて来る。気配で誰かわかったので返事をすると、扉を開けて入って来たのはメルルだった。
メルルはにこにこと、尻尾は嬉しそうにぶんぶんと振りながら部屋の中へと入って来た。既に準備は出来ているようだ。
「今日もお願いします、師匠!」
「……何度も言うが師匠は止めろ。ほんの少し基本を教えているだけだろ?」
「それでも、私からしたら師匠は師匠です!」
にこにこぴこぴことするメルル。これ以上言っても変わらないな、これは。俺は軽く溜息を吐きながら立ち上がる。俺も準備をするか。
「メルル、先に行って体操をしていてくれ。俺は準備をしてから行く」
「わかりました!」
笑顔のまま走って部屋を出て行くメルル。何がそんなに嬉しいのだか。はぁ、どうしてこんな事になったんだっけな。
◇◇◇
「とある街まで護衛だと?」
「はい。それならメルルも別れる事なく一緒にタスクさんといられるでしょう?」
「さ、流石です、お母様!」
2人は何が嬉しいのかわからないがにこにこして耳をぴこぴこさせて微笑み合う。その光景は良いのだが
「待て待て待て。何を勝手に話を進めている。俺はそんなものを受けるつもりはない。それ以前に俺はFランクだぞ? そんな奴な護衛の依頼なんて受けられると思っているのか?」
「勿論、普通では無理でしょうけど、同伴という形ではいけると思います」
「同伴?」
「はい。まず、私たちが向かいたい街は以前から考えていてたのですけども、この街から馬車で3日ほど進んだところにある第9都市アニムルスに行きたいのです」
……成る程な。確かに獣人である彼女たちには今の状況ならとても行きたい場所だろう。
第9都市アニムルス。アルフレイド十二師団の1人、第9師団長で白狼の獣人であるデイガス・アルバンスが治る街。
この第9都市に限らず、他にも各師団長が治める街がある。アルフレイド王国の中心にある王都と他国との国境の中間の位置にあり、王都を円で囲うように作られた10の街が。
十二師団なのに何故10かというと第1師団長は王都で国王陛下の側に常にいなければならないため、治める街を持っていなくて、第2師団長は軍の大将軍も兼ねて王都にいるため、第1師団長と同じ様に無いのだ。
ただ、師団長は実力だけで選ばれた集団だ。中には政治に関しても有能な人もいたが、殆どが土地運営など知らない。中には読み書きも出来ない奴もいる。俺は昔に教わったから知っているが。
そのため、名前だけ使わせている様なもので、実質は国王陛下より任命された貴族が日々の運営を行っている。
その中で、今回メルシアさんが行きたいと行っている第9都市は他の都市に比べて獣人が多いので有名な都市だ。理由は簡単に師団長である獣人、デイガスが多種族に比べて獣人を優遇しているからだ。
あまり酷い差別はないが、他の街に比べたらデイガスが治める第9都市がかなり住みやすいはずだ。獣人の2人が行きたがるのもわかる。
「だけど、俺がついて行く必要はない。捕まっていた中には獣人もいる。そいつらと冒険者たちと一緒に行けば良いだろう?」
「……どうしてもダメですか?」
俺がそう言うと、メルルの耳はしゅんと垂れてしまい、悲しそうな表情をする。隣のメルシアさんも似た様な雰囲気だ。そんな表情されたら心が痛むが……。そんな2人を見ていたら
「良いじゃねえか、タスク。一緒に行ってやれ……ば……」
後ろから肩を組んでくるおっさん、グスタフがそんな事を言ってくる。しばきたい感情を抑えてグスタフに文句を言おうと思ったら、グスタフはメルシアさんを見ると固まってしまった。一体どうしたんだ?
訳もわからずグスタフを見ていたら、グスタフはしばらくじーっとメルシアさんの事を見てから、俺の腕を引っ張りやがる。何すんだよ。
グスタフはメルシアさんたちの席から少し離れた端の方で俺に肩を組んで内緒話をする様に耳元に顔を寄せてくる。厳つい顔を寄せてくるんじゃねえよ。
「おおおお、おいっ、あの綺麗なお方は誰だ!?」
「……メルシアさんの事かよ?」
「めめめ、メルシアさんって言うのか!? とても良いお名前だ! それで誰なんだ!?」
こ、こいつ、綺麗なメルシアさんに一目惚れしやがったな。そんながっつくなよ。引かれるぞ?
「……あの2人は親子で子爵のところの奴隷になっていたんだよ」
「あの人が、突然姿を見せなくなった母親か。話だけは知っていたんだが、初めて見る」
そしてグスタフはメルシアさんのところに行って何か色々と話し始めた。俺は物凄く嫌な予感がしたので、直ぐに向かうと
「まあ、それは本当ですか!?」
「ええ、私のパーティーにタスクも入れて、第9都市までの護衛を引き受けますよ。他にも同じところへ行きたいと言う者もいますからね」
こ、こいつ! 勝手に決めやがった! しかも、俺が反論する前にグスタフはフューリさんの元へと向かい、依頼を受注しやがった。俺の事まで話して。フューリさんは顔を輝かせてひょいひょいと手招く。
俺の心を表しているかの様にトボトボと歩いて向かうと、嬉しそうに笑うフューリさんと、すでに妄想に浸かっているグスタフが。
「ついに薬草採取以外の依頼を受ける事にしたんですね、タスクさん」
「い、いや、今回のはグスタフが勝手にやって」
「ですが、良い経験になると思いますよ? グスタフさんは何度も護衛の依頼を受けています。これからの為には良い勉強になると思います!」
……ぐっ、フューリさんは本当に俺の事を思って言ってくれているから物凄く断れない。
……仕方ない。丁度この街は出るつもりだったんだ。1人で走った方が断然速いが、こういうのも冒険者の醍醐味か。はぁ〜。
「はい、国王陛下」
俺はどっしりと玉座に座る国王陛下に向けて頭を下げる。このアルフレイド王国の国王、ネルフェス・アルフレイド。年は40ほどの金髪の男性。
見た目は周りの俺を射殺すような目で見て来る奴らに比べたらかなり細いが、その体から放たれる威圧感は周りの奴らにも勝るとも劣らない。
「ヘル。考え直しませんか? あなたはこの国でも重要な存在です。あなたの力が必要なのですよ」
国王陛下の近くで困ったように眉を寄せる銀髪の女性。彼女には俺が師団長になる前からかなりお世話になったが、俺は首を横に振る。俺の考えは何を言われようとも変わらない。
「申し訳ございません、第1師団長。もう決めた事なのです」
「……そうですか」
俺の言葉に悲しげに顔を俯く第1師団長。申し訳ない気持ちで一杯だが、この考えだけは変えられない。あいつとの約束でもあるから。
そう考えていたら、左側から殺気が迫る。俺はその場から反対側に飛び退くと、俺がいた場所の床が割れた。やっぱりお前か。
「ああっ! もうまどろこっしいのは止めにしようぜ、王様! ヘルは国を裏切るんだろ? 裏切り者は殺す! 簡単じゃねえか!」
「止めなさい、デイガス! 国王陛下の前で武器を抜くなんて!」
俺に攻撃を仕掛けて来た男、第9師団団長、デイガス・アルバンスは両手に漆黒の籠手を付けて構えて来た。
「獣人は喧嘩っ早いって聞くが、お前はその中でも沸点が低いな」
「あんっ!? 何だと、このクソエルフが!」
そんなデイガスを見て嘲笑する第6師団長。この様な師団長のみの謁見だと、この光景は日常茶飯事のため、他の師団長たちは気にも留めない。彼らは見学に徹するようだ。その光景を見ている国王陛下は溜息を吐きながら立ち上がる。
「なら、デイガス。殺しまでは許さんがヘルを止めてみろ。ヘルよ。デイガスに止められるようならば師団長は辞めさせん。わかったな?」
「へっ、やっぱり王様は話がわかるぜ。行くぞヘル。ぶっ殺してやる!」
……お前は国王陛下の話の何を聞いてたんだよ。殺すなって言われてるだろうが。ったく。だが、まあ良い。変な条件をつけられるよりかは断然マシだ。俺も腰にあるクロスリッパーを抜き構える。
「悪いが倒させてもらう」
「ぶっ殺してやる!」
◇◇◇
「……懐かしい夢だな」
寝ぼけまなこで見慣れない天井を見ながら1人で呟く。こんな懐かしい夢を見る事になるなんて。やっぱり依頼を受けたせいか。
体を起こしてベッドに座り込んでぼーっとしていると、扉をノックする音が聞こえて来る。気配で誰かわかったので返事をすると、扉を開けて入って来たのはメルルだった。
メルルはにこにこと、尻尾は嬉しそうにぶんぶんと振りながら部屋の中へと入って来た。既に準備は出来ているようだ。
「今日もお願いします、師匠!」
「……何度も言うが師匠は止めろ。ほんの少し基本を教えているだけだろ?」
「それでも、私からしたら師匠は師匠です!」
にこにこぴこぴことするメルル。これ以上言っても変わらないな、これは。俺は軽く溜息を吐きながら立ち上がる。俺も準備をするか。
「メルル、先に行って体操をしていてくれ。俺は準備をしてから行く」
「わかりました!」
笑顔のまま走って部屋を出て行くメルル。何がそんなに嬉しいのだか。はぁ、どうしてこんな事になったんだっけな。
◇◇◇
「とある街まで護衛だと?」
「はい。それならメルルも別れる事なく一緒にタスクさんといられるでしょう?」
「さ、流石です、お母様!」
2人は何が嬉しいのかわからないがにこにこして耳をぴこぴこさせて微笑み合う。その光景は良いのだが
「待て待て待て。何を勝手に話を進めている。俺はそんなものを受けるつもりはない。それ以前に俺はFランクだぞ? そんな奴な護衛の依頼なんて受けられると思っているのか?」
「勿論、普通では無理でしょうけど、同伴という形ではいけると思います」
「同伴?」
「はい。まず、私たちが向かいたい街は以前から考えていてたのですけども、この街から馬車で3日ほど進んだところにある第9都市アニムルスに行きたいのです」
……成る程な。確かに獣人である彼女たちには今の状況ならとても行きたい場所だろう。
第9都市アニムルス。アルフレイド十二師団の1人、第9師団長で白狼の獣人であるデイガス・アルバンスが治る街。
この第9都市に限らず、他にも各師団長が治める街がある。アルフレイド王国の中心にある王都と他国との国境の中間の位置にあり、王都を円で囲うように作られた10の街が。
十二師団なのに何故10かというと第1師団長は王都で国王陛下の側に常にいなければならないため、治める街を持っていなくて、第2師団長は軍の大将軍も兼ねて王都にいるため、第1師団長と同じ様に無いのだ。
ただ、師団長は実力だけで選ばれた集団だ。中には政治に関しても有能な人もいたが、殆どが土地運営など知らない。中には読み書きも出来ない奴もいる。俺は昔に教わったから知っているが。
そのため、名前だけ使わせている様なもので、実質は国王陛下より任命された貴族が日々の運営を行っている。
その中で、今回メルシアさんが行きたいと行っている第9都市は他の都市に比べて獣人が多いので有名な都市だ。理由は簡単に師団長である獣人、デイガスが多種族に比べて獣人を優遇しているからだ。
あまり酷い差別はないが、他の街に比べたらデイガスが治める第9都市がかなり住みやすいはずだ。獣人の2人が行きたがるのもわかる。
「だけど、俺がついて行く必要はない。捕まっていた中には獣人もいる。そいつらと冒険者たちと一緒に行けば良いだろう?」
「……どうしてもダメですか?」
俺がそう言うと、メルルの耳はしゅんと垂れてしまい、悲しそうな表情をする。隣のメルシアさんも似た様な雰囲気だ。そんな表情されたら心が痛むが……。そんな2人を見ていたら
「良いじゃねえか、タスク。一緒に行ってやれ……ば……」
後ろから肩を組んでくるおっさん、グスタフがそんな事を言ってくる。しばきたい感情を抑えてグスタフに文句を言おうと思ったら、グスタフはメルシアさんを見ると固まってしまった。一体どうしたんだ?
訳もわからずグスタフを見ていたら、グスタフはしばらくじーっとメルシアさんの事を見てから、俺の腕を引っ張りやがる。何すんだよ。
グスタフはメルシアさんたちの席から少し離れた端の方で俺に肩を組んで内緒話をする様に耳元に顔を寄せてくる。厳つい顔を寄せてくるんじゃねえよ。
「おおおお、おいっ、あの綺麗なお方は誰だ!?」
「……メルシアさんの事かよ?」
「めめめ、メルシアさんって言うのか!? とても良いお名前だ! それで誰なんだ!?」
こ、こいつ、綺麗なメルシアさんに一目惚れしやがったな。そんながっつくなよ。引かれるぞ?
「……あの2人は親子で子爵のところの奴隷になっていたんだよ」
「あの人が、突然姿を見せなくなった母親か。話だけは知っていたんだが、初めて見る」
そしてグスタフはメルシアさんのところに行って何か色々と話し始めた。俺は物凄く嫌な予感がしたので、直ぐに向かうと
「まあ、それは本当ですか!?」
「ええ、私のパーティーにタスクも入れて、第9都市までの護衛を引き受けますよ。他にも同じところへ行きたいと言う者もいますからね」
こ、こいつ! 勝手に決めやがった! しかも、俺が反論する前にグスタフはフューリさんの元へと向かい、依頼を受注しやがった。俺の事まで話して。フューリさんは顔を輝かせてひょいひょいと手招く。
俺の心を表しているかの様にトボトボと歩いて向かうと、嬉しそうに笑うフューリさんと、すでに妄想に浸かっているグスタフが。
「ついに薬草採取以外の依頼を受ける事にしたんですね、タスクさん」
「い、いや、今回のはグスタフが勝手にやって」
「ですが、良い経験になると思いますよ? グスタフさんは何度も護衛の依頼を受けています。これからの為には良い勉強になると思います!」
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