王国最強の元暗殺者

やま

7.解放

 薬草さんに助けて貰った翌日。奴隷の私たちは、主人様のお父様である子爵様に呼ばれました。屋敷の中庭に集まると、私はある人を見つけて走り出します。


「お母様!」


「メルル!」


 他の奴隷さんたちに紛れて立っていたお母様でした! 私は勢い良くお母さまに抱きつくとお母様は私を抱き締めてくれます。良かったです! 良かったですぅ!


 お母様に会うのは何年振りでしょうか? 主人様たちに私たちが捕まって奴隷にされてからは会う事が出来なくて、屋敷に働く方から少し話を聞く事しか出来ませんでしたから。


 それからしばらくすると、屋敷の外から冒険者の方たちがやって来ました。それ同時に子爵様と主人様も。


「お前たちにここに集まって貰ったのは、お前たちを解放するためだ。おい」


「はい。皆様、私は冒険者ギルドの副ギルドマスターのフューリと申します。皆様、これから奴隷契約を解約しますので、こちらに来て下さい」


 子爵様たちの言葉に奴隷たちである私たちはざわつき始めます。お母様も不安そうな表情を浮かべていますが、大丈夫ですよお母様。薬草さんに私たちは助けてもらったのです!


 不安の方が優っている奴隷さんたちは誰もフューリさんの方へ向かおうとしません。急に解放すると言われても信じられないのでしょう。だから私が1番初めに行きます。こうなった理由を知っている私が。


 フューリさんの前に立って頭を下げると、微笑んでくれるフューリさん。そして隣にいる男の人が奴隷紋がある私の左手を取って魔法を発動。奴隷紋が少しずつ消えていって、跡形も無く消えてしまいました。


 その光景を見た奴隷さんたちはようやく子爵様が言っている事が本当だとわかったのか、フューリさんの前に順番に並びます。


 みんなが並び始めてから1時間ほどで全員の奴隷紋が解約されました。それから子爵様は


 ・1ヶ月の生活の保障


 ・故郷までの護衛の依頼料


 を約束してくれました。この事でようやく奴隷から解放されたのが現実だと実感したのか、皆さん抱き合って涙を流します。勿論お母様も。


 子爵様から解放された私たちはフューリさんの後をついて行きます。名前や故郷の場所の確認などをして保障などの約束を確実に履行するためだそうです。


 フューリさんを先頭に私たち奴隷だった人たちがいて、周りを囲む様に冒険者の方たちが囲みます。物凄く怪しい集団ですが、奴隷だった皆さんは皆笑顔です。


 これからの事もあり不安な事もありますが、それでも未来の無かった奴隷の頃に比べたら、今は希望に満ち溢れています!


 そんな事を思いながら目的の冒険者ギルドに辿り着いた時、どこからとも無く薬草の匂いが漂って来ます。この匂いを忘れるはずがありません。昨日体全身に浴びたのですから。


 私はギルドに入らずにその匂いの元を探すために街の中を走ります。後ろから私の名前を呼びながら追いかけて来るお母様。後で事情はお話ししますので!


 そしてしばらく走っていると、ようやく探していた方が見つかりました。あの黒髪は間違いありません。私は大きく息を吸って


「薬草さん!」


 と、叫びます。私の声が届いた薬草さんはゆっくりと振り返ってくれました。良かったぁ、また会えた!


 私は直ぐに話したい気持ちを抑えて息を整えます。何を言おうか全く考えていませんでした。でも自然と出て来た言葉が


「わ、私も連れて行ってください!」


「やだ」


 ◇◇◇


 翌日、いつも通りの時間に冒険者ギルドに行くと、物凄く人が少なかった。冒険者だけでなく従業員までもが。これは子爵のところに行っているのかな? 


 奴隷から解放したとしても直ぐに元の生活に戻れるわけじゃ無いからな。子爵が冒険者ギルドに頼んで手伝って貰っているのだろう。まさかそこまでするとは。それ程アイツが恐ろしいと見える。


 しかし、これは好都合だ。俺はギルドの中を一瞥して後にする。そのまま露店で軽く食べられるものを見つけては買って外に出るための門へと向かう。


 この街に俺がいると他の師団長に知られれば、絶対に兵士を向けられるからな。さっさと去った方が良いだろう。荷物はほとんどなく昨日のうちに準備は出来ているし。


 2年と結構な長い期間ここには滞在してたな。中々住みやすかった場所だった。俺は最後に街並みを眺めながら歩いていると


「薬草さん!」


 と、俺を呼ぶ声が聞こえる。振り返るとそこには狐少女が息を荒げて立っていた。屋敷からここまで走って来た様だ。


 その後ろには涼しげな顔で立っている狐少女をそのまま大きくした綺麗な女性が。この人が母親なのだろう。俺を見ると頭を下げて来た。


 その頭を下げる母親の隣で息を整えている狐少女は、何度か深呼吸をしてから真剣な顔で俺を見る。そして


「わ、私も連れて行ってください!」


「やだ」


「……」


「……」


 俺と狐少女の間に漂う沈黙。狐少女は口をパクパクとさせて何か言いたそうだが、次の言葉が出て来ない。


 急過ぎる展開について来れていない母親は俺と狐少女の顔を交互に見て、戸惑いの表情を浮かべるが、どうしたら良いのか困っている様だ。


 しかし、このまま道の真ん中で立ち止まる事も出来ないからとギルドへと戻る事になった。先ほどギルドへと行った時とは比べ物にならない程の人の数。冒険者と解放された奴隷が手続きのためにいるらしい。狐少女の母親、メルシアさんから聞いた。


 取り敢えずギルドの酒場に座って話す事に。事情が全くわからないメルシアさんに説明するために狐少女、メルルが昨日の事を話す。 


 時折俺の方を見るのはどこまで話して良いのかわからないからだろう。だから森の中で助けたところだけなら話しても良いと伝える。屋敷のことを話しても逆に信じられないだろうし。話すつもりも無いし。


「それは……メルルを助けて頂きありがとうございます」


「偶々見つけただけだ。気にするような事は無い。それじゃあ……」


 俺がそのまま立ち去ろうとすると、ガシッと腕を掴まれる。腕の先を見ると絶対に離さないとばかりに俺の腕を掴むメルルの姿があった。隣のメルシアさんは、あらあら、うふふ、と口に手をやって上品に笑っていたが、止めろよ。


「薬草さん、私も連れて行ってください! 恩返しがしたいんです!」


「そんなもんはいらん! とっとと離せ!」


 俺がいくら腕を振ろうとも離そうとしないメルル。良い加減周りの視線も鬱陶しくなって来たのでデコピンでもしてやろうかと思ったその時、メルシアさんが微笑みながら俺とメルルの腕を掴んだ。


「それなら、タスクさんに依頼をしたいと思います」


「依頼だと?」


「はい。とある街まで私たちを護衛してもらえないでしょうか?」

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